第6話 最強を目指す!
何? 断ったのに食い下がるとか? ストーカー?
純粋に気持ち悪い。今、大嫌いになった。
叔父様の顔を立てて、時間作ってあなたに会ったけど、大失敗だったわ。二度と近づかないで。
……頭の中で、予想される最悪の返答を想像した。
正直、それくらい言われてもしょうがないとは思ったんだ。
……でも、それでも知りたかったんだよ。
自分のこの初恋が、何故実らなかったのか、その理由を。
でないと、モヤモヤを抱えてこの先ずっと生きていく。
そんな予感がしたんだ。
……
………
……うん。
自分で自分の気持ちを今、言って。
気づいたけど。
……純粋に、自分のためだね。
自分の人生の気持ちよさを追求した結果だ。
自分が拒絶された理由を、把握したい。
それだけだ。
アイアさんの事は、これっぽっちも考えていない。
……最低だ。
だから、言ってしまった。
「ゴメンナサイ。どうしても言いたくないなら別にいいです。俺の事ばっかりですね。申し訳ないです」
……見苦しさの上塗り。
ミスばっかりじゃないか。
……俺、自分がここまで馬鹿だとは思って無かったよ。
自分で、自分の行動に呆れてしまう。
アイアさん……どう思っただろうか。
……折角、これから楽しい食事だったのに。
そもそも、こういう事態になる可能性あるのに、この段階で告白に踏み切った俺が救いようのない大馬鹿だ。
OKもらえるわけないと思いつつ、言ったよな?
アホなのか?
……段々、自分の馬鹿さ加減に絶望的な気分になってくる。
……
………
そのときだ。
そんな自己嫌悪と後悔が顔に出てたのかもしれない。
「……別にあなたのことが好みじゃないからとか、性格がどうしても気に食わないとか、そういう理由じゃないです」
突然、アイアさんが言ってくれたんだ。
拒絶の理由を。
見苦しい事に、俺は顔を上げてしまった。
アイアさんは……別に不愉快そうではなかった。
照れていたりもしてなかったけど。
ただ、申し訳なさそうな顔をしていた。
そして、言ってくれた。
「……男性って、自分より強い女を見ると、自信を無くしますよね。それが嫌なんです」
……えっと?
理由を言ってくれたけど、俺は少し理解が出来なかった。
言ってから、自分がそう思うに至った根拠を話していないことに気づいたのか。
アイアさんは、昔話をしてくれた。
自分が冒険者として駆け出しの頃、はじめて入ったパーティであったことを。
自分が強すぎて、パーティリーダーの男性の活躍の場を完全に食ってしまい、パーティリーダーの男性が自信を無くしてパーティが崩壊しかけ、その責を問われて追放されてしまった事を。
聞いてて「酷過ぎる」と思った。
「……なんだよそれ……酷いよ……アイアさん何も悪くないだろ……」
俺が思わずそう零すと
「ありがとう。優しいですね」
アイアさん、ニコリとしてそう言ってくれた。
……己惚れているかもしれないけど、お世辞には感じなかった。
「だから、私が男性と関りを持つと、ろくなことにならない。だから私は誰とも恋人にもならないし、結婚もしないんです。ゴメンナサイ」
俺は、アイアさんのそんな告白を聞いて。
……理由は分かった。
……これは……根深いな。
もしここで「俺は違います! 俺はアイアさんが俺より強くてもそれで不満を漏らしたりしません!」なんて言っても、信用されるわけがない。
それは偏見です! って言っても同様。怒りを招くだけだ。
俺だって、他人をそう易々と信じない悪癖を持ってるじゃ無いか。
生まれのせいで、ずっとゴミ人間扱いを受けて来たから。
経験ってのデカいんだよ。
アイアさん、その最初のパーティで追放された経験が、ずっと重く圧し掛かって、今があるんだ。
……だったら。
俺は、アイアさんの話を聞いていて、思うところがあった。
だから……
それを、言った。
「……そのアイアさんの理屈で行くと、アイアさんは自分より強い男となら付き合えたり、結婚も出来るってことになりますよね?」
「……え?」
言うと、アイアさん面食らったのか、ポカンとしてたな。
……可愛いと、また思ってしまった。
「だってそうでしょう? 男が自分より強い女であるアイアさんに不満を持つからろくなことにならない、というのであれば、そもそも男の方がアイアさんより強ければ問題自体発生しないのでは無いですか?」
「えっと……それは……そうだけど……」
言うと、アイアさん、急に眼が泳ぎだした。
多分、そのパターンを今まで考えてこなかったんじゃ無いのかな。
……まぁ、最強を目指してるんだものなぁ。
「で、仮にその問題が埋まったとしたら、俺ってどうなんでしょう? それでもやっぱり無いですか?」
その反応があまりに可愛かったので。
つい、勢いで言ってしまう俺。
言ってから、内心「しまった。キモかったかも」と焦るが、恥の上塗りは必死で堪えた。
同じ失敗を繰り返すわけにはいかない。
「……ええっと」
今度は、アイアさんが挙動不審になっていた。
そして
「……無くは……無いと思う。いきなり結婚しろっていうのはちょっと分かんないけど、恋人としてなら……」
付き合ってもいないのにいきなり結婚なんてあるわけないじゃん。
どんだけ動揺してるんだ、アイアさん。
……そう、思うと同時に。
この「無くは無い」との言葉。
それの信憑性に確信めいたものを持った。
俺、条件付きなら男性として見てもらえる!
今、その言質を取った!
だったらば。
「……俺、冒険者になろうと思います」
「……え?」
俺の言葉に、アイアさん。
明らかに動揺していた。
……ああ、ひょっとしたら口説かれたことが無いのか、それか意図的に、そういうことを避けて来たのか。
どっちかなのかな?
……言ってて、俺もドキドキしてきた。
好きな女性相手に「あなたの望む俺になるから見ててくれ」って言うのって、こんな気持ちになるのか……。
俺は冒険者になる。
地上最強の戦士である、アイアさんに勝って、恋人になって貰うために。
これは、その決意表明だ。
……そんな俺の言葉に、アイアさん、動揺するだけで。
嫌悪感を持ってるようには見えなかった。
じゃあ、イケるってことだよな?
……そうだよな?
「牛鍋2人前、お待たせしました~」
そこにベストタイミングで、牛鍋の具材が乗った大皿が運ばれてきた。
さっ、食べましょうアイアさん。
食べて、強くなりましょう!
俺も、強くなりますから!
……あなたよりも!
猛然と俺は、鍋の具材を捌きはじめる。
「ただいま帰りました~」
酒は飲んではいないけど。
上機嫌で俺は帰宅した。
「おお、どうだったでござるか?」
俺が上機嫌なので、ガンダさんがデートの結果を聞いて来てくれた。
「告白したけど、断られました」
笑顔で言う。
……ちょっと、傍目に見ると危ない奴だな。俺。
あ、これ、お土産の牛肉の佃煮です、とガンダさんに包みを差し出したが、言ってる内容と表情が一致して無いので本気で心配されているようだった。
なので、残りを話した。
心配させるの、悪いしね。
「……だけど、もしアイアさんより俺の方が強くなるような事があれば、恋人になっても良い、って言ってもらえたんです」
「……なんと!」
そこで、合点がいったのか。
ガンダさんが驚いてくれた。祝福の驚きだ。
「だから、俺、冒険者になります!」
俺はそう言って、ガンダさんに頭を下げた。
……ガンダさんは、冒険者だ。
かなり高齢だけどな。
神官だから、色々と仕事があるんだそうで。
それで食べてるらしい。
そして若い時は、神官戦士として活躍してたそうだ。
俺の考えはこうだった。
ガンダさんに弟子入りし、冒険者としてやっていくためのイロハを教えてもらう。
そして冒険者として戦って、強くなって、いつかアイアさんに戦いを挑み、勝つ。
そうすれば、アイアさんは俺と付き合ってくれる……。
「……俺の、師匠になっていただけますでしょうか?」
「……事情は分かった。拙僧としても、姪が生涯独身というのは残念な気持ちはあるでござるからな」
本気で鍛える。厳しいから覚悟するでござるよ?
ガンダさんの言葉は、笑いが一切無かった。
本気の言葉だ。
……望むところ!
本気で惚れた女性のためなら、俺は命だって投げ出せる。
そういう男でいたいんだ!
だったら、修行ぐらいで音を上げてたまるもんか!
……こうして。
俺はガンダ師匠に弟子入りをし、最強の戦士を目指して修行を始めたのだった。
……最強の戦士の想い人に勝ち、その愛を勝ち取るために!
~1章(了)~
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