【08】第1話 : サウス・シルバーナ〈1〉

「もう~勘弁カンベンしてくださいよぅ。さん」

 ─三時間は経過しているだろう。

 ここは、エデン・皇国警察コウコクケイサツ『サウス・シルバーナ』警察署である。

 目の前の受付カウンターには、脚を組み椅子にもたれかる女性署員がいる。

 それが、マサしくゼンだ。

 アラサー独身美人の上に、スタイルも抜群バツグン

 だが…毎週のように合コンしている割には、男性とデートすら出来た話を聞かない。

 本人、イワく。

『バッカヤロー! 恋人を作れねぇんじゃ無くて、作らねぇーの! アタシは、イケメン金持ちしか興味ねぇーの!』

 だそうだ。

 また、二言目フタコトメには。

『アタシ専用・自動現金払い男! ツカまえテェ~!』

 が、口癖クチグセである。

 そう言った訳であろう。

 先ほどから彼女の短い、タイトスカートの奥から見え隠れする、白のパンツに、俺が全く無反応なのは…。



「だからよぅ~分かんねぇヤツだなぁ。

 ヤブザキ!」

 彼女は飲みかけのフラペチーノから、ストローをクワえ抜き、そのまま俺のフトコロを指した。

 続けざま、小さくささやく。

「30:GOLDで、何とかしてやるからよう」

 つまり、ワイロの要求である。

「俺が、そんなに持ってる訳ねぇだろが…」

 コチラも小声で返す。

「じゃ! 10:GOLD。 じゃじゃそれも無いなら、5:GOLD。アタシも、合コンの出費重ねちまって、月末のパーティーに出れねぇんだよう。たのむよう…いくら持ってんだい? ヤブザキぃ~」

 ─ザキは、余計だろっ!

「えぇ…今は、1:GOLDと4500:SILVERだなぁ」

「チェッ! たったそんだけかよ」

 ストローを投げつけて来た。

「だから、お前達、医者は貧乏だって、バカにされんだ!」

 まくれ上がった、タイトスカートをクイッと戻して座り直す。

「よう! ヤブザキ。子供達が、将来、絶対成りたく無い職業トップ・スリー知ってっか!」

「あぁ…子供向けアンケートじゃ…の意味で俺達、お医者様はモテモテの職業だよな」

 ゼンが、お祈りをするポーズで言う。

「一方、賢者様は大人気だぜぇ…。稼ぎは抜群にイイし社会的信頼も高い。銀行なんて手堅テガタ融資ユウシ先って訳で、彼等に頭下げて金を借りてもらってるって言うぜぇ。 ! 金持ちはよう! アタシは、とっくに銀行から、ご融資止ユウシドメめ喰らってるのによ!」

 彼女は、手持ちのライターに火を着けた。

「要~するにぃ~。今回のヤブザキへの嫌疑ケンギは、アタシが丸~く、さっぱりオサめてやろうって事さぁ!悪くねぇ話だろう?」

「だから、さっきから言ってる様に、俺には一切関係ない事件なんだよ」

「そんなの、アタシだって承知の上さぁ。お前が金にも成らねえヤバイ話に、首を突っ込む訳ねぇだろうよ」

「それが分かってんなら…ゼン!」

 と、俺が乗り出した瞬間。

 彼女はタバコを荒々しく吸い殻に押し付け、その返す手で俺の襟首エリクビを引き寄せた。

「だ・か・ら、アタシが手を貸そうって言うんじゃないか! 警察本部の連中は今、獅皇兵団ヴァンセントの行方に躍起ヤッキになってるんだからさぁ」

「何言ってるんだ! ゼン! 本部連中こそ、俺には関係ないだろ!」

「そこだよ、そこ! 連中は今回を含めて3回、ヴァンセントを取り逃がしてやがんだよ。さすがに面目メンボクが保てねぇ様子でよう、かなりの増員で警備強化した結果。に相当の深手を負わせる事が出来たんだとよ」

「その後、追跡捜索ツイセキソウサクかぁ…」

「あぁ…異例の3000人態勢でよう。逃走経路の血痕ケッコンを頼りに追い詰めたって言うじゃねぇかあ」

「かなりの出血だったんだな!」

「その血痕が、お前んところの村…えぇと…『ソルト・マウント』の入口でプッツリと消えちまったとの話さっ!」

「だからって村の中に、ヴァンセントが居るとは、限らないだろ!」

 怒って席を立とうとする俺に

「まぁ聞けよ。ヤブザキ!

 でな、警察本部の考えとしては、ハナっから村の人々には、ヴァンセントなんて物騒ブッソウなヤツカクマう理由なんか一つもネエ。そうなると村の中に在る、教会と病院だ。ヴァンセントのヤツも、お祈りで開いた腹が閉じると考えるほど、信仰心シンコウシンに厚い訳じゃねぇだろう。となぁ」

「そこで、俺の所かぁ…」

 ─とんだ、とばっちりだぁ。

「ヤブザキ自身が、ヴァンセントじゃ無いとしても、協力者として目を着けられてるのさぁ」

「まったく、迷惑な話ダゼェ…」

「その証拠に…午前の診療時間帯。お前んとろに、って言う、兎眷族ウサギケンゾクの女が受診に来たろ」

「ああ…。名前は覚えては無いが…彼女は頭痛の症状だったかな? それが何だよ?」

「ニブイ奴だなぁ! お前はよ! そいつが、警察本部の職員だよ! 内部捜査ナイブソウサに来たって事さっ!」

「早速かよ。気が抜けねぇなあ…」

「ヤブザキ! お前も痛くもない腹探られて迷惑メイワクしてんだろ。金で解決つくなら、安いもんじゃねぇ…」

 と、ゼンが言いかけた時。

「先生~! まだ~? ブリオ、お腹すいちゃったよ~。早く豚骨ラーメン食べに連れてってよう」

 後ろの長椅子で、しびれを切らしたブリオが足をブラブラさせながら言う。

「ブリオちゃん。悪い悪い。もうちょっとだから待ってな。このオバチャン話しが長くていけないよ」

「誰が、オバチャンや! ボケ!」

「オバチャンも、ブリオ達と一緒に豚骨ラーメン食べる?」

 ブリオが、近づいて聞く。

「オバチャンじゃネェ! だ! それに、豚骨ラーメンも喰わねぇ! ッタクよ~! ほら小銭やるから、ドア出て右側奥の自販機でジュースでも買ってコイ!」

「えぇと…ブリオが大好きな、イチゴミルクある~?」

「あぁ…あるよ。サッサと行ってきな」

「えっ! 本当! 嬉しい! 綺麗キレイナな、!」

「おい! おい! 子供は純心でいいよなぁ…。大人と違って、不思議に本質を見抜く力、ヤッパ持ってるよなぁ! 『綺麗な、おねぇさん! 』なんて、分かってんじゃないかさぁ!」

 ─ブリオ…。

 お前、このトシで、いつ処世術ショセイジュツを身に着けたんだぁ…。

「それで、ヴァンセントは、どこに現れたんだよ?」

 俺は、話しを続けた。

「おぉ、それが不思議な事に、御丁寧ゴテイネイに3回とも『皇国賢老院コウコクケンロウイン』なんだとさっ」

「皇国賢老院だぁ?」

 皇国賢老院とは、賢者様のを専門にホドコスす為に、政府が設立した特別施設である。

「何で、ヴァンセントがそんな所に用事があんだ?」

「アタシが知ってる訳ねぇだろ。ヴァンセントに聞いてくれよ。まあ最も、奴等ヤツラに口を聞いた瞬間に、こちらの首とドウが離れてしまうだろうがな」








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る