あの光を覚えてる
空草 うつを
走り書き
『海が光るって知ってた?』
ノートの切れはしに走り書きされた文言を、ミズキは気づかれないようにこっそり盗み見た。ちょうど地学の教師が、今日の夜は七つの惑星を拝むことができると熱弁をしている時だった。
切れはしの内容を見たミズキは、隣の席に視線を移す。それに気がついた
小学校から高校まで一緒に過ごしてきたというだけある。好奇心旺盛で珍しいものに目がないミズキの性格を、秀哉は熟知している。もちろん、ミズキは何度も頷いて答える。
秀哉から受け取った切れはしの隙間に、『ちゃんと授業聞きなさいよ』とペンを走らせて教師の隙をついて秀哉の机に放り投げた。
それを見るや、秀哉は不服そうに口を尖らせてミズキを睨みつける。再び何かを書き殴ったかと思うと、くしゃくしゃに丸めてミズキの顔めがけて投げつけた。
「痛っ」
丸められた切れはしは見事額に命中し、ミズキは衝撃と驚きで思わず声をあげていた。
「何している? 授業中だぞ」
話の骨を折られた教師が鬼の形相でミズキに注意した。素直に謝罪した後、秀哉をありったけの恨みをこめて睨むと、両手を顔の前で合わせて謝る仕草をしてきた。
今日の授業が全て終わり、帰りのホームルームの時間になった。担任の教師が生徒の前に立つと同時に、ミズキもその隣に立つ。クラス中の生徒の顔がミズキに注目し、気恥ずかしさと悲壮感でうつむいてしまった。
クラスメイトは、既に泣き出す者もいれば悲しげにうなだれる者、興味などないふりをして強がる者など様々な表情でこの静寂の時間を耐えていた。
「皆さんも知っていると思いますが、今日をもって
クラス中から、すすり泣きと盛大な拍手がミズキにふり注いだ。見知らぬ土地へ向かうミズキへの応援と別れを惜しむように。ひとり、ぶさくれた表情でかったるく手をうちならす秀哉を除いて。
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