26、宮村永遠が誘ってくる

昼休み。

教室から出て廊下を歩き、図書室でも行こうとしていた時だった。


「あ、あ、明智さん!」

「ん?」


後ろから聞き覚えのある声に振り向くと、伸ばした薄紫の髪をなびかせた女性が立っていた。


「み、宮村さん!?ど、どうかしたかな?」

「あ、あのっ……。その……、今週の土曜日なんですけどお時間空いてますか!?」

「土曜日?あぁ、部活もしてないしな。暇だよ」

「っ……!わ、私に街を案内してくれませんか… …?まだあんまり駅前とかよくわからなくて……、良かったらですが」

「い、良いよ!うん、土曜日楽しみにしてる」


嘘……!?

え、え、え、永遠ちゃんからお誘いを受けた。

そんなことがあって良いのか……?


いや、待て。

原作で、友達がいなくて誰かに絡んで欲しくて悩んでいた時に最初に声をかけた秀頼に好感がややあったみたいな描写があったはずだ。

結局、タケルに恋愛対象は移るとはいえ、今の俺は自惚れも混ぜて好感度1~10くらいはあるはずだ(マックス1000と仮定)。


「ありがとうございます!明智さん!わ、私も楽しみにしてます。誘い受けてくれて嬉しいです」


にかっと明るい笑顔を俺に見せてくる。

俺の汚い心も浄化されるようだ。


流石、みんなに優しい優等生永遠ちゃん。

俺みたいなゴミクズ(未来の永遠ちゃん談)に対しても一定の優しさを見せてくれるとか天使かな?

そのまま、待ち合わせ時間と待ち合わせ場所について数回言葉のやり取りをする。


童貞を勘違いさせる系女だ!

最高過ぎる!


両親死亡後の壊れた原作の痛々しい永遠ちゃんを知っているからこそ、この笑顔は尊いものなのを俺は知っている。


「お引き止めしちゃてごめんなさい。それでは失礼します」


頭をペコリと下げながら永遠ちゃんは消えていく。

どうせすることがないからこのまま昼休みが終わるまで雑談していても良かったのだが、やはり嫌われているのか距離を置かれているのかの理由で3分程度の雑談で打ち切りになった。


それでも永遠ちゃんとお出掛けかー。

来栖さんとカラオケに行ったことを思い出す。


あれ?

あれ、あれ?

つまるところ、これつまるところデートと呼んでも差し支えはないのではないか?

男女でデートなんて都市伝説かなんかだと思っていた。


「うおおお、マジか!?マジかー!」


永遠ちゃんはデートなんて思わないかもしれないけど、俺はデート!

デートと呼ばせていただきます!


上の空になりながら俺は図書室へとむかう。


原作である『悲しみの連鎖を断ち切り』スタート時は永遠ちゃんもドン底だった。


不幸と幸せ。

その表情の落差は、ハッキリ言ってギャルゲーの歴史でもトップとして名が上がりやすい。



ーーーーー



「よぉ、こんにちは宮村!俺たちまた一緒のクラスだなよろしく!」

「……誰でしたっけ?」

「十文字タケル。中学で1年の時同じだったろ」

「……記憶にございません。すいません、勉強の邪魔です」

「いつも勉強してるよなー、そんなに勉強好きか?」

「勉強しないと。私は勉強しないと価値がないから。勉強しないと、勉強勉強勉強勉強勉強勉強勉強。だから邪魔です」



ーーーーー



勉強をしなかったから両親が死んだと思い込み、取り憑かれたみたいに勉強に依存する死んだ魚みたいなハイライトの消えた目の永遠ちゃん。

ぶつぶつと呟きながら鉛筆を動かす永遠ちゃんの姿があまりに痛々しい。


俺は肩を壊され剣道ができなくなった過去があり、その経験を永遠ちゃんと重ねてしまい共感できるキャラクターでどっぷりはまった。


しかも、クズな秀頼は永遠ちゃんから友達の記憶をすべて消してしまい、孤独で勉強にしかすがり付けない鳥籠かぞくが壊された少女としてゲームに関わってくる。


本当に曇ったヒロインの顔を出すのが好きな悪趣味なゲームである。

それもこれも、ゲームメーカー『スカイブルー』のメインプロデューサーでありながらシナリオライターを務めた桜祭とかいう真の悪魔のせいである。

恨むぜ、桜祭の野郎……。

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