モンスタードクター・ヤマザキ / MONSTER : Dr.YAMAZAKI

つかさげんご : 師 厳吾

第一章 : エデン

第1話 :〈前編〉スモーキー&カンパニー

【01】第1話 : アイアン・バージン〈1〉

獅皇兵団ヴァンセント: 9000:GOLD 〉

「オイ!また、ヴァンセントかよっ!」

 数人のゴブリンが、張り紙にツバくと、床を上げて行った。

 ここが毎日、熱気で、ごった返しているのは、飲んだくれモンスター達の怒号ドゴウと強い酒の息が、建物いっぱいに充満ジュウマンしてるタメなのだ。

「こっちだ! 伏見フシミ12年・ウイスキーを至急シキュウ! ロックで!」

 酒の注文をました俺は、この店『アイアン・バージン』のカウンターで、いつもの様に、張り出された依頼書イライショに目を通す。

「ヴァンセントをる他は…しみったれ依頼ばかりじゃねぇかぁ…」

 遠慮エンリョぎみに毒突ドクツイいてみたものの、ハナっから命にオヨぶ危険は真っ平ごめんだ。

 楽して金に成りそうな依頼だけを受ける。

 それが俺のモットーだ。

「なに…これが長生きのコツってもんさなぁ…」

 イケネェ!

 思ったより、声がでかい。

 ─まわりをウカガう。

 まぁ…。

 考える事は皆同じってワケで、たいてい楽な依頼はサッサと完売!

 ─フン!まったく世知セチがねぇ世の中だぜ。

 かと言って、残り物の依頼にが有ったタメしも無い。

 人目をハバカる依頼ほど高額だが、厄介ヤッカイな仕事ばかりだ。

 ─けた方が良い。



「今夜も、お早い、ご出勤だこと!」

 ここのオーナーである魔女の『リザ・ブー』が、勢い良く『伏見フシミ12年・ウイスキー』と、いつもの決まった一緒イッショに突き出して来た。

「オイオイ。こぼさないでくれよ! 高い酒なんだからぁ」

 彼女は、二十歳ハタチ前後の愛らしい娘だが、本当の年齢は誰も知らない…。

 なにせ相手は魔女だ。油断は禁物。

 ─気を許せばエライ目に合うのは、決まって、コチラ側だ!

「最近のとか言う流行ハヤヤマイ。 アレは一体、何だいっ!?」

 いつになく、イラついた彼女は俺に強く当たる。

皇国政府コウコクセイフは、まん延防止エンボウシだの、やれ飲食店の時短要求だの、アタシ達への補償金ホショウキンも充分に払う気も無いくせに、コチラばかりにシワ寄せをらわしやがる!」

 ─可愛い顔をして、口が悪い。

「そんな、眉間ミケンに筋を立てちゃぁ。シワに成ってしまうよ…。そらっ! 美人が台無しさぁ。リザ・ブー?」

 見かねて苦笑する俺。

「あらやだっ! 本当に…!」

 柱の鏡に向かって必死に、シワを伸ばしている。

 こういった無邪気ムジャキな所は、近ごろの若い娘そのものだ。

「さて…リザ・ブーからの当てつけと、政府へのボヤキは、こちらに置いといて…と」

 ようっ! 待ってました!

 これこれっ!

 この一杯イッパイ

「香りの伏見フシミ12年とは良く言ったもんだ。他のウイスキーじゃこうはいかねぇなぁ…」

 伏見フシミ12年・ウイスキーの上品かつ芳醇ホウジュンなバニラの香りは、万年金欠の俺を、冷たく突きハナす…。

 ─が。

 今宵コヨイも酒の天使様が、その豊かな胸元に温かくツツみ込むのであった。

 至福シフクの時間を、御賞味ゴショウミあれ…。

 めでたし。

 めでたし…。

 おしまい。

 


 ─いや。

 そのはずだった…。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る