第17話 南下

どこまでも続く舗装されていない赤土の道が延々と伸びている道の両端にはところどころに青い草木が生えてかろうじて道という形を示しているようだ。季節は夏を通り過ぎ肌に気持ちいい風が時々吹いてくる。真っ青な雲ひとつない地平線の向こうから三台のキャンピングカーが土煙を上げながらゆっくりと走ってくる。その先頭の一台には青磁赤羽緑尽が乗り込んでいた。


青磁を中心に赤羽とそのグループは病弱な緑尽を守りながら少し田舎の町を流れ渡っていた。車の中青磁は助手席に座り後ろには赤羽と緑尽が座っていた。青磁は過ごしやすくなった風を頬に受けながら延々と続くハイウエイの先を見据えて黒鷹のことを案じていた。

「青磁さままた弟の黒鷹さまのことを案じておられるのですか?」

運転をしている技工士の灰未はいみが青磁にチラリと視線をなげて微笑みながら問いかけた。

「あっ。ああ。翁がついては行ってくれたもののクロはまだ十五歳だ。私が心配するもの無理はないだろう。」

灰未はにこりと微笑むと前方を向いたまま言った。

「青磁さまは本当に黒鷹様のことをかわいがっておいでですね。この二手に分かれての移動も青磁さまが最後まで反対なさった。それも弟の黒鷹様のことを案じてのことでしょう。」

後ろで赤羽と緑尽がこらえていたがくすくすと笑い声をもらす。それに気づいて青磁が後ろを振り返り少し顔を赤らめて言った。

「なんですか。緑尽様まで。弟を案じることは別に恥ずかしいことではありません。」

緑尽がこらえていた笑いを声に出し「ははは」と笑うと青磁に向かって身を乗り出した。

「私にも妹・紫音が黒鷹と一緒に移動しておるのでその気持ちは同じだ。だがいつもクールで理知的な青磁の泣き所があのやんちゃな黒鷹というのが周りにはどうにもほほえましくてな。そうだろう赤羽?」

くすくすと緑尽の横で笑っていた赤羽もうなずいて続けた。

「そんなことですから末の白虎がいつもいじけているのです。白虎は幼い頃から青磁兄様とクロの仲間に入れて欲しくて仕方がなかったのですから。」

誰もが幼い頃からのそんな様子をつぶさに見てきただけに昔の様子を思い出し車内は一斉に笑い声の渦をなした。

灰未が思い出し笑いながら続ける。

「あー末の白虎様はいつも赤羽さまの膝にまとわりついて泣いてなすった。私が訳を尋ねると“兄者たちにおいていかれた。“と言ってはまた赤羽様の膝に鼻水を押し付けて・・・」

青磁も前を向き直り昔を懐かしむように目を細めて微笑んでいる。

「白虎はいつも稽古の前になるとなぜか熱を出して行けなくなるんだ。最初は心配もしたがクロと二人でだんだんと稽古は二人でするものというようなリズムが出来てしまって・・・白虎が元気な時でも二人で出かけてしまったことがよくあったな。」

「そりゃひどい。白虎様もいじけなさるというもんだ。」

と灰未がからかうように声を上げると車内は再び笑い声に溢れるのだった。続けて灰未が赤羽に

「これ覚えてます?」

と昔話のオンパレードを始めた時青磁の携帯のベルが鳴った。

「もしもし」

青磁が話の和から抜けて携帯に出ると相手は翁だった。

「よい知らせではないがの・・・」

翁が低い声で青磁に告げる。後部座席に座り懐かしい話で盛り上がる赤羽とその様子をほほえましく見つめる緑尽の姿が前方からの夕日に照らされて青磁側のドアミラーに映し出されていた。青磁は西日を反射して真っ赤に輝く赤羽の瞳をドアミラー越しに見つめながら翁の話を聞いた。

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