第68話 遭遇


「待って欲しいでゲスううううぅぅぅぅっ!  置いてかないでええええええっ!」

「……置いていきます!」


 僕は厄介なメイドさんにそう言い残し、部屋の扉を開ける。


 ――その時だった。


「はぁ、はぁっ、ゲスぅっ!?」

「わあっ!」


 廊下かに出た瞬間、向こうから走って来た人とぶつかってしまったのである。


 僕は、そのまま地面へ倒れ込んだ。


「い、いたた……骨が折れたでゲス……」


 どう考えてもそこまでじゃないけど、とにかく助けないと。


「だ、大丈夫ですか……?」


 僕は慌ててぶつかってしまったその人に駆け寄り、助け起こす。


 そして……理解した。


 ――探していた気配の正体はコイツだと。


「どうしたんでゲスか? すごい音がしたでゲスが……ってええええええええっ?!」


 部屋の中から顔を出したメイドさんが、叫び声を上げた。


「ど、どうしてこの屋敷に男の人が居るんでゲスかっ?!」


 一瞬ばれたのかと思って驚いたけど、そういえば目の前に倒れているのも男の人だ。


 この屋敷の警備、大丈夫なのかな……。


「たたたっ、大変でゲスぅっ!」


 というか、どうして二人ともそんな話し方なんだろう? 


「うぐぐ……そのダークエルフ訛り……あんたもあっしと同じ里のエルフでゲスね……」


 なるほど、ダークエルフ訛りか。


 どうやら、僕はまた一つ賢くなってしまったみたいだ。


「が、ガス?! 空気の読めない言動と魔獣と関わり続けたことを咎められて、長に里を追放された……ガスお兄ちゃんでゲスか?!」

「そういうあんたは! …………誰だか覚えてないでゲスね」

「――ロクサーヌでゲス! 自分の妹の顔も忘れるだなんて、とんだ薄情者でゲスね! せっかく庇ってあげたのに……!」

「ゲス」

「今のゲスはどういう意味でゲスか!」


 しかも家族だった。……じゃあつまり、二人とも敵?!


「と、とにかく! お屋敷に侵入した不届き者は排除するでゲス! それがメイドの務めでゲス!」

「戦おうとしてくる相手には、あっしも容赦しないでゲスよ。ロクサーヌ」


 侵入者は、そう言ってメイドさんのことを睨みつける。


「ひ…………」


 怯えながら後ずさるメイドさん。


 たぶん、こっちのメイドさんの方は味方だ。


「お前の相手は僕だ」


 僕はメイドさんの前に割り込んで、侵入者――ガスのことを見据える。


「メイドさんは危ないからこの人に近づかないでください。部屋の中に隠れて」

「あ、あなたもメイドさんでゲしょう?」

「そうだけど……今はそんなこと言ってる場合じゃないんです!」

「ちょ、ちょっと、まつでゲ――」


 下手に動かれると巻き込んでしまうと思った僕は、咄嗟に魔法を発動してメイドさんの意識を奪った。


「…………スゥ」


 そして、倒れてきたメイドさんを抱きとめる。


「……そ、その魔法は……!」


 そう言って後ずさるガス。


「僕の質問に答えろ。――ここへ何をしに来た?」

「あっしはただ……ここに隠れてるあのガキども――ヴァレイユ家の三姉妹を攫いに来ただけでゲス! お前には関係ないでゲス! どいつもこいつも……何なんでゲスかっ!」

「……関係大ありだよ」


 やはり、こいつで当たりみたいだ。


 僕は即座に距離を詰め、ガスの心臓に向かって魔法を発動する。


「ぐぅっ?!」

「……殺されたくなければ答えろ。誰の指示を受けている?」

「あ、あんたに……人が殺せるとは思えないでゲスがねぇ……?」

「何だと?」

「隙ありでゲス!」


 ガスは、一瞬の隙をついて僕から距離をとる。


「ロシナンテ! スレイプニル! やっちゃうでゲスよ!」


 ガスが叫んだ。すると、分散していた気配が一斉に集まって来る。


 そして、馬の姿をした二体の魔獣が実体化し、姿を現すのだった。


「召喚魔法……!」

「「ヒヒーン!」」

「一瞬で決着をつけてやるでゲス! 油断してあっしを離したこと、後悔するが良いでゲスッ!」

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