27、偽りのアイドルはスカウトされる

「え……?」


目が柔らかいものになる。

眉が細くなる。

髪の色が黒になる。


「ユメちゃんの顔……?」


『普通』『地味』の評価の顔が『可愛い』顔になっていた。

神に授かりし能力・ギフトの覚醒だった。


お母さんの雑誌のモデルさんの顔を浮かべると、モデルさんの顔になり、身長も伸びる。


「凄い……。これがギフトの力……」


人外の力。


それは幸せの象徴と呼ぶ者。

それは不幸の象徴と呼ぶ者。


私にとってギフトは『幸せの象徴』へとなった。


「お母さん!おばあちゃん!私、ギフト使えるようになったよ!」


自慢したかった。

私はこんなに可愛い顔になれるんだ。

だからギフトを見てもらいたくて、はしゃいで2人へ走って行った。


「ぎ、ギフトですって……。なんで星子にまでギフトが……」


でも、お母さんの反応は怯えていた。

なんで?

こんなに凄い力なんだよ?


「……ごめんなさい。お母さん、私……」


お母さんは泣きながら部屋に閉じ籠った。

居間におばあちゃんと私の2人きりになってしまう。

おばあちゃんは私の顔を見て、呆れたようなため息を出す。

その顔色には、失望も見える。


「星子、あなたの本当のお母さんは悪魔……、お父さんにギフトで殺害されたのよ」

「え……?」

「『相手を自殺させる』ギフト。それで、あなたのお父さんは3人もの人を殺したの……。

ギフト所持者で1番最初に殺人を犯したのがあなたのお父さんだったの。まだギフトが世に出てすぐだったからジャパンという国はギフト所持者の殺人という事実を隠蔽した。だから秘密裏にお父さんは既に処刑されたの」

「……」


私のお父さんはギフトの持ち主だった。

そして人殺しなのを知る。

そっか、私は人殺しの男と似た目付きをしているんだ。


でも関係ない。

私のギフトは顔や身長を変えられる程度。

人を殺すとか危ない能力じゃない。


お父さんはお父さん。

私は私だ。

ギフトを使ってはいけない理由にはならない。


「それでね、星子には1つ上の血の繋がったお兄ちゃんがいるの」

「おにい……ちゃん?」


本当に……?

私にお兄ちゃんが……?


嘘みたい。

ずっと諦めていたのに、本当にお兄ちゃんが私にいたなんて……。


「『明智秀頼』っていう名前なの。もしかしたら中学で一緒の学校になれるかもねぇ」


明智秀頼。

名字も違うし、私とは名前も全然違う。

顔も知らない人。


だけど、会ってみたいなぁという憧れが強かった。

早く中学生になりたいと思った。



まだ見ぬ、お兄ちゃんに憧れを持った。

どんな人かな?

優しいかな?

私のことを『可愛い』って言ってくれるかな?


会って、『私が妹だよ』って言ったらどんな反応するかな。

楽しみで楽しみで仕方ない。



お兄ちゃん。

明智秀頼に会ってみたい。






ーーーーー




あれから数日。

毎日どこまでギフトを使用できて、どこまでギフトを使用できないかの実験を繰り返していた。

あとはお母さんの雑誌、テレビ、インターネットを使い、たくさんの顔のパターンを頭に入れる。


制限時間も特にないみたいだ。

元の顔に戻りたい時は頭で念じるとすぐに細川星子の顔になれ


そして毎日お兄ちゃんのことを考える。

どんな人なんだろう?

優しい人だと良いな。

格好良い人かな?

そんなささやかな妄想をしながら、ワクワクを胸に、私は今日もギフトを使用する。


イメージとしてはベースをユメちゃんにする。

見た目の年齢は5歳くらい年上にして、身長も高くする。

胸も大きくして、最後に私の地毛の茶髪でもユメちゃんの黒髪でもなく、金髪に黒いメッシュを入れた風に顔を変えるギフトを使用する。


「あっ、……可愛い」


お化粧の使い方もよく知らないからすっぴんだけど、こんなに可愛い顔付きになれるんだ。

声も高くしようとか、低くしようなど調整することも可能だ。

『細川星子』の原型は全然ない。


今の私は細川星子ではない。

心だけが細川星子の別人。

それはとても不思議な感覚。


「星子……、それがギフトの力かい……?」

「ええ。私の顔でアイドルになれないなら顔を変えるだけよ」


アイドルたちはこぞって整形手術をしているとユメちゃんは言っていた。

そう、それは悪いものじゃないよ。

それがアイドルというもの。



お母さんの服を拝借した。

お化粧はしてないけど、クラスの誰よりも可愛い顔になった。

多分、クラスどころか小学校の誰よりも男子の視線を集められる姿だ。


私はそのままお母さんの靴を借りる。

靴のサイズがブカブカしたので、足のサイズも変更する。

本当にギフトってなんでもありなのを実感。


「行ってきまーす!」


細川星子ではない姿で街に出た。

道行く人が振り向く。

その実感を目の当たりにする。


あの人、私に振り返った。

さりげなく胸見てる。

あ、ちょっと赤くなった。


そんな男性の視線を受けるのが恥ずかしかったけど、同時に嬉しかった。

細川星子では何年経ってもできないことをギフト1つで叶える。

それは不思議な感触だ。


女性の視線も中にはある。


誰あれ!?有名人!?

うわっ、すっぴんであれ!?


そんな声も耳に届く。


ちょっと優越感に浸っていると、私とすれ違った女性から声をかけられた。


「ちょっと、あなた?時間良いかしら?」

「はい?」

「私、今スカウトみたいなことしてるんだけどアイドルに興味ない?」

「……え?」


派手なギャルみたいな女性から声を掛けられた。


「私の本職ではないんだけど、知り合いの頼みでね人を発掘しているの。遠野巫女よ。なんでもしている女よ」


遠野と名乗った人から名刺を渡される。

凄い、はじめて街に出ていきなりスカウトされた。


「アイドルになれますか……?アイドルになりたいです」

「君がアイドルになりたいと願うなら叶えるのがこっちの仕事よ」

「…………話を聞かせてください。名前は細川星子と言います」


私たちは、チェーン店のファミレスに寄り詳しい話をする流れになる。


「良いねぇ!ちょうど初々しい生娘な感じの子が欲しくてね!いやー、可愛くて気に入った気に入った」


遠野さんは笑って可愛いと言ってくれた。

凄い、本当にスカウトなんてあるんだ。

でも、ギフトの件を黙っているのが後ろめたかった。


ギフト持ちなら却下という流れになるかもしれない。

なら、引き返せる内に言ってしまおうと思った。


「実は遠野さん……。私、ギフトを使ってこの顔をしているんです」

「ギフト?」

「それでもアイドルになれますか?」

「……」


遠野さんはじろじろと私の顔に視線を送る。

頭、眉、目、鼻、口と上から順に見ていく。


「可愛いからOK!」


だいぶアバウトな人だった。


「私の妹にリーフチャイルドがいるのよ」

「り、リーフチャイルド!?」


超人気のアイドル歌手だ。

多分現在で23とか24歳くらいだったかな?

私もリーフチャイルドの動画や番組を見ていて憧れていたからわからないわけがない。


「彼女、本名が葉子だから英語にして『リーフチャイルド』だとか弟が決めたのよ」

「え?リーフチャイルドってそんなアバウトな名前なんですか?」

「そうよ。君は星子ちゃんでしょ。いっそ、スターチャイルドと名乗ってリーフチャイルドのリスペクトなアイドルにしちゃおうか」

「スターチャイルド……」

「おっと、話がいきなり飛んだね。今する話じゃないねこれ。でもビジネスな話の前にそういう話を聞かせてあげようかな」


遠野さんがスマホを取り出した。


「ちょっと個室の店に行こうか。ギフトの話とか他人に聞かれるの嫌でしょ?」

「わ、わかりました」


ギフトの話はあまり外でしない方が良い。

おばあちゃんの言葉もあったので、個室になるのはちょうど良かった。

それからすぐに移動し、遠野さんが弟を連れてくると言い、スマホで通話をしていた。

2人で個室で待っていると、10分くらいしてその男性はやって来た。


「どうも。そこの巫女の弟の遠野達裄です。説明はもらったみたいだけど、葉子……リーフチャイルドの実の兄です」


遠野達裄さんからも名刺を受け取った。

そしてスマホの写真にはたくさんのリーフチャイルドのオフの写真だったり、2人で写った写真があった。


「ヤバくないか?これ葉子がはじめてアイドル衣装を着た写真。こっちはその衣装をはじめて着てピースした写真。これはジャンプした瞬間の写真。こっちは……」

「はい。……はい」


あれもこれもと自慢気に嬉しそうにリーフチャイルドを語っていた。

正直、そんなに妹を語る?と驚くくらいに熱がこもっている。


「そして達裄はシスコンです」

「……え?」

「おいおい、人聞きの悪い真実を語るなよ」


愉快な姉弟だと思い笑った。

ただ、私のお兄ちゃんもこんな達裄さんみたいに自慢気に語ってくれる人が良いなとまだ見ぬ兄の姿を重ねた。

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