17、谷川咲夜は曇る
ーーガシャーン。
目の前でガラスが割れた。
その破片の1つがウチの頬を裂く。
「見付けた、谷川咲夜ちゃんって君だよね?」
「ふ、ふざけるなよ貴様!?ここはマスターの車だぞ!?おい、このチビ女、聞いているのか!?」
「わたしが最初に質問したんだけどなぁ」
「ぐっ……!?」
割れた窓へ手を伸ばし車の鍵を開けてくる女。
深夜、親戚の子供と会いに行くというマスターを車で待っていただけなのに、どうしてこんな恐怖体験をしなくてはいけないのか……?
「た、たすけて……、マスター……」
「ちょっとうざいなぁ」
「っ!?」
首を右手で抑えられる。
理解が追い付かない。
この初対面の女は誰なのか……?
殺されるのか?
バタバタと抵抗するも女は全然怯まない。
「少し、黙ってなさい」
「がっ……!?」
ストレートに飛んできた拳が頬にめり込んだ。
深夜、車に悪魔が乗り込んできた。
ーーーーー
「う、うわぁぁぁぁ!?」
「落ち着いて咲夜!」
「お、……お父さん……?」
「カップ落としちゃったんだね……。大丈夫、あいつらはいないから……」
そう言って慰めるように抱き締めるお父さん。
心が落ち着いてきて、フラッシュバックも消えていく。
それを見届けるとウチが落として壊れたコーヒーカップの大きい破片を処分し出す。
「物が割れる音にトラウマを持っちゃったんだね……。少し休んでいなさい」
「……ごめん」
マスターとかつて呼んでいたこの男の人を現在はお父さんと呼んでいる。
それが普通なのかもしれない。
でも、マスターって呼び方が好きでずっと父親をそうやって呼んでいた。
でも、あの日マスターと助けを呼びながら栗色のツインテール女に殴られ、茶髪の目付きの悪い男に胸を触られたトラウマも残り、マスターという単語を口にする度に悪魔を思い出してマスターという呼び方を封印した。
その日以降、お父さんとウチとの仲もギクシャクしていた。
友達もお母さんもいなかったけど、マスターがいるだけで幸せだった。
そんな日々はあの悪魔らによって、唐突に終わりを告げたのだった。
ギフトに対して抱いていた憧れ・希望。
ギフト関連の仕事に付きたいと描いていた将来。
全てがギフト被害者になったことで、ギフトを憎悪する立場になっていた。
多分、ギフト所持者に助けられたとしても、その考えはひっくり返ることはもうないだろうなと自分でも思っている。
そのまま、通って勉強して帰るだけという小学校生活も終わった。
全然友達ができない6年だったけど、中学ではなにか変わるかもしれない。
そんな希望を持って、新しい制服に身を包み、学校に向かった。
「な……んでっ!?」
学校の校門で視界にすら入れたくなかったゴミ共の姿を発見した。
男女5人で仲良さそうに会話をしていた。
その内の2人。
栗色のツインテールを揺らす目元に黒子がある女。
目付きが悪く、下品な笑いを浮かべる男。
女を見て、胃にある全てを吐き出しそうになる。
男を見て、全身に鳥肌が立ちガクガク震えだす。
嫌だ……、こんな奴らと同じ学校になんか……。
なんで、どうしてこんなことに。
真っ白な頭を悩ませても意味はない。
でも、悩ませずにはいられなかった。
動けなくなっていると、男が振り替える。
完全にウチを視界に入れた。
そして、口を三日月の形にして笑い、口を開く。
『お・き・の・ど・く・に』
『ざ・ん・ね・ん・で・し・た』
口パクでそう伝えて、男はグループ全員で校内へ入っていく。
姿が見えなくなったことで、ようやく身体が動けるようになった。
お父さんの姉が引き取っていた悪魔・明智秀頼であった。
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