メイド長リリス型


 イザナミさんが、

「ではグレモリイさん、試験航海の場所だけど、サミジナが預かるウェヌス宇宙の先にある未踏宇宙なのよ、実を言うとね、変な通信をサミジナ艦隊のヘルメス級が受信したのよ、これから云うことは一応『部外秘』よ」


「知っての通り、サミジナの旗艦『ネクロマンシー』号は『公爵夫人の宝冠』号同様ボロボロでね、戦闘指揮艦ヘルメス級が艦隊旗艦を代行していたのよ」

「きわめて微弱な通信で、当初ゴースト電波と思われたのだけどね、男性体のものらしいのよ、自らを『御使い』と称していたのよね」


「御使いですか……」

 

「そう、御使いという以上は男性体の権天使(アルケー)と思われるわ」

「いまのネットワークなら男性体ぐらいなんてこともない、貴女たちヨミミリタリーなら、イザナギの軍団など鎧袖一触(がいしゅういっしょく)、何の問題もないのだけど……」

「リリスという名前が出たのよね」


「リリス……」

 リリスとは、ヨミたちがまだテラで男性体と仲良くしていた四万年前、新たに来た女性体のメイド型アンドロイドの最後の一体、その後イザナミの配下としてメイド長になっていました。


「しかしリリス様はイザナミ様の命令で、『眷属』を引き連れアスラ族女性体を探しにいかれ、消息を絶たれて……」

「そうね、『男性体と戦闘中』との通信が最後だったのですが……」

 イザナミさんが遠くを見るような目をして答えました。


「たしか戦没されておられると……イザナギと戦いになったと、皆思っておりました」


「でもヒルコさん、つまりエーギルの例があるでしょう?」

 イシスさんがイザナミさんの代わりに答えます。


「それは……リリス様の能力はイザナミ様でもご存じないかと……」

「マレーネさんも知らなかったようですが、シウテクトリさんが知っていたのです」


 当時のアスラ族女性体のメイド型アンドロイドには、リリス型と呼ばれた簡易的な自己補修能力がつけられてた形式があった……

 故障しても自力で修理して、主への奉仕に支障をきたさぬように……


 その自己補修能力とは、関節にあたる部分に細い紐みたいな触手状の自動機械があり、例えば足が故障したとすれば、その残骸に触手が絡み動かすようです。

 たとえ身体が消滅して首だけとなっても、首の関節からの触手が手足のように動き、メイドの仕事を行うというものです。


「シウテクトリさんがいうには、この機能があるメイド型アンドロイドはリリス型と呼ばれて試験的に製造されたとか……全部で三体、そのうちの二体はその後改装されて、普通のメイド型になったとか」

「リリス型の自己補修能力は非常に信頼性があったのですが、かなり高価な割には能力としてはいささか心もとない、ということで打ち切りになったそうなの」


「四万年の間、何らかのエネルギーを得て存続していたのでしょう」

「推測ですが、戻れなかったということは、首だけになっても何かを守るために男性体と戦っていたのではと思われます」


「とにかく試験航海の行きがけの駄賃として、御使いどもを蹴散らして下さい」

「試験には戦闘も含まれますけどね、大丈夫よね♪」


「お任せ下さい!私はリリス様にはお会いしたことはありませんが、ともにイザナミ様の配下、力を尽くします」


 イシスさんとイザナミさんが退艦して、マレーネさんが通信で、

「標準型ステーション拡張オプションを改良した『警備ステーション』四隻が貴官たちの船を該当宇宙に運ぶ」


 警備ステーションとは、標準型ステーション拡張オプションを改良、球形でホモサピエンス用の居住エリアは半分になっています。

 あいた場所には強力な牽引ビーム装置を搭載しており、回廊機能以外にも、この牽引ビームで互いに固定できるのです。

 また動力炉も改良されており、四隻分の動力炉を同調させれば宇宙を渡れるのです。


 ゼノビアさんからも、

「現在、該当宇宙とウェヌス宇宙とのワームホールを特定したので、レイルロードを通す準備をしている」

「簡易鉄道は完成したばかりだが、貴官たちの船は未踏査宇宙側のワームポイントステーション予定地点に運ばれる予定である」

「未踏査宇宙側のワームポイントステーションの防衛として、貴官の船で防衛戦隊を製造して配置していただけると助かる」


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