竜と人との二重奏

フェノン♬

プロローグ

 ここは、竜と人とが共存する世界。

 その名をスカルピア大陸。

 この世界の竜は自然をつかさどる役割があり、中でも頂点に立つ竜王りゅうおうは、人々から竜王をまつる神殿にて捧げ物を貰い、その人々の願いを叶えるという仕事をになっていた。

 そんなある日の事。

 神殿に見るからに見窄みすぼらしい格好をした少年がやって来た。その少年は言った。

「僕は貧乏で、捧げ物を捧げることが出来ませんが、どうか願いを叶えてください。僕の母親は重い病気ですが、お金が無いため、薬も買ってあげることができません。身勝手だとは思いますが、母親の病気を治してください」

 少年をあわれに思った竜王りゅうおうは、少年の願いを叶えてあげた。

 だが、それを発端ほったんに捧げ物を捧げずに嘘をついてまで願いを叶えてもらおうという人たちが急増した。 

 その中に、1人の貴族の若者がいた。

 その若者は言った。

「最近お金が無くて領民の生活も苦しくなって来ている。なのでお金を恵んで下さい」と。

だが、その若者はとても裕福ゆうふくな身なりをしていた上に、何人も引き連れていた従者じゅうしゃも同じような身なりだった為、竜王りゅうおうは嘘を見抜き、その願いを拒否した。

 その若者は願いを叶えてもらえなかったことに怒り、神殿を破壊して帰っていった。

 その晩、それを受けて怒った竜達が若者の邸宅を襲撃しゅうげきした。

 そして次の朝、若者が街の者達に言いふらした。

竜王りゅうおうが裏切った!何もしていないのに邸宅を襲撃しゅうげきされた!」と…。

 スカルピア大陸の人間でも一番偉い貴族の言ったことを、街の人達は鵜呑うのみにし、再び竜王りゅうおうの神殿を集団で破壊した。

 これが全ての始まりである。

 この戦いは徐々に規模を広げ、遂にはスカルピア大陸全土で竜と人との戦いが勃発ぼっぱつした。

 後にこの戦争は引き分けという形で終戦を迎えるが、その後も両者の間でわだかまりは解けず、常に緊張状態だった。

 更にこれを機に、自然をつかさどる役割を持つ竜王りゅうおうの一つ下の位の竜皇りゅうこう達が、それぞれの自然を司る宝具、「竜醒紋りゅうせいもん」を封印し、自然をつかさどる役割を放棄した為、世界は少しずつ崩壊に向かっていた…。

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