第5話 お兄ちゃんサプライズ大作戦2
「――あ、忘れてたわ」
三人で仲良くアニの部屋へ向かう道中、唐突にメイベルが声を上げた。
「ど、どうしたのメイベル?」
「……私……先に行ってる……」
面倒な事になる予感を察知し、その場から逃げ出そうとするソフィア。
しかし、その肩をメイベルが素早い動きでがっちりと掴んだ。
「い、痛いわ…………」
「あんた達、そんな格好でお兄ちゃんをお祝いするつもり?」
きらりと目を光らせ、二人を睨みつけるメイベル。
「そ、そうだよ? どこか変かな……あたしの服……」
「エリー、あんたのは子供っぽすぎるわ!」
「うそ…………」
「ソフィアのは地味すぎよ! ぜんっぜんお祝いにふさわしくないわ! ついでにわたしの服もこれじゃダメっ!」
「そ、そんな事ないもん。みんな似合ってるよぉ……!」
「いいから二人とも来なさいっ!」
かくして、二人は無理やりメイベルの部屋に引き込まれたのだった。
*
「……辱めを……受けているわ……」
「仕方ないよソフィア。だって、ああなったらメイベルは手がつけられないもん……」
ソフィアとエリーは、あっという間に着ていた服を脱がされ、下着姿にさせられていた。
加えて、メイベルも下着姿で自分のクローゼットを物色している。
「あんた達大した服持ってなさそうだし、私のを貸してあげるわ。感謝しなさい!」
「うん……ありがと……」
「わたしは赤いドレスを着るとして……エリーは明るめの色、ソフィアは落ち着いた感じの色が似合いそうかしら」
「……メイベルはお洒落なんだね」
「ふふん、当然よ♪」
「あたし、そういうのあんまり考えたことなかった……」
――それからしばらくの間、ソフィアとエリーは似合う服が見つかるまでその身体を弄ばれ続けた。
「きゃあっ?! ま、待ってよメイベルっ!」
「ほら、じっとしてなさいエリー」
「やぁっ……そこぉっ、だめっ、きゃあんっ!」
「変な声出すんじゃないわよ」
「じ、自分で着るからぁ……」
「もしかしてあんた、まだ気にしてるの? もうすっかり綺麗になったんだから、助けてくれたお兄ちゃんに感謝しつつ大人しくしてなさい」
「そ、そういうことじゃ……んひっ!」
ちなみに、三人とも背丈は大体同じなので、服のサイズはぴったりである。
「はぁ、はぁ……いやっ、辱めを……受けているわ……っ!」
「はいはい。分かったから」
「ひっ、だ、ダメっ、あぁんっ!」
「エリーといい、あんたといい、いちいち叫ばないとドレスもまともに着れないわけ?」
「……ち、違うわ……まだ心の準備がっ……はぁんっ?!」
「はい、できたわ」
ようやく解放され、よろよろとその場に倒れこむ二人。
「まったく、情けないわね!」
「「………………………………」」
「そんなんじゃ一人前のレディーにはなれないわよ!」
「「………………………………」」
散々いじり回された二人は、メイベルに少しだけ仕返しをしてやろうという気持ちになる。
「……じゃあ次……メイベルの番」
「へ? わ、わたしは自分で――」
「やり方は分かったから、あたし達に任せてよ!」
「ちょ、ちょっとっ?!」
メイベルは二人の反逆にあい、なす術なく押さえ込まれてしまう。
「大丈夫だよメイベル。痛くしないからね。ふふふふっ」
「ま、待ちなさ――」
「……じっとしていて。……楽にしてあげるから」
抵抗する間も無くメイベルは――
「ひゃうぅぅぅぅぅんっ!!!」
コルセットを締められたのだった。
*
可愛らしいドレス姿に着替えた三人は、再び並んでアニの部屋へ向かう。
「もっ、もたもたしすぎたわ……! もうすぐ日が暮れちゃう!」
大急ぎでアニの部屋の前までやって来て、扉をノックするメイベル。
その後ろに立つソフィアとエリーは、少しだけ緊張した面持ちで中からアニが出てくるのを待った。
――しかし、アニが出てくる気配はない。
「ちょっとお兄ちゃん! まさか、寝ちゃったんじゃないでしょうね?!」
メイベルは、そう言って先ほどよりも強く扉をノックする。
しかし返事はなかった。
「待って……開いてるじゃない。入るわよお兄ちゃん!」
仕方なく、扉を開けて部屋の中に足を踏み入れるメイベル。
ソフィアとエリーも、その後に続くのだった。
だが当然――
「うそでしょ……」
部屋の中には何もない。
「ど、どういうことなの……? ここっておにーちゃんの部屋だよね?」
アニが住んでいたという痕跡は一切残されていなかった。
「おにーさまが……消えた……」
ソフィア達は呆然と立ち尽くす。
「おい、そこで何をしている?」
その時、部屋の外からデルフォスの声がした。
「「「ひっ…………!」」」
天敵の襲来に恐怖し、部屋の隅で目を寄せ合って縮こまる三人。
デルフォスに口答えした場合は、ハウラによる厳しいお仕置きが待っている。
四つん這いにさせられ、鞭で何度もお尻を叩かれるのだ。
おまけに、側でニヤニヤ眺めているデルフォスが良いと言うまで止めてもらえない。
そんな事をされているだなんて言うのが恥ずかしくて、お兄ちゃん――アニにも相談できなかった。
その他にも色々なことが積み重なって、三人ともデルフォスが死ぬほど嫌いだ。内心では兄だとすら思っていない。
「……もしかして、アニを探してたのか? だったら無駄だぞ」
「ど、どうしてよ……?」
「今朝お父様に家から追い出されたからな」
「…………へ?」
「あいつはヴァレイユの人間じゃないただの下民のクズだったんだよ。だからもう忘れろ。お前らと血の繋がりさえもない、ただの他人だ。お前らの大好きなお兄ちゃんは俺だけなんだよ。フハハハハッ!」
それだけ言うと、デルフォスは立ち去る。
「おにーさまが……追い出された……?」
「なによそれ……ふざけないで……!」
「そ、それに、おにーちゃんと血が繋がってないって……そんなの嘘だよね……? そんなはずないよね……?」
衝撃の事実を伝えられた三人は、ショックのあまり膝から崩れ落ちるのだった。
ケーキは三人で泣きながら食べた。
そして、プレゼントはデルフォスが自分宛てだと勘違いして奪い去っていった。
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