翼《よく》とドラゴンの物語

 翼とドラゴンの5メートルの冒険

 「ボクの名前はよくです!3才です!

 誕生日にじいじとばあばに雨がっぱと長靴をもらったんだぁ。

 これからミカコさんと雨を探しに行くんだよ!

約束してるんだ!」


少し赤茶の髪の毛と大きなお目々がくりくりとした、とっても元気な男の子のよくは、リビングのベンチに膝立ちで足をバタつかせて、外を見ながらママのミカコさんの支度が終わるのを待っていました。


リビングの窓から外を見ていると、青い空に灰色の雲が見えています。

よくは、急いでクローゼットに行き、ガサガサと目当てのものを探します。


 見つけたのはアマガエル色のレインポンチョ。

ハンガーから引っ張って外し、頭からスポッとかぶり、ポンチョから顔を出すと、玄関へと走ります。

 玄関にはレインポンチョとおそろいのアマガエル色の長靴が揃えてあります。

 よくはママのミカコさんを待ちきれずに、長靴を履いて、外に出ていってしまいました。


その様子を近くで見ていた者が、

「イヤイヤイヤ〜、ちょっと待ちなさいよ〜。ミカコさんを忘れてますよ〜!3歳児の行動力は早いな〜。」

 あまり慌ててないような口調でつぶやきながら、よくを追いかけます。


「あ、みなさま、初めまして。

 わたくし、よくのガーディアンをしております、ドラゴンのあかと申します。

 ある事情で今はよくのガーディアンをしております。わたくしの姿が見えるのはパパの竜星さんとよくだけなのですよ。

 まだ3才のよくはもう目が離せないぐらい好奇心が旺盛で、ママのミカコさんもわたくしもホントに手を焼いて大変なんです。」と、手のひらサイズの赤い翼竜が外に出ていったよくを追いかけながら、簡単な自己紹介をしている間に、よくはもう家の敷地から出て道路に立ち、顔を上に向けてキョロキョロと見ながら雨を探しているようです。


よく〜!ひとりで出たら危ないじゃないかぁ!」

 赤がよくに追いつき注意すると、「ええ~?赤も一緒にいるじゃん?」と、ちょっと生意気な顔で言う所は今どきの3歳児だと赤はもうすっかり慣れていました。


 人の、いやドラゴンの話を聞かないのも今どきの3歳児の特徴なのだとも。


 赤はとにかくよくの周りを翔びながら、家に戻るように話しかけるも、よくの耳には聞こえてない。


 灰色の雲を見つけて、「あーっ!あめのくもだー!」と、空を指しながら走り出す。

 その途端、新しい長靴を履きなれていないよくは足がもつれて派手に転んでしまった。

瞬間、「うわあ〜ん。痛いよ〜!ころんだよ〜!」と、大声で泣き出した。


「やれやれ」と思いながら、赤はよくの元へ飛んで行くと、大粒の涙を流しながら、痛がって泣いています。


 そこにポツポツと大粒の雨も降り出してきました。

 あれだけ探していた雨は気にもせずに、泣いているよくを心配しながら、「どこか怪我したの?大丈夫?痛い痛いの飛んでけー!」と、よくの周りを飛びまわりながら、泣き止ませようとしていたら、遠くから「よく〜?!」って、声が聞こえてきました。


 赤とよくが声のする方を向くと、レモンイエローの長傘を差した、ママのミカコさんが見えます。


「わ〜ん、ミカコさ〜んっ!」と泣き叫びながら、走りよるよく


 あ、よくがママの事を「ミカコさん」って呼ぶのはわたくしがそう呼んでいるので、よくもそう呼ぶようになってしまいました。


 ミカコさんの足に抱きついて、わんわんと泣いているよく

 ミカコさんが傘を片手で持ちながら、しゃがんでよくの顔をタオルで拭いてあげました。


「転んだの?痛いね〜。痛かったね〜。」と、優しくよくに話しかけるミカコさん。

「痛かったあっ!」と顔をまっ赤にして涙と鼻水でグチャグチャなのに怒ったように言うよくに、ミカコさんがにっこり微笑む。


「あらあら、顔がグチャグチャだよ?キレイにしてから、またお出かけしよ?」とよくの顔を覗き込みながら言うと、まだ目から涙がこぼれているよくを抱き上げて、家に戻っていきます。


こうして本日の よくの小さな冒険は、玄関から約5メートルで終わりました。


 でもきっとまた、小さな冒険がこれからもあるんだろうなと、ドラゴンの赤は想像してため息をつきます。


「やれやれ」と、つぶやきながら小さな羽根をパタパタと羽ばたかせて家に入って行きました。











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