第59話 アニ、辱めを受ける
「ぶひひ…………!」
「アニ様……素敵です!」
何故か嬉しそうに口元を綻ばせながら、僕のことを眺め回してくるドレースさんとオリヴィア。
「ほんとに……おにーちゃんなの?!」
エリーに至っては、驚きすぎて目をまん丸に見開いている。
「あ、あんまり見ないで……!」
「どうして? すっごく可愛いよおにーちゃん!」
「うぅ……っ!」
「お人形さんみたい! かわいい!」
エリーはそう言って僕に抱きつく。
今すぐここから逃げ出したい気持ちになった。
「あの……ドレースさん。どうして僕はこんな格好を……?」
――僕は今、メイド服を着せられている。
しかも、スカートがすごい短いやつだ。足元がすかすかで落ち着かない。
「そんなに恥ずかしがらなくてだいじょーぶだよ! 美人さんだから自信持っておにーちゃん!」
「い、いやだ……っ!」
僕は両手で必死にスカートを押さえながら言った。そして、僕の手をどかそうとしてくるエリーと一進一退の攻防を繰り広げる。
「ぶひ。この町にあるフェルゼンシュタイン家のお屋敷は、女性専用と男性専用に分かれているのですわ……」
「ど、どうしてですか?」
「ぶひ……その、この地を訪れたフェルゼンシュタイン家の者の不純異性交遊があまりにも多かったので……先代当主様がお怒りになって……」
「……………………?」
「それなのに……今度は不純同性交遊が行われていただなんて……! きっと、先代当主様も地獄で泣いていますわ……!」
そう言ってむせび泣くドレースさん。
先代当主様、地獄行き確定なんだ……。
「……魔族の方たちにとって、地獄は素晴らしい場所なんです」
困惑していると、オリヴィアさんが小さな声で僕とエリーにそう教えてくれた。
「……ぶひ、とにかくそういうことですので、アニ様には女性の格好をしていただかないと、お屋敷へお連れすることができないのですわ」
「その結論はおかしいよね……? 男の人が入れないならそう言ってくれれば、僕は入り口で――」
「アニ様を入り口で待たせるだなんて、とんでもありませんわ!」
「うぅ…………」
この格好をする方が、僕にとってはとんでもない事なんだけど……。
でも、ドレースさんに無理を言って妹達に同行させてもらうわけだし……これくらいの屈辱は甘んじて受け入れるべきなのかもしれない。
だけど……。
「……ドレースさん。男の人が入っちゃいけないんだったら……女装してもだめだと思うんだけど……普通に考えて……」
「ぶひ、良い質問ですわ」
「そ、そうかな……?」
当たり前の事にしか思えない。
「――昨晩オリヴィアと話し合いを重ねた結果、女の子の格好をしたアニ様は実質女の子であるという結論が導き出されましたの」
「何を言ってるの……?」
あまりにもわけの分からない結論に思わず首を傾げると、ドレースさんは早口で捲し立ててきた。
「多様な姿を持つ我々魔族の中には、性別がはっきりと定まらない――スライムのエミル様のような方も多数存在していますわ。……そういった者達は、立ち振る舞いや姿、心のありようで総合的に性別を判断されますの。――そして、私はまだアニ様が男の子であることをこの目でちゃんと確かめた訳ではない。つまりアニ様の性別は未確定! ……ですが、寝てしまってオリヴィアにお姫様抱っこされてしまう愛らしさから、アニ様はむしろ女の子である可能性が高いと考えられますわ。そこへフリフリのメイド服という女の子らしい要素を付け加えることで、アニ様はどこからどう見ても美少女となり、女の子であることが確定しますわ。実際、エミル様が女性として扱われるようになったのも、ベラ様やリーン様の影響で女の子の格好をするようになってから。よって今のアニ様実質女の子。ソフィア様達に同行して別荘へ訪れても、何の問題もありませんわ!」
「流石ドレース。何度聞いても惚れ惚れしてしまう完璧な理論です」
どうしよう、全く理解できなかった。
というか、オリヴィアさんはどうしてそれで納得しちゃったの?!
なんで腕を組んで頷きながらドレースさんの話を聞いてたの?!
どこら辺に惚れ惚れしたの?!
分からない……もう何も分からない!
僕が……おかしいのか……? 間違っているのか……?
「で、でも、大変だよ!」
心の中で葛藤していると、エリーが突然声を上げた。
「どうなさったのですかエリー様?」
オリヴィアが問いかける。
「おにーちゃんがこんなに可愛くなっちゃったら、悪い人に襲われちゃうかも……!」
「何言ってるのエリー……?」
「あたしが守らないと!」
グッと拳を握るエリーの目は、覚悟に満ちていた。
おかしいな。僕はエリー達を悪い人から守るためにこんな格好をしているはずなのに……。
それじゃあ本末転倒だ。
「安心して下さい、エリー様。アニお嬢様のことは私が守ります!」
オリヴィアまでそんなこと言い出すなんて……。
もうだめだ……僕にはついて行けない……。
――誰か助けて…………。
そう思ったその時、勢い良く部屋の扉が開いた。
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