40、十文字理沙はFPSで遊びたい

大型なゲーセンの中に3人で入り込む。

入り口からお菓子を掴むゲームが視界に広がる。


「凄いですよ兄さん、ゲームです!ゲーム!」

「ゲーセンだからね」

「見てください明智君、人です!人!」

「なんでも良いのか」


妙にハイな理沙であった。

タケルとゲーセン行くのは月1くらいの頻度だったが、まさか理沙が初ゲーセンとは知らなかった。


「ではでは、今日はゲーセンの楽しみ方を明智先生が教えてくれます」

「えー、本当ですかー!?明智せんせー!」

「ではお呼びしましょう!明智先生!」

「明智せんせー!」


兄妹ノリノリでなんかの動画の撮影みたいなテンションをしてくる。

息ぴったりで、シンクロしている。

このノリで俺に振るのはやめてほしい……。

とりあえず乗ってはおく。


「どもども、明智先生こと明智光秀です」

「本能寺の変!」

「最初に楽しんで遊ぶためにゲーセンですること。それは両替です」

「地味!光秀さん、めっちゃ地味や!」


理沙に突っ込まれ、タケルにケチを付けられる。

変なテンションの兄妹に付いていくのでやっとだった。

あと、光秀さんとか言われると前世の名前で複雑な心境になるからやめてほしい。

最初に明智光秀名乗ったのは俺だけど。


とりあえず1000円札を崩して、100円玉を10枚に両替する。


「1000円札あるとわーいってなるのに、100円玉になると複雑な心境になるね……」


理沙がじゃらじゃらになった1000円札だった成れの果ての姿を見て、素に戻っていた。


「うわぁ、凄い。30年前の100円玉」

「それ気にする?」


理沙の天然な面が色々見えてきた気がする。

やっぱり今まで理沙とだけ接する機会が少なかったと思わされる。


「明智君、行こう行こう」

「あぁ……」


キラキラした目になった理沙に連れられてゲーセンの奥側へと足を向けて行く。

向かった先は純粋なゲームだけで遊ぶコーナーである。

理沙はUFOキャッチャーやダーツよりも1番こういうところが好きなんだなと新しい一面を知る。


「これこれ、私こういうのやってみたかったの」

「へー、どんなゲームだ?」

「FPS!」

「…………」


ゾンビゲームの筐体の前に来てはしゃぐ理沙。

…………FPS?

対象年齢がとても低そうなこのゲームは、絶対FPSじゃない。

幼稚園児や小学生とかが親と一緒に楽しみそうなこのゲームがFPSなわけがない。


「最近凄い人気みたいじゃないですか!銃でオンラインのユーザーと戦うやつ!やっぱりゲーセンは凄いですね!FPSやりたいです!」

「銃でオンラインのユーザーと戦うやつ……?」


理沙が指しているのは間違いなくゾンビゲームであった。

このゾンビオンラインか?

どう考えてもオフラインゾンビなんだが……。


ギャルゲーやRPGやスマブラの知識しかないとはいえ、FPSはどういったゲームかは当然把握している。


オモチャの銃がゲームの筐体にぶっ刺さってる。

FPS!?

FPSってゲームのコントローラーで撃ち合うはず。

銃の型をしていて、引き金トリガーがボタンになっているこれではない。

絶対違う。


いつの間にかタケルも消えてるし、指摘する人が俺しかいない。


「や、やろうかFPS……」

「はい!明智君とFPSしたいです!」


負けた。

絵美に滑り台の間違った遊び方を訂正できなかった男だ。

あれからなんにも成長していなかった……。


ゲームの筐体がプリクラみたいになっていて、中へ入っていく。


「最近のFPSは凄いですね。ゲームの中に入れるなんて……」

「最近のは風とか水しぶきとかそういうのを直に楽しめる箱の形をしているんだ」

「映画の4DXみたいですね。へー、今のFPSはそこまで体感できるんだ」

「…………」


理沙はもはやFPSって単語を使いたいだけなんじゃないだろうか……?

今さらゾンビゲームだなんて口が裂けても言えないよ……。

そういえば理沙はゲーセンを口裂け女がいるところと勘違いしてたなとかどうでも良いことを思い出す。


……ところで、理沙の兄貴本気でどこ行った?

理沙からゲーセンの奥へ引っ張られた辺りから行方不明なんだが……。




































「違う、それFPSじゃない!ゾンビゲーム!……けどいけっ、理沙!もっと秀頼と仲良くなるんだ!お前が秀頼を落とすんだ」

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