【02】第1話 : アイアン・バージン〈2〉

 ロックグラスをユックリ鼻に近づけると、そのカグワしい天使の胸元が、俺を約束の地へとイザナう。

 ─手招きする天使様は、直ぐそこだ。

 すると突然、目の前にイワオゴトく巨大なシリが現れる。

 ─残念ながら男の尻だ。

 それも、天使とは似つかない、地獄ジゴクからの使者である。

 その尻は、ビリッと賞金首の張り紙を引っぺ返しながら、こちらに向き直す。

 と、地鳴りの様な低い声で言った。

「アンタも、このヴァンセントガりを受ければ、一発で借金が返せるだろうよ?」

 ─しまった!

 よりによって、この男に会うとは…。

 まだ、本当の地獄からの使者の方がマシだ。

 ─少なくとも、天国までは追いかけては来ない!

 はず…。

「うん…どうだぁ? アンタ…我が社の物件6ヶ月分の家賃、300:GOLDを滞納タイノウしてるんじゃぁなかったかなぁ」

 この山脈ほどの図体ズウタイには似合わない小さな手帳を取り出し、これも几帳面キチョウメンに細かく書かれた借金の記載キサイウヤウヤシクしく眺めながら、片方だけのツノらしている。

「ローハイドさん…も…もちろん返済のメドは立っていますよ。 当たり前じゃないですかぁ」

 ─この男は必ず、天国まで借金を取り立てに来る男だ。

 必ず…。

「今月末には、お支払い出来るメドが立ったので…。 あぁ…良かった。 こんな所で偶然グウゼンに会うなんて。直接、ご報告に上がろうと思っていたんですよ。本当に…」

 ローハイド氏は、ここ『エデン 皇国コウコク』では超有名な大手企業『スモーキー&カンパニー』の会長である。

 そもそも、この企業は、小さなウイスキー醸造ジョウゾウ会社から始まり、三代目社長の彼の代から他業種の銀行、不動産、学校経営、その他、多岐タキにわたるビジネスを立ち上げ、大いに成功をオサめていた。

「おお…何だい? 我が社の看板ウイスキーを飲んでくれてるのかい? コリャー! フトコロ具合が良くなくっちゃぁ、飲めない銘柄メイガラだぁ…大した金持ちだぁ兄さん!」

 チッ!イヤみったらしいヤツめ。コチトラァフトコロは万年冷えっぱなしだが、俺の唯一ユイイツの楽しみ『伏見フシミ12年・ウイスキー』を、無いゼニかき集めて飲んでんだよ。余計な詮索センサクするんじゃねぇ!

「ほら先ほど、お話しした通り。借金の返済のメド…。つまり、高額な仕事依頼が舞い込んだ…まぁそんな所でして…。ササやかですがねぇ。一人で、お祝いのウタゲを開いていたってワケなんですよハイ…」

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