39、十文字理沙はゲーセンに偏見を持つ

おそらく、絵美らが勉強会で勤しんでいた頃。

役立たず組は、3人でゲーセンに向かって歩いていた。


「ゲーセンなんてはじめてです……。わくわく、わくわく」

「なんだ理沙?お前ゲーセンとか行ったことないのか?」

「だって、先生が怖い人のたまり場だって脅すから……」

「キッズかよ」

「秀頼……、俺らもキッズなんだよ」


前世の記憶もあるせいで、自分の学年の年齢がまだ12~13歳という違和感がまだ抜けていなかった。

とっくに成人していてもおかしくないくらいに体験は色々と積んではいる。


「だいたい怖い人ってなんだよ?先生のボキャブラリーが曖昧過ぎるだろ」

「え?ゲーセンの怖い人って口裂け女とか花子さんとかがしゃどくろとか居るんじゃないですか……?」

「お化け屋敷じゃねーんだからさ」


本気で身震いをして反応する理沙に驚きである。

ゲーセン=カツアゲ、不良、チンピラってイメージする学校サイドも情報が古いのはゲームの中でも変わらないのかと突っ込みどころが満載だ。


「お前の妹って純粋だな」

「お前と違って穢れてないんだよ」

「誰が穢れてんだよ」


失礼なシスコン兄貴である。


「でもあれですよね。この3人で遊びに行くの新鮮ですね!」

「あぁ、理沙も秀頼のことをもっと色々知って欲しい」

「わかりました、兄さん」


理沙と俺の仲がそこまで親密ではないからか、そんな風にフォローを入れてくれるタケルは本当に優しい奴だと思う。

こんな優しい奴の気持ちを全部無下にする俺のキャラは本当に最低だ。

理沙ルートだとよくある十文字兄妹と俺という3人の構図だから新鮮さは全然感じられない。


しかもゲームだと理沙と秀頼の会話が結構多いからな。

そう考えるとゲームの俺と理沙の方が親密だった気もする。



ーーーーー



「兄さんは最近宮村さんとかと仲が良いんですよ」

「そりゃああれだ。タケルが宮村さんを狙ってんだよ」

「兄さんが宮村さんを……?」


秀頼が「あぁ」と真剣な顔で頷く。

心の中ではタケルのことなどどうでも良く、理沙の身体のことでいっぱいな本心を隠しつつ、どの様に彼女を誘導するのかを頭で幾通りものシチュエーションを考える。


「実際俺に対して『永遠に片思いをしているんだ』と先週相談された」

「え……?に、兄さんが……?」

「『毎日、永遠が『両親が心中した記憶』が忘れられなくて苦しんでいる姿に耐えられない。彼女の傷痕を俺が埋めてやりたい』……、真剣な顔してたな。ありゃあ間違いなくタケルは宮村さんにお熱を上げてるよ」


実際は『永遠ってなんであんなに苦しそうなんだろ?』と雑談程度にタケルが切り出した話題を、誇張して理沙の心に深く突き刺すように演技をする。


そもそも、十文字タケルから見た宮村永遠は『両親が心中して亡くなった事実』すら噂話程度にしか知らない仲である。

拗れる仲は拗れさせる。

歪められる情報は歪める。

それが明智秀頼という男のクズゲスな生き方だった。


「嫌……。そんなのやだ……。私、兄さんが1番好きなのに……。どうして兄さんは私を見てくれないの……?妹なのが、そんなにダメ……?」

「理沙ちゃん……。なら俺に相談しろよ!いくらでもタケルの相談に乗れるからさ」

「明智君……」

「俺にとってはタケルの妹は俺の妹みたいなもんよ。秀頼って呼んで良い。これから仲良くしていこうぜ」

「ありがとうございます、秀頼さん。頼りにさせていただきます」



ーーーーー



「…………」


変なイベントが頭に過った。

理沙ルートで『明智君』呼びが『秀頼さん』呼びに変わったシーンだ。


寝取る気満々で『こいつすげーな!』って秀頼にびっくりさせられるシーン。

好感度レベルを永遠ちゃんをやや高めにしながら、理沙ルートに突入した際に起こるイベント。


そのまま永遠ちゃんルートに突入したかったイベントだったのでなんとなく覚えてる。


結局永遠ちゃんに『理沙のために行ってあげて。ゴミクズから理沙を守るの!ファイト!』って背中を押してもらえるシーンが最高にエモい。

そしてタケルの背中を押した後、1人で息を殺して失恋で泣く永遠ちゃんのシーンはCGの一枚絵が完璧過ぎた。

理沙ルート派生で永遠攻略させろと思ったくらい輝くシーンである。


…………あれ!?

俺また永遠ちゃんにゴミクズ扱いされてる!?

ナチュラルゴミクズ扱いはメンタルにくる……。


「あっ!ゲームセンター見えてきました!」


理沙の嬉しそうで生き生きした声が響いた。

タケルを女性化させた様な顔の少女。

しかし、ユーザーから不人気でもやはりヒロイン。

絵にもなるし、可愛いなと思った。


彼女の元気なところ、常識的で真面目な子。

理沙も良い子だなって接していてよくわかる子である。

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