5、タペストリー事件

ある日、俺は用事と私用のためにマスターが営む喫茶店へ足を運ぶ。


「いらっしゃい!秀頼君じゃないか」

「おっす、マスター」

「中学生は成長が早いね。そろそろ僕の身長を超しそうだねー」


成長期に入り、身長が伸びてきた感じは凄いする。

明智秀頼は、顔や身体付きだけは色男だからな。

ゲームの彼は中身がダメダメで、すべてが台無しだ。


「入学式も見たよー。残念ながら咲夜は君と違うクラスだって落ち込んでたけど」

「こればっかりは俺らは干渉できないっすからね。…………ところでなんで咲夜が違うクラスで落ち込むんだ?店来れば会えるだろ?」

「はぁ……。君は姉貴の言う通りすけこましだよ」

「は?」


マスターがため息を付きながらコーヒーを作り始めた。

最近は注文しなくてもエスプレッソということがわかっている。


「娘から10年20年かけてもコーヒーを美味しいって言わせるって宣言されておいてさぁ……」

「ははっ、親戚っすからね。切っても切れない縁っす」

「君さ、刺されて死んでも知らないよ……」

「え?嘘!?俺、死にそう!?」


マスターから原作を予知した言葉を吐き出され心配してくる。

やっぱりクズゲスな悪役親友は死ぬのが役割なんだろうか……?


「このままの君なら、死ぬよね……」


俺を見てため息を吐きながら目の前にコーヒーが置かれる。

お礼を言ってそのままコーヒーを口に含む。


「うーん……。もっと防御力を鍛えるか」

「そういう問題じゃないよ!」


マスターから突っ込みを入れられて、「もういいや」と少し見放された感じになる。


「そういえばマスター、おばさんがこないだ結婚記念日で叔父さんと2人で京都行ってきたんだ」

「あー、そういえば君留守番するとか言ってたね」

「んで、おばさんからお土産。いつも俺にコーヒー奢ってくれる礼もあるって」


京都のお土産の紙袋を渡すとマスターも嬉しそうに「なんだなんだ?」と中を覗き込む。


「…………何これ?」

「変なタペストリー」

「1番嬉しくないし、反応に困るお土産だなこれ!」

「別に良いじゃん。これ3万したって言ってたよ。その辺に飾っとけば良いじゃん」

「たけぇ……、バカじゃないのあの人……。店の雰囲気合わないでしょ」


もはや粗大ゴミみたいな扱いをされるタペストリーであった……。


「秀頼君もタペストリーもらったの?」

「いや?あんことかゴマとか色んな味する八ツ橋」

「僕もそっちのが良かったよ!」


お土産にケチ付けるマスター。

それは俺じゃなくておばさんに言って欲しい。


「おばさんも可哀想に。3万の高級タペストリーが粗大ゴミ扱いされてさ……。娘にあげれば良いじゃん。喜ぶぞーきっと」

「娘だってもうなんでも与えれば喜ぶ年じゃないんだよ。秀頼君がもらえば良いじゃねーか」

「要らねーよ、そんな粗大ゴミ」

「君だって粗大ゴミ扱いしてるじゃないか!」


タペストリーの押し付け合いになる。

そんな不毛な争いの中、マスターが『じゃんけんで負けた方が貰おう』と提案。

結果、俺が負けた。


「要らねー」

「姉貴に言えよ」


タペストリーをどうしようか迷っていると、そこへ来客がやって来た。

というか、咲夜だった。

彼女は俺の存在を確認するとノコノコ近付いてきた。


「む?貴様、またここに入り浸ってたのか」

「相変わらずご挨拶だな。いらっしゃいませくらい言えんのか?」

「いらっしゃいませ」

「言えたよこの子!?」


はじめて店員みたいなことをサラッと言われて驚愕した。

大丈夫か?

この咲夜、偽物かなんかじゃないか?


「おい、マスター!今度、友達が店来たいって言った!連れて来て良いか!?」

「え?咲夜に友達?……友達!?」

「なんであんたが驚くんだよ!?」


マスターが『この世の終わりみたいな顔』をしていた。

汗もダラダラかきはじめた。


「取り乱した。咲夜は今までこんな性格だからね。小学生の間はずっとボッチだったんだ」

「ボッチだぜー、友達1人でした」

「なんで自慢気……?逆に1人目の友達が気になるわ!」


確かに貴様とかキッズとか素で言う子は嫌われるよなぁ……。

というか性格も悪いし、内気なところあるし……。

咲夜の友達は大変だったと思う。


「ここに」

「何が?」

「ウチの友達は秀頼だけだった。秀頼が特別」

「……はぁ」


俺が友達?

友達みたいなことしてたのか?

普通に会話をしてただけだったけど友達扱いされていたのか……。


「暴言ばっかりだから嫌われてるんだと思ったよ……」

「それは……、個人的な感想だ」

「個人的な感想って言えばなんでも許されると思うなよ」


なんか都合の良い奴扱いの様な気がする……。


「わかった、良いよ。連れて来ると良い。何ちゃんと友達になったんだい?」

「理沙と円と絵美とタケルだ」

「俺の知人ばっかじゃねーか」

「秀頼のおかげで友達できた。ありがと」

「あ、あぁ……」


調子が狂うなぁ……。


「照れてる照れてる」

「うるせっ、仕事しろ」

「してますよー」


マスターがニヤニヤと俺を見てきて居心地が悪い。

だから客があんまり居ないんだ。

そうに違いない。


「ところで秀頼?それはなんだ?」

「それ?……あぁ、粗大ゴ……タペストリーだ」

「もはやタペストリーと認識してないじゃないか……」


無駄に大きいし、デザインも民芸品っぽくてなんかダサイ。

おばさんのお土産の意図が不明過ぎた。


「そうだ、咲夜!これいる?」

「押し付けたな……」

「貴様、なんだこれは!?趣味の悪いタペストリーだな」

「俺からのプレゼントだ。君に特別に差し上げよう」

「ありがとう!マスター、プレゼントを秀頼から授かったぞ!部屋に飾り付けてくるっ!」


ドタバタと喫茶店の2階へとはしゃぎながら消えていく咲夜。

俺とマスターが呆然として咲夜の背中を見送った。


「おばさん、まさか咲夜の好みに合わせて!?凄すぎるぜ、姉貴……」

「なんで君まで姉貴って言うのさ……。というか多分……」

「多分?」

「すけこましだねぇ……」

「どうしたんだ急に?」

「末永く娘と仲良くして欲しいって言ってんの!」

「?」


初対面時より、俺に優しくなっているマスター。

それだけ俺と仲良くなっているのかなと思う。

部屋から戻った咲夜は不自然なくらいニコニコだった。

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