第86話 エピソード6(五方陣の中)
エピソード5のマイケルの妻ホーリー・ヒル(四十)は母親のジュディー・ニーム(六十三)と話をしていた。
ホーリー(ママ!見て!こっちよ!私に答えて!)
ジュディー(ああやはり恐れていたことがとうとう起こってしまった。教祖様はいつも言われていたよ。この世の終わりが近々やって来ると。これがその前触れなんだ。ああ恐ろしや。教祖様!教祖様!聞こえますか?私です!お助けください・・・)
ホーリー(どうして娘の私でなくてエセ宗教のデビッド・ピアースなのよ!!ママ!そんな宗教にお金をつぎ込むのは辞めてっていつも言ってるじゃない!)
ジュディー(ああ娘の幻覚が見えます。娘はいつも私を責めることしかしない。高校を卒業すると同時に都会へ出て一度も帰ってこなかったあの子。どうして今目の前に見えるのでしょう?教祖様!)
ホーリー(ママ!そんな変な詐欺宗教に凝ってるママがいやだったのよ!解る?いくら辞めてくれって頼んでもママはそのインチキ教祖へ全財産を持って行くし、私は疲れ果てて家を飛び出して就職したの。主人のマイケルと子供のロジャーもママに会わせるために帰ったこともあるでしょ?その度に私たちを追い返したのはママじゃない。ママ聞いて。勝手に出て行ったのは悪かったと思ってるわ。でもあの頃私は十七歳でとてもママの面倒を見る気にはなれなかったの。せめて自分の人生を私なりに歩んでみたかったのよ。ママ。それにね。パパが死んだのも事故よ。単なる交通事故。あのインチキ教祖が言うようなママの行いが悪いせいでも何でもないのよ。ねえ。聞いてる?ママ!)
ジュディー(ああ!教祖様!どうして私の声に答えてくださらないのですか?いるはずのない娘が見えているのです。この世の終わりなのでしょうか?教祖様!!!)
教祖・デビッド(ああー!ウルサイ!ウルサイ!みんなが私の名前を呼んで・・・これは誰だ?ああ、確か。ジューディー・・・ジューディー・ニームか!たいした金持ちじゃ無いがガラスの玉を水晶と言えば信じてホイホイ買ってくれるあのおめでたいジューディーか!まあまあの客だ・・・)
ジュディー(教祖様!なんと言うことを!)
ホーリー(ほらね!ママ。この空間では嘘がつけないのよ。よく聞いて!あのインチキ教祖の本音を聞くいいチャンスだわ。)
教祖・デビッド「おかしな事になっていますね。神は・・・」
教祖は口でもごもご説教を呟いているが声は届かず考えていることだけが響き渡る。
教祖・デビッド(何でもかんでも困ったことを助けてくれ!助けてくれと抜かしやがって!だいたいがテメエの普段の行いが悪いからそう言う目に遭うんだろうが!!自業自得ってやつよ!お前らは俺のインチキな説法に救われてるんだからとっとと金だけ持ってくりゃあいいのよ。ウダウダお前らの愚痴につきあってやってる俺様はそこらのカウンセラーよりよっぽど素晴らしい働きをしてやってるってもんだ!!)
ジューディー(まさか・・・教祖様!それが本音なのですか?これまでの教えは。私の主人が亡くなった時におっしゃったことは)
教祖・デビッド(主人が死んだ!?いつのことだ?覚えちゃいないがまた適当に言って本人の行いが悪いとか何とか言えばこの新しい十字架がまた売れることだろうよ)
ジューディー(教祖様・・・)
ホーリー(ママ!解ったでしょ!これがこの教祖の本音よ!ママはこれまで騙されていたのよ。えっ?あなた?私を呼んでるの!?ここよ。ここにいるわ。)
マイケル(ああ、ホーリー!やっと僕の声に答えてくれたんだね。ん?義母さん。どうしたんですか?ああ、インチキ宗教家のデビッド。なるほどねこの空間では嘘がつけないからな!お前の猿芝居もそこまでだな。)
教祖・デビッド(まずいな。俺が考えてることが筒抜けみたいだ。こりゃやばいぞ。)
ホーリー(ねえママ。お願いよ。もう宗教なんかに頼らないで。私がいるじゃない。ママには寂しい思いをさせたこともあったけど私も人の親になってママの気持ちも少しは解るようになったのよ。パパが亡くなってから女手一つで私を育ててくれる間、ママは寂しかったのよね。私当時はそれを解ってあげられなかった。ごめんなさい。ママ)
ジューディー(ホーリー。そんなに私のことを心配してくれて。私はてっきりお前に恨まれてるとばかり思っていたよ。ありがとう。ホーリー。)
マイケル(お母さん僕とホーリーの家に来ませんか?一緒に暮らしましょう!)
ジューディー(まあ!)
ホーリー(あなた!本当に?ああ!本当だわ心底そう願ってくれてる!)
マイケル(ホーリー今まで仕事人間でほとんど家のことを顧みなくて悪かったよ。君のお母さんに対する優しい気持ちを感じて君が本当に僕の妻であってくれて良かったと思ってるんだ。これからは家族を第一に過ごすことにするよ。)
ホーリー(あなた。・・・えっ?会社辞めちゃったの!?まあ、そんなことが。大変だったのね。大丈夫!どうにかなるわよ。もうロジャーも手がかからなくなったし。私も働くわ!ママ。そういう訳だから家のことお願いね!)
ジューディー(まあ。ホーリーったら。そうね。私もがんばらなくちゃ!マイケルさんよろしくお願いしますね。)
ホーリー(ロジャー!ロジャー!おばあちゃまと暮らすわよ!どこにいるの?)
ロジャー(・・・ああっ!パパ!ママ!ねえ。僕ね友達がたくさん出来たんだよ。えっああ・・・そういくこと。そっちも色々あったんだ。おばあちゃんお久しぶり。一緒に暮らせるなんて僕うれしいな。)
ジューディー(ロジャー。ろくにかわいがってあげてもいないのに。優しい言葉をかけてくれて。ありがとう・・・)
ロジャー(だってママがいつもおばあちゃんは優しい人だってぼくに教えてくれてたから。そんなの当たり前じゃない!ねえパパ友達がヤンキースの試合見に夏休みに来るんだ。チケットまたもらえるよね?)
マイケル(ウーン。もう無理なんだ。でも何とか購入するよ。外野席になると思うが。悪いな。)
ホーリー(ふふふ。パパね。会社辞めちゃったんですって。ママもこれから働くからロジャーはおばちゃんと良い子でいてね。)
ロジャー(ふーん。そうなの。でもおばあちゃんがいてくれるんなら、安心だね。おばあちゃんのローストビーフが僕は食べてみたいな。ママがどうしてもあんな風に作れないっていつも僕に言うんだ。)
ジューディー(まあ。ホーリー!あれを覚えてくれてたのかい?ええ。ロジャー。あんな物で良ければいつでも作りますよ。)
マイケル(おっ!こりゃ楽しみだ。なあロジャー!)
ロジャー(うん!おばあちゃん早くこっちに来てよ!ねえパパ。友達って必要だよね?)
マイケル(そうだな。自分の存在を確かめるための踏み台として使うのではなくてこんな風に相手の気持ちを感じて相手が喜ぶ顔が自分もみたいと思える存在であれば友達も家族も人はお互いに必要だと感じると思うよ。)
ホーリー(あなた。悲しいのね。またカークとも話せる時が来ると思うわ・・・)
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