ミカン

本誠

病室 

一人の死に絶えそうな、一人の作家が皮を剥いてと言った。恋人がミカンを剥き終わったとき、その人の人としての皮が剥けた。

恋人は悲しさの皮に包まれた。そのことを悟って。だからある人は、不意にミカンをその人の膝上の側に落としたのだ。

その人の膝上には、ひとりの作家の震えた手で書いた小説原稿の束があった。その側にミカンがある。まるでその作品はミカンだと指し示すかのようだ。

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ミカン 本誠 @Majw

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