6、スターチャイルド

「どうしても明智君にしか相談できないことがあるのっ!」

「それでわざわざ家に来たのか……」


今日、理沙が突然来客として現れた。

タケルか、絵美と一緒に来ることはあるのだが、理沙オンリーということははじめてだ。


間に誰かいないとあんまり会話しない俺と理沙は友達というかは非常に微妙なラインにも思える。


「こう、なんていいますか……、兄さんと共通の話題が欲しいのです」

「共通の話題?どうしてまた急に?」

「最近兄さんがあんまり構ってくれないんです!それをなんとか解消したいんですよ明智君!」

「……あぁ、そう。そうなんだ……」

「私と兄さんで趣味がズレてる感じがしてですね……」


つまりただのブラコンの相談だった。

モテモテなようで羨ましいギャルゲー主人公な兄貴である。


「それで親友の明智君なら兄さんのことに詳しいと思って」

「なるほどな!」


タケルとは確かに話題が合う気はする。

しかし、それはなんだと聞かれると難しい。


「そうだな……。趣味が合いすぎて逆に何を紹介したら良いかわからない。なんかお題をくれ」

「そうでうね……。では、兄さんが好きな本とかあったら教えて欲しいです」

「なるほど。刮目せよ!タケルが好きな本はこれだ!」


理沙の手元に本を渡す。

彼女は覗き込む様に本の表紙を見る。


「えーっと、『Gカップ魅惑の悪魔ボディ!沢村ヤマの休日の過ごし方』か。面白いんですかこれ?」

「読めばわかるよ」

「わかりました、読んでみます」


そして1ページ開く理沙。


「うわっ、うわわわっ!?」

「どうだ?兄貴が好きな世界は?」

「こ、こんなのおか、しい……。うわわわっ」

「初々しいなぁ……」


絵美に見せると捨てられそうになるが、理沙の反応は真面目にきちんと読むという反応を見せる。

5分くらいして、本を閉じる。

理沙の顔はトマトみたいに真っ赤であった。


「もう……、限界です。沢村ヤマ、凄い……」

「あぁ、沢村ヤマは凄いぞ」

「それにデカい……」

「あぁ、沢村ヤマはデカいぞ」


マスター、叔父さんと両方の中年の心を掴み、俺とタケルという少年の心をも掴む。

それが沢村ヤマである。


「……って、こんなので兄さんと語り合いたくありませんッ!?これ明らかにそういう人じゃないですか!」

「そういう人だよ。何も間違ってねーよ!」

「凄い、まるで私が間違っているみたいだ……」


タケルお気に入りの本を片付ける。

じゃあどうしようかと色々考えていくと、理沙が好きそうなものを思い付く。


「じゃあDVDで!兄さんと共通の話題になれるDVDとか紹介してください!」

「これなんかどうだ?」


理沙に近くにあった俺とタケルのお気に入りDVDを手渡す。


「えーっと『最強のHカップ旅行記。沢村ヤマの温泉旅めぐり』……。また沢村ヤマじゃないですか!さっきGカップじゃなかったですか!?盛ってるじゃないですか!」

「成長したんだろ」

「純粋か!そんな簡単に胸は膨らまねーよ!」

「いやだ、知りたくない!そんな事実!」


沢村ヤマは却下された……。

マスターが聞いたら嘆きそうである。


「もっと、こう……、健全な。全年齢対応のスマブラみたいなやつ」

「じゃあ健全にこの子なんてどうだ?」

「また女の子ですか……。そういうのじゃなくてですね……」

「いや、今回は至って真面目だから。『スターチャイルド』っていうアイドルが俺とタケルで猛烈に推してるのよ」

「スターチャイルド?」

「最近デビューした新人アイドルだ。俺らより年下なのにスゲー可愛くて踊れる完璧な存在。公式ファンクラブ会員ナンバー10が俺で、タケルが11なんだ。これ、絶対バズるから」


スターチャイルド。

『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズに登場はしない。

……が、『悲しみの連鎖を断ち切り』シリーズを手掛けるスカイブルーというゲーム会社は、違う作品でも世界観は共通しているという特徴がある。


作品によってはギフト能力の設定も使われる時もある。

パロディネタや、本編ネタを差し込むことも多い。


そんな話は置いておき、そのスカイブルーでの他作品にはスターチャイルドというアイドルキャラクターが大人気になっている作品も存在する。

つまり、大ヒットするのが決まっているアイドル。


その彼女の歌、世界観、空気、オーラ、迫力すべて俺とタケルにドストレートに入ったのだ。

アイドル・スターチャイルドは、定められた未来のスターなのである。


「この、曲とライブ映像をじっくり見ていて欲しい」


DVDをセットするとスターチャイルドのライブが流れだす。

その辺のなんちゃってアイドルより、100倍以上美人で可愛いスターチャイルドのダンスが披露された。

約2時間、そんなスターチャイルドの尊い映像に酔いしれて俺は魅入った。
























「あ、明智君……」

「どうした?」

「スターチャイルド私も推す!どこで公式ファンクラブのメンバーになれるのっ!?」


こうして、理沙をスターチャイルドの魅力に取り付かせて、ファンへと成長させた。

俺、タケル、理沙だけの共通の話題が、今ここに生まれたのである。

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