俺、彼女に勝ったら付き合ってもらうんだ~恩人の姪の女戦士に惚れてしまった少年の話~

XX

1章 俺の初恋の相手は最強の女戦士

第1話 異世界転移した。

 俺の名前は五味山宇治ごみやまうはる

 犯罪者の一族の高校生男子(2年生)だ。

 俺の親戚でムショに入っていない奴はほとんどいねぇ。


 親父はムショはホームだって言ってるし。

 クソババアもムショは別荘だって言ってる。



 狂った一族。



 俺はこんな一族、抜け出したかった。


 俺はこいつらとは違う。

 五味山姓を名乗るたび、他人の対応が変わるのを何度も経験してきて、悲しく、悔しい思いを重ねて来た。


 でも……


「お前の声は冷たい」


「その冷酷そうな目付きが気に入らない。さすが悪名高い五味山一族の男!」


「クズのくせに表を歩くな! お前はガタイ良くて背が高いから威圧的なんだよ! 迷惑だ!」



 ……世間の扱いはこんな感じだ。誰もが俺を嫌う。


 これで悪名高い五味山一族でなければ、ここまで酷くは無かったんじゃ無いかと思うけど。

 俺が五味山一族なのは変えられない。


 畜生、畜生。


 だけど、言われるがまま悪に流れるのは悔しかったから、意地でも真面目に生きてやった。


 勉強も真面目にやったよ。

 おかげで中の上の成績をキープした。


 けれど……


 内申点が最悪で、底辺の「覇気陀女はきだめ高校」しか合格できなかった。

 名前さえ書ければ入学できる最低の高校だ。


 悔しかったよ。


 ……でも、それでもここでグレるのは負けたことになる。

 俺は真面目に生きてやるんだ……。



 だが……それも、今日までだ。



 俺は今、警察官に追われていた。


 理由が腐ってる。


 下校中、その道中で万引き野郎が俺の鞄に、万引きしてきた漫画の単行本をねじ込んで行きやがったんだ。

 それに気づかなかった俺もマヌケかもしれないけど。


 万引き野郎を追って来た警官と店員に、犯人扱いを受ける羽目になってしまった。


 誤解だ、知らない、と言っても、通じなかった。

 


 嘘吐け! お前の目はやってる目だ! 現に商品だって持ってるじゃ無いか!


「これはいきなりねじ込まれて」


 また嘘を吐いて言い逃れしようとしているな!?


 ……話にならない。


 このまま、警察に連れていかれたら、どうなるか俺でも予想がついた。

 警察に行き、俺の生まれが明らかになり、いよいよ犯人に決定される。


 ……一応、俺はこの国の警察がどういう流れで犯人を見つけてくるのかについては知ってはいるんだ。


 ズバリ、前科がある奴と、近所の評判が悪い奴。


 そういう奴を、事件が起こると周辺住民でそういうのが居ないのかを調べて来て、そこを軸にして捜査を展開するんだ。

 そりゃ、犯人だって人間だ。

 重大事件を起こす前に、何か他の事件を起こしている可能性は低くないだろうし。

 何も前科が無くても、近隣住人に嫌われている人格破綻者の可能性だって高いだろう。


 一見、差別的に見えるかもしれないけど「犯人を捜す」という視点では、決して間違っていないと思う。


 けれど。


 そのやり方は、俺の一族と、俺自身については最悪に相性が悪かった。


 だって俺は五味山だもの。


 居るだけで汚物扱いを受ける、クズの一族の出だもの。


 話せばわかる、は通用しない。


 話しても悪化する、が正しい。


 ……だから、俺は逃げた。


 逃げたら罪を認めたことになる?

 そりゃそうだ。


 けれど、ここで大人しくしてても結果は変わらないんだよ。


 逃げるしか無いんだ。


 線路の傍だった。


 踏切が、カンカン鳴ってた。


 後ろから、警官と店員が追ってくる。


 俺は焦りに焦った。


 捕まったら、終わりだ。


 ……だから


 俺は、線路に飛び込んだ。

 遮断機の下りている線路に侵入したんだ。


 電車が迫ってるの、分かってたよ。


 でも、こうしないと逃げられないと思ったんだ。


 後ろに、歯を剥いて追ってくる警官と店員。


 焦りと恐怖の興奮で、心臓が踊り狂ってる俺。


 迫ってくる電車。


 早く向こうに行かないと、死ぬ。


 迫ってくる電車。

 急ブレーキ音。


 ……そのとき。


 足が、縺れた……


 あ……


 自分の手前。1メートル圏内に迫ってくる電車の先頭車両。

 運転手の引きつった顔が、やけにはっきり見えた……



 ……

 ………



 気が付いたら、道で寝ていた。


 身を起こす。


 草が無いだけの、粗末な道に、その他の、ぼうぼうの草むら。


 ボケーっとした頭。

 だんだん、はっきりしてきた。


 ……俺、死んだよな?

 完全に、死ぬコースだよな?


 で、この状況……


 俺の頭の中には、ひとつの可能性があった。


 ……異世界転生!


 俺だって、流行りのものくらいはチェックしてる。

 だから、その程度の知識はあった。


 現実で死んで、その記憶を持ったまま。別の世界に生まれ変わる……!

 俺の姿は、高校生のまんまだ。

 覇気陀女はきだめ高校の制服の、ガクランのまんま。


 だからこれは正確に言うと、異世界転移かもしれないな。


 ……まぁ、どうでもいい。そんなことは。


 俺のこのときの気持ちは「やったぜ!」だった。


 ここでなら俺はやり直せる! そう思ったんだ。

 ここでなら誰も五味山一族の事は知らない!


 ここでなら、俺は俺の人生を生きられる!


 前の世界に未練なんかこれっぽっちも無かった俺は、喜びしか無かった。


 それに、それにだ!


 異世界転移したら、何かチートスキルを貰えるのが相場だよな?


 で、冒険者になってウハウハで、モテモテで……


 俺の脳裏に、薔薇色の未来が広がった。


 馬鹿か? だって?

 ……このぐらい良いだろ。俺だって、健全な男子高校生なんだよ!


「ステータスオープン!」


 ……まずは、試した。


 こう言うと、自分のステータスが見れたりするんだよな?


 ……転生するときに神様にも何にも会わなかったけど、まずは試してみないと。


 ……結果。


 何も、起きなかった。


 ……言い方が、違うのかな?


 ……他にも「プロパティ」だの「ステータス」だの。

 言い方を変えてみたけど、何も起きなかった。


 ……無いのか? ひょっとして。


 いやいやいや。

 まだ希望は捨てるな!


 誰かに聞いてみよう!


 ……誰か……居ないか?


 見回す。


 人っ子ひとり、居なかった。


 ……しょうがない。

 ここに居ても、腹が減るだけだ。


 この道を、行こう。


 進めば、どこかの街に出るかも……


 見たところ、誰も居ないし。

 食べ物も、水のアテもないし。


 ここに居たら自分の身が危うくなるな。


 そう思えたから、俺は行くことにした。


 ……道中、長い棒と、錆びたナイフを拾った。


 ゴミだ。


 ゴミだけど……


 俺は、ナイフを近場の雑草をこより合わせて作った紐で棒に括りつけ、即席の槍を作った。


 槍は昔の戦争でも、雑兵に持たせた武器だったはず。

 ということは、俺でも扱える可能性が高いわけだ。


 ……こんな世界だ。


 いきなりゴブリンが現れて、襲ってくるかもしれないし。

 武器はあった方が良いだろ。


 粗末な即席槍を肩に担いで、俺は歩いた。


 2時間くらい歩いたかもしれない。


 すると、街が見えて来た。


 城壁に囲まれた街だ。


 都合のいいことに、門も見える。


 おおお……


 俺、ツイてるじゃん!


 走ったよ。疲れてたけど。


 人だ! 人が居る!


 そうして、門に近づいたら。


「止まれ!」


 門の左右に控えてた、鎧姿の番兵? に、いきなり日本語でそう言われた。


 日本語!? ここ、異世界なのに日本語通じるの!?

 俺が混乱していると


「怪しい奴だ! 身分証を見せろ!」


 番兵ふたりが、腰の剣を抜き放ちながら迫って来た。


 ま、マズイ!


 なんとなくだが、このままだと斬られる。

 そんな予感があった。


 だから俺は……


 槍を投げ捨て、その場に土下座をした。


「怪しい者ではありません! 何も知らない記憶喪失者でございます! ここはどこでしょうか!?」


 ……本当は記憶あるけど、それを言うとややこしくなるから、俺は嘘を言った。

 まぁ、本当の事言っても信じて貰える保証無いしな。これがベストだろ。


 いきなり土下座した相手を、無視していきなり斬ったりはしないだろう。

 ちょっと見通しは甘いかもしれないが、俺の取りうる行動は俺にはこれしか思いつかなかった。


 土下座では足りないかもしれない……


 俺は、手を前に伸ばして、足も延ばし、地面にうつ伏せに這いつくばった。


「ど……土下寝」


 ごくり、と番兵たちが唾を飲む音が聞こえる。


 お願いだ……通ってくれ……!


 俺が祈ると、番兵たちはやがて、こう言ってくれた。


「分かった……言い分を信じよう。ここはゴール王国の地方都市、スタートの街だ」


 ゴール王国……スタートの街……!


 俺はようやく確信することが出来た。


 聞いたことも無い国の名前。ありえない状況。


 間違いない……


 俺は、異世界に転移したんだ!

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