第15話 努力

成熟しきったアメリカの共和党と民主党という二分化した政治抗争に票を投じるのは今も昔もアメリカの国民である。しかし昔と違う点といえば世界の大半を制したアメリカの巨大化を支えた軍事力つまりは軍部の力の持ちようが肥大化してしまった点つまり、力で押せばすべてが成し得る。富も栄誉も歴史でさえも全てをアメリカ人の思うとおりに書き換え持ちうることが出来きてしまう事を証明してしまったこの数百年でアメリカ人は表向きは民主主義をしかし本音の部分では軍事力を優先させてきた。その中和策として歴史ある王制による統治というお冠をつけることで文化人たる縮図を世界へかろうじて示そうとしていた。まるでとってつけた冠のように・・・白鳥の衣を来た七面鳥のようだとせせら笑う評論家もいたほどだった。


 世論はここ何十年間も建前の民主主義優先を述べしかし本音の部分では軍事力で優位に立ち続けて欲しいと願った展開を繰り広げてきた。政治家もしかりで、決して民主党の会派をつぶすことは無かったがそれは世界に対し合議により決定しているというデモンストレーションのためでしかなかった。しかも民主党の中でも本気で軍事力の削減を望んでいるものなどもはや皆無に等しくなっていたのだった。政界はまさにパフォーマンスの場と化し政治家は軍部の予算立ての為に存在し王家はその正当性の為に存在しているに過ぎなかった。


 フレデリックは森で紫音に出会ってから数ヶ月じっと自分の周りの動きを熟察していた。腐りきった政治家の中でもほんの一握りだが昔の本当の意味での議会制を取り戻そうと「軍備縮小」の運動を繰り広げているものもいる。そういった者は民衆の中にもほんの少数当然存在する。しかし今やその存在は焼け石に水で軍部のサイモンらにとっては取るに足らぬことであった。しかしつぶさないのは自由の国アメリカを内外に押し示すためであり当然その勢力が大きくなり始めると圧力をかけ始める。という流れを繰り返していた。

また制圧したと言っても国の周辺部での小競り合いは日々繰り返されておりアメリカの軍からはその都度小規模な部隊を送り込み鎮圧に力を注ぐことは珍しくはなかったのである。もはや政治家は軍部の腰ぎんちゃくと化しており予算立ての権限を軍部にひけらかしながら逆に次期当選のための保身作りの方へ全力を傾けていた。


 フレデリックは自分の価値と必然性についてーこれから「フレデリック自身でなければ出来ない」と言われるに値する仕事を得ることが権力への一番の近道であることを学び始めていた。王家の者でいいのであれば自分が死んだ後腹違いの弟でも十分通用することになる。 周りをよく観察しながら決して軍部の最高権力者であるサイモンの気を害することの無いよう細心の注意を払いながらフレデリックはまず王家の次世代としてアメリカにとっていかに軍事力が必要か今アメリカ国がいかに優れ満ち足りているかまたは長いアメリカの歴史の素晴らしさなど国の象徴としてマスコミを使ったPRの部分の役目を少しずつこなしていくことにした。


 不思議なことにフレデリックが心を決めた日から顔のあざも少しずつ薄くなり今ではほとんど目立たない程度にまで回復していた。医者の口からも以前のあざはストレスのせいにしてかたずけられていたほどだった。あざが無くなると美しいフレデリック皇太子はアメリカ国の象徴にふさわしくだんだんともてはやされ始めた。最初は医学の見地から「心と体のバランス」などと訳のわからない特集で取り上げられたりもしたがフレデリックはいやな顔ひとつせず生真面目な皇太子ぶりをメディアの画面に向かって演じて見せた。女性を中心にこの美貌の皇太子の番組は内容の如何を問わず十分な視聴率を得ることが出来るものとして認知されるようになっていった。どんな内容の番組であろうとフレデリックは読み上げる原稿を必ずサイモンに見せサイモンの許可が下りたことだけを口にするよう心がけた。軍部のイメージを上げアメリカが大国になった影の功労者は軍事力にあるという意味合いをひっそりとメッセージの片隅に付け加えることをフレデリックは忘れなかった。


またコメントを求められるという観点からサイモンに願い出て軍部の会議や現在の重要な進行議事戦線の状況など報告の閣議に頻繁に参加するようになる。フレデリックは軍事状況に対し決して意見を言わぬよう心がけた。

 フレデリック自身を扱った特集番組やゲストとしてフレデリックが迎えられる番組が増えるにしたがってコメントの量も回数も増大しまたその反響の大きさからサイモンがフレデリックを重宝がる傾向も強まることとなる。もはやアルコール中毒寸前のフレデリックの父親リチャードには予算書の印を付く以外何の利用価値も見出していなかったサイモンはフレデリック皇太子の意外なしかし効果的な利用価値を充分に感じていた。というのもフレデリックの好評は同時に軍部への賞賛と比例した結果を生んでいったからだった。またフレデリックが勝ち得た信用と増大したコメントの量にサイモンのチェックもだんだんと緩慢になって行ったのは目に見えて明らかだった。

 サイモンのチェックが緩まるとフレデリックは七対三の割合で軍事力と議会制の両方の必要性を述べるように心がけた。王室と言う立場からこの中立的な発言もまた視聴者に思慮深い皇太子というイメージを植えつけるのに効果的だった。


 フレデリックが確実に自分の地位を利用しまた国民が望む皇太子像を演じきりサイモンに対する足固めを始めてから一年が過ぎようとしていた。

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