なんで私がこんな男子(やつ)に!?

藤 夏燦

第1話

「ねえ、覚えてる?」


「すみません、忘れました!」


「ハァー……」




 清々しいほど正直な後輩の返事に、私は長いため息を吐く。




「すみません。お忙しいとは思いますが、もう一度教えてください!」




 本当に申し訳なさそうな顔をして、彼は私を見た。


 私はやれやれと肩を下ろしながらデスクの横に立ち、パソコンの画面を覗く。




「もうこれで教えるのは最後だからね。ちゃんとメモとってる?」


「はい。ばっちりとっているんですが……」


「見して」




 私は彼の手元から、まだ新しい黒い手帳を手にとった。片開き1ページがびっちり文字で埋め尽くされている。字は綺麗だけどめちゃくちゃ見づらい。




「これ自分で読み返してみて、分かるの?」


「すみません。分からないです……」


「はぁ……」




 私はまた短いため息をつくと、右手で前髪を掻きむしった。


 すると前の席にいるベテランの女性社員が口パクで、




『東条さん! スマイル、スマイル!』




と私に言ってきた。




(そこまで言うならお前が教えろよ!!)




と私は今にも爆発しそうな腹の虫を抑えて、無理やり笑顔を作った。しかしベテラン社員は追い打ちをかけるように、




『東条さん。言い方、気を付けてね』




と私の爆弾に火をつけようとする。




東条沙耶とうじょうさやよ、落ちつけ。理不尽は社会人の常識よ。そうだ、家に帰ったらYou○ubeでも観ながら檸○堂あたりで一杯やろう。だから今は抑えて。仕事に集中……)




 私は深呼吸をすると、取引先と話す時のような「よそ行き」最高ランクの声を作って、




「片岡くん。紙がもったいないのは分かるけど、メモは見やすいように、一つの作業につき1ページずつ書こうか」




と言い、彼に手帳を返した。




「はい。分かりました。次から気をつけます!」


「じゃあ、もう一度教えるからね」




 マウスをクリックしながら私は思い返した。




(はあ、なんでこんなことになったんだっけ……?)

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