44、明智秀頼は逃げたい

転んだ男に乗っかり、腕を拘束する。

一応鍛えてはいるので、力負けをするなんて失態を犯すつもりはない。


「離せっ!離せ!?」

「…………」

「クソッ、クソッ!」


そうやって拘束をしていると髪の長い金髪の女性とサングラスをかけたスーツ男2人が駆け寄って来る。


「…………」


あれ、なんかヤバい人達の助けをしたんじゃね?


サングラスの2人が俺にお礼をして、ひったくり犯に手錠をしている。

……どう見ても警察じゃないですよね?


サングラスの人が俺に大きな箱を手渡してくる。

…………これあれですよね?

普通の人持ってるわけないよね?

刀?剣?


『悲しみの連鎖を断ち切り』にそういう武器持ちのキャラクターが居たしね。

なんかいきなり世界観が大きく広がったのを感じて泣きたくなる。

明智秀頼がリアル拳銃持って戦うルートあったもん……。

絶対そういう世界観になるのがわかっていた。


「少年、ありがとうね」

「は、はい……」


長い金髪をなびかせた女性は俺に握手を求めてくる。

俺は躊躇いながらその手を握る。


「私の武器ぶつを盗まれて困っていた。いやはや、大人3人もいて盗まれるのが嘆かわしいね」

「はぁ……」


武器ぶつとか怖い……。

永遠ちゃんの顔を見てめっちゃ癒されたい気分。


「彼のギフトは『どんなものでも盗む』ギフトだそうです。これより詳しい経緯などを調べてみます」

「わかった、連行しろ」


俺の捕まえたひったくり犯はそのままサングラス男に連れて行かれた。

もしかしたら俺のせいで殺されるのかもしれない……。

本当に申し訳ないと心で頭を100回くらい下げた。


「少年、名前は?」

「あ、明智秀頼です……」

「豊臣じゃないのか?光秀じゃないのか?」

「いえ、別人です」


前世の本名を呼ばれたけど全然嬉しくない。

というか関わり合いになりたくない。


「失礼した。私の名前はアイリーン・ファン・レーストだ」

「よろしくお願いします。アイリーンなんとかさん」

「ファン・レーストだ」


金髪で長い髪の大人の女性は多分20歳前後くらいだろうか。

強気な顔で、いかにも佇まいが武道を嗜んでいるのが同族なのでわかる。

声もとても強い声で、喋り方も演技なのか素なのかよくわからない捉えどころのなさが不気味だ。

しかし、声はなんとなく聞いたことがありそうな気がしないでもない。


アイリーンなんとかさんの名前を脳内検索をする。

結果ーー知らね。


『悲しみの連鎖を断ち切り』にそんなキャラクターは該当しなかったのである。

まぁ出会う街中で出会う人全員が原作キャラクターなわけがないもんな。


マスターとか谷川咲夜とかが良い例だ。


「どうした?私の顔をジロジロ見て?惚れたか少年?」

「惚れたとか言ったら付き合ってくれるの?」

「無いな、雑魚には興味ない」


アイリーンなんとかさんはわざとらしく手を振りながら冷たい声で言い放つ。

剣道なら負けない自信はあるけど、多分この人全体的に強い。

ギフトすら使わせてくれないかもしれない。


「さぁ、そろそろ帰るんだ少年」

「じゃあアイリーンなんとかさんのお言葉に甘えて帰るわ」

「ファン・レーストだ。お前からは私を怖がっている感じが見られないな」

「いやいや、なんとか・ファン・レーストさんを怖がり過ぎてチビりそうだ」

「アイリーンだ。……少年、君は面白い男だ」

「リアルでそんな事言う人いるんだ……。おもしれー女」


そんなことを真顔で言う彼女を見て、そういえばゲームの世界だったことを思い出す。

なんかさっきから変な空間過ぎて日常に戻りたかった。


回れ右をして、急いでデパートへ走って戻る。

俺が水着売り場から消えて1時間。

そろそろ俺が消えていることに気付かれているだろう。

アイリーンなんとかさんへ背中を向けて走り去る。

























「明智秀頼か……。底が見えん少年だ。何者だあいつは?」

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