第34話 お願いしたいことがあります

★★★(ウハル)



 知らない天井。

 知らない寝床。


 俺は気が付いたら知らない場所……おそらく診療所に運び込まれていた。

 あの後、どうやら無意識で人の目につくところまで自力で出たらしい。

 よく覚えていないけれども。


 そこで、誰かに見つけて貰えたんだろう。


 俺は、命を拾った。


 だけど……


「……っ!」


 診療所の寝台から起き上がろうとすると、激痛が走った。


「起き上がらない方が良い。傷が開く」


 診療所に居た白衣の男性……多分医師の人が、俺にそう声を掛けて来た。

 この人が手当てをしてくれたのか。


 俺の身体は上半身を包帯で巻かれていた。


 でも


 寝てる場合じゃ……!


 俺が不甲斐ないせいで、ユズさんは攫われたんだ!

 すぐに、すぐに助けに行かないと!


 焦る気持ちと、それについていかない俺の身体。


 ジレンマで叫びたい気分になる。


 こんなこと……っ!


 こんな事をしてる場合じゃ無いのにっ……!


「キミ、身元は?」


 そんな俺に。


 医師の人が俺の身元を聞いて来た。




 身元を聞かれたので、俺は師匠の名前と、相棒のオネシさんの名前を出した。

 俺の事を是非すぐに伝えて欲しい、という想いを込めて。


 俺1人じゃ手に負えない!


 大事なのは……ユズさんを救う事だ……ッ!




「ウハルッ! 大丈夫かッ!」


 まず師匠が駆けつけてくれて、俺に「再生の奇跡」を使ってくれた。

 その場で傷が塞がり、俺は包帯が取れた。


 そのときに、俺は一部始終を話した。


 今日、何があったのかを。


「なんと……キュウビ一族がまだ生き残って居たと……!?」


「はい……奴らの頭目は、ユピタを名乗っていました……」


 そして話す。


 あの不可解なユズさんを襲った黒づくめ集団。

 それこそが、ユピタを崇めるキュウビ一族の生き残りだったと。


 その理由が、ユズさんの覚醒を促すためだったと。


「……そんなことのために……!」


 師匠の眉根が寄る。

 師匠も、奴らが許せないと思っているのか。


「師匠……」


 そして俺が全てを話し終え、俺が考えていることを伝えようとしたとき。


「ウハル君!」


「大丈夫!?」


 病室に、オネシさんと……アイアさんが駆け込んできた。



★★★(アイア)



 教えられた診療所の一室に駆け込んだら。

 ウハル君が包帯を外しているところだった。


 傍に叔父様が居た。


 多分、刺された傷は叔父様に治してもらったんだろう。


「ウハル君!」


 オネシ君はそう言って彼に駆け寄った。


「大丈夫!?」


 私もそれに倣う。

 一体、何があったのか。


「アイアさん、オネシさん……」


 ウハル君は青い顔をしていた。

 刺されたからだろうか?


 誰に?


 色々聞きたいことはあったけど。


「何があったの!?」


 それを聞いた瞬間。

 ウハル君の目が、暗くなった。




 ウハル君が話してくれた事。

 俄かには信じられない事だったけど。


 信じるしか無かった。


 ウハル君が刺されたのは事実だし。

 ウハル君は、こんな事で嘘を言う子では無い。


 キュウビ一族……もはや伝説とも言っていい、悪の一族が未だ残っていたなんて。


 そしてそいつらが……


 ユズさん……今日、ウハル君とデートしていた子を、攫ったなんて……


「……許せない。そいつら、ユズさんのご両親を、自分たちの野望のために躊躇いなく殺害したのか!?」


 オネシ君は真剣に怒っていた。

 彼にとっては許せないだろうね。


 だって彼も、邪悪な奴に自分の両親を殺されたんだから。


「すぐに助けに行こう! 何か手掛かりは無いのか!?」


 彼は強い調子でウハル君に問う。

 問われたウハル君は……


「あいつは……西の空に飛んでいきました。雷の精霊魔法で」


 ギギギ、と音がしそうなほど歯を噛みしめて。

 ウハル君はそう答える。


「西の空……」


 オウム返しにオネシ君が応える。


 どうしよう……

 情報が少なすぎる……


 西の空、と言われても、範囲が広すぎる。

 それだけでは、探しようが……!


 ここにセンナさん……かつての私の警護対象が居たら、話は違ったんだろうけど……!

 彼女は広範囲で邪悪を察知することが出来たから……!


 袋小路。

 私がそう思い、焦りに震えたときだった。


 ザッ。


 突然の行動。


 私は固まった。

 叔父様も、オネシ君も目を奪われていた。


 ウハル君の行動に。


 ……ウハル君は地べたに手をついて。

 深々と頭を下げていたのだ。


 私たちに。


「何を……」


 そう、言いかけると。


「お願いしたいことがあります」


 ウハル君は、ハッキリした声でそう、力強く言った。

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