28、果たされないイベント
「おはようございます、明智さん!」
「おはよう、え……宮村さん」
土曜日、駅前の待ち合わせ場所で立っていると、永遠ちゃんから挨拶をされる。
ナチュラルに心の中で勝手に呼んでいる永遠ちゃんと呼んでしまいそうになる。
デート本を再現するように早めに着いて、永遠ちゃんを待っていた。
伸ばした薄紫の髪にリボンを巻き、清楚系なワンピースに身を包んだ服装に、制服にはない魅力がぐっと上がる。
オシャレなペンダントも身に付けており、美しい。
ありがとう『悲しみの連鎖を断ち切り』。
こんなクズゲスな悪役親友にこんなイベントを揃えてくれるなんて夢みたいです。
「とても、宮村さんに似合ってるね。イメージピッタリで驚いたよ。とても美人だね」
「え、えぇっ!?そ、そんな私なんて全然美人とか言われるほどじゃないですぅ……」
顔を赤くして、俺の身体を恥ずかしそうに揺らして上目遣いで見てくる永遠ちゃん。
こんなのデートじゃん!
付き合ってるとか勘違いしちゃうじゃん!
じゃん!じゃん!じゃん!
「明智さんの私服姿も格好良いです。私を守ってくれそうで素敵ですよ」
「そ、そうかな……」
素敵いただきました!
神様、ありがとうございます!
俺にギフトを配った黒幕の神様は殺すつもりですが、それでも神様ありがとう!
「宮村さん、マジ天使っす」
「ふふっ、明智さんって面白いよね」
面白いのニュアンスが『変な人だよね?』という意味にも聞こえるが、良い意味で都合解釈しちゃいます。
「ところで明智さん?」
「はい」
「わ、私も絵美とか十文字さんみたいに明智さんを下の名前で呼んでも良いですかね……?その、もっと仲良くなりたいです」
最初は絵美を佐々木さんと呼んでいたが、すぐに打ち解けて名前で呼び合うようになっていた永遠ちゃん。
絵美も、永遠と呼び捨てで呼んでいるみたいだ。
「好きに呼んでください。秀頼でも明智でもゴミクズでも好きにどうぞ」
「じゃあ秀頼さんでよろしくお願いします。ふふっ、秀頼さんって面白いよね」
秀頼って……!
秀頼って呼んでくれた!
原作では終始、明智さんかゴミクズ呼ばわりだった永遠ちゃんが明智秀頼を秀頼って呼んだ!
俺がゲームのプレイヤーなら『は?秀頼死ね』とか言ってディスク叩き割るところだが、俺が明智秀頼なら別。
悪くない体験じゃないか。
「わ、……私も好きに呼んで良いですよ?な、名前とかで呼んでくれたらなー、なんて……」
「エイエンちゃんを名前で呼んで良いの!?」
「え……エイエンちゃん……?」
「あ……」
やべっ、心で永遠ちゃんと呼んでいたのがつい口に出てしまう。
変な目で見られるから訂正しないと!
「
宮村永遠のファンの愛称でなんて説明はできない。
発売前のユーザーがトワじゃなくてエイエンと呼び間違えている人も多く、公式側でも1回間違ってしまいOP映像で読み仮名を『えいえん』と表記ミスしたせいで、一気に『
愛のある通称なのである。
「良いですよ」
「え?」
「秀頼さんからオリジナルのあだななんて嬉しい!エイエンって呼んでください」
「う、うん。ありがとう、エイエンちゃん……」
「ふふっ、秀頼さんって面白いよね」
永遠ちゃん……、めっちゃ失礼な感じに捉えても良いはずなのに笑って許可までしてくれた。
夢なのか、夢じゃないのか本気でわからなくなる。
「じゃあ、秀頼さん!街を案内して欲しいな」
「OK、やっていこう。最初はどんなとこ行きたい?」
「服買える店とか行きたいなー。秀頼さん、案内よろしくね」
「エイエンちゃん、マジ天使」
「ふふっ、秀頼さんって面白いよね」
俺がリードしながら絵美や理沙がよく行くお気に入りの店に案内していく。
服屋に案内する度にちょっと中に入って、物色して店を出るという形になっていた。
「本当に穴場っぽい店多いですね」
「ちょっとこの辺道多いからね。エイエンちゃんがまた場所わからないなら何回でも案内するよ」
「い、良いんですか!?」
「もちろん、大丈夫だよ」
「秀頼さん、マジ仏様」
「ははっ、エイエンちゃんって面白いよね」
俺の真似までして明るく笑ってくれるのが嬉しかった。
やっぱりヒロインの風格は凄いよ。
理沙もヒロインだけど、やっぱりタケルLOVEという色眼鏡があり、あんまりドキドキしない。
けど、永遠ちゃんはこんな底辺ゴミクズに対してもきちんと向き合ってくれてる感じがして嬉しいんだ。
「次はデパートを紹介するよ。服もたくさんあるし、食料品や本屋とか楽器とかたくさんあるからめっちゃ便利だよ」
「ありがとう、秀頼さん」
なにもかもを新鮮な反応を返してくれるので、色々なことまで紹介してしまう。
その横で、彼女の
「…………」
「どうかしましたか?秀頼さん?」
「いや、なんでもないよ。ごめん考え事してた。あっ、そうだ!この道通ると絶対ティッシュ配りしてるからティッシュ欲しい時にオススメなんだ」
「本当だ、これは地味に便利ですね」
永遠ちゃんの問題を解決する手段が俺にはない。
やっぱり、俺は主人公なんかじゃない悪役だ。
ヒロインの手助けになんか、なれるわけがないんだ……。
永遠ちゃんの横顔を見ながら考える。
そうだ、タケルじゃないと問題は解決できない。
そういうシナリオになっているんだ。
デパートに入り、目をワクワクと輝かせる永遠ちゃん。
守りたいこの笑顔。
俺には、彼女の手助けになれることすらできない……。
両親を殺害しなかったとしても、勉強を強制される父親の存在。
それが介入してきて、永遠ちゃんは鳥籠へ押し付けられる。
もう、おそらく時間がない。
友達に飢えている永遠ちゃん。
ようやく永遠ちゃんも絵美やタケルなどの友達が増えたんだ。
孤独にさせないには、俺はどうしたら良い?
俺の家の叔父さんみたいに、ギフトを使い意思をねじ曲げるしか方法がないのだろうか?
気乗りしねぇ……。
使う気はサラサラ無いけど、使う選択肢しかないならそうするしかない。
でも、それじゃあ真の意味で解決とは言えない。
永遠ちゃんもそんなインチキな結末を望むとは思えない。
ギフトの使用について考えていると、永遠ちゃんが足が止まる。
「ん?エイエンちゃん?どうしたの?」
「……水着」
「水着?」
デパートの水着が売られた一室で立ち止まっている。
そこには、マネキンが女性の水着を装着していて男の俺は目のやり場に困り、上の天井を見ていた。
「うん。どうしてだろう……?秀頼さんや絵美たちと揃ってプールに行きたいなって……」
「エイエンちゃん、泣いてるよ」
「え?なんで……」
永遠ちゃんにハンカチを渡すと、目元の涙を拭いていく。
その様子を黙って見ていた。
「どうして、こんなにみんなでプールに行きたいって思うんだろう……?おかしいな……。1回もプールに行こうなんて話なんかしたことないのに後悔だけが残ってる……。あの約束、どこに消えたのかな……?」
「…………」
原作の記憶がある、のか……?
津軽円らに連れられてみんなと水着を買いに行く永遠ちゃん本編前のエピソード。
しかし、父親の介入により水着は破かれる。
それを悲しんだ弱みに秀頼が付け入り彼女の両親を殺害する。
結局果たされないプールイベント。
ユーザーからも、『ギャルゲーのクセして永遠ちゃん水着CGないとかバカにしてんの?』『店舗特典で水着着てるからセーフ』とか色々言われていたから俺も印象にある。
結局、永遠ルートでは1回もプールへ行くイベントがないのだから。
「ごめんね、秀頼さん。変な姿見せちゃった。行こっ」
「……あぁ」
「…………」
永遠ちゃんはそそくさと水着売り場から離れて行く。
俺も彼女に着いて行く。
楽しかったデートも、いつの間にかギクシャクしはじめてきた。
†
永遠と書いてトワとかエイエンが入り交じっているので解説。
秀頼目線の地の文では永遠ちゃんと表記されていますが、実際には心の中でもエイエンちゃんと呼んでます。
口に出す時はエイエン、地の文では永遠表記。
秀頼以外のキャラクターが永遠と描いてある際は、トワ呼びをしてます。
現在のところ、エイエンちゃん呼びをするのは秀頼のみ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます