第11話

「失礼します。……誰もいないな」



 保健室にやって来たが、無人だった。

 まあ、ただ巴を寝かせてもらえれば、なんでもいいんだけど。



「正吾くん、恥ずかしい」

「あ、悪い。今寝かせるから」

「……べ、別に抱っこが嫌ってわけじゃ……」



 なんだ、抱っこが好きなのか?

 意外と可愛いところもあるんだな。いや、確かに巴は可愛いんだけどさ。


 微笑ましいものを見る目で、俺の腕の中で縮み込んでいる巴を見る。

 その視線が恥ずかしかったのか、更に縮み込んでしまった。

 何この小動物感。


 っと、いけない。まずは巴を寝かさないと。


 空いているベッドに巴を寝かせ、靴を脱がせた。



「そ、そこまでしてもらわなくても大丈夫」

「ダメだ。いくら寝不足だけと言っても、靴を脱ぐのも辛いだろう。こういう時は、俺を頼ってくれ。まあ、頼りなかったらごめんな」

「そ、そんなことない。正吾くんには、いつも助けられてる」

「なら、今日も甘えてくれ」

「……ん。ありがと……」



 と、ベッドに横になって俺にされるがままの巴。

 やっぱりまだ恥ずかしいのか、身をよじってもぞもぞしている。

 ま、そりゃ恥ずかしいか。何せ俺は男だし……鈴乃のお世話をしすぎて、俺は何も感じないけど。


 靴を脱がせ、布団を首まで覆うように被せる。

 直ぐに眠気がやって来たみたいで、うつらうつらとし始めた。

 けど、俺の視線に気付いて若干頬を染めた。



「……見られるの、恥ずかしい」

「なんで?」

「……寝顔、ブサイクかも……」

「巴はいつも可愛いから大丈夫だ」

「……ばか」



 何故か怒られた。解せぬ。

 巴は羞恥心でソワソワしていたが、それでも眠気には勝てず。


 直ぐに可愛い寝息を立てて、眠りに落ちていった。



「おやすみ」



 聞こえはしないだろうけど一言声を掛け、ベッドを仕切っているカーテンを閉めた。

 一応、先生宛に書置きしておくか。


 ノートの切れ端を使い、ベッドに生徒が寝ていることを書置きすると、教室に向かう。

 朝だと言うのに、相変わらずの喧噪だ。

 耳に入ってくるのは、鈴乃の噂やポジティブなものばかり。

 さすが、学園の王子様だ。



「お、日向ー」

「……ああ、清澄か」



 声を掛けられた方を振り向くと。


 巨人がいた。


 金髪のソフトモヒカンに、190センチ近い身長。

 精悍な顔つきと程よくついた筋肉。

 まさに巨人だ。


 友崎清澄ともさききよすみは、軽快な足取りで小走りに近付いて来た。



「よっす、日向。お前がこの時間にここにいるなんて、珍しいな」

「ちょっと保健室にな」

「なんだ、体調不良か?」

「俺じゃなくて巴が。保健室に連れてってたんだ」

「あぁ、黒瀬か。なんだ、相変わらず人助けしてんのか」

「そんなんじゃないさ」



 別に善意や悪意で人助けをしてるわけじゃない。

 そこに困ってる人がいたら手を差し伸べる。それだけだ。



「清澄は朝練か?」

「おう。もうすぐレギュラー選考だからな。リキが入るってもんだ」



 金髪でちゃらちゃらしてそうに見えるが、こいつは立派なスポーツマンだ。

 見た目通りバスケ部で、一年の頃から持ち前の運動能力と高身長を活かしてずっとスタメンを張っている。


 それでも驕らず努力し続けてるんだから、すごい男だ。


 が、しかし。



「ところで、他校の女の子とはまだ付き合ってるのか?」

「いや、先週別れた。今は——」

「トモせんぱーい!」



 と、背後から元気な声と共に誰かが走って来た。

 清澄のことをトモせんぱいと呼ぶのは、この学校でただ一人。



「お、香奈」

「もー、置いてくなんてひどいですよー。……げっ、日向正吾……!」

「げ、とはご挨拶だな」



 久城香奈くしろかな

 バスケ部のマネージャーで、ちょっとふわふわしてるコギャルな女の子だ。


 久城は清澄の腕に抱き着き、俺を敵意剥き出しの目で睨む。

 久城からこういう目で見られるのは慣れてるが……。



「なんだお前ら、付き合い始めたのか」

「おう。昨日から」

「先週別れて、昨日から付き合うって……相変わらずモテてんな」

「否定しない」



 嫌味なく、堂々としてやがる。

 そう、清澄はとにかくモテる。モテている。

 俺の知る限り、彼女がいない期間がないほど常に彼女がいて、モテている。


 ただし、こいつ自身がバスケ馬鹿のせいで、彼女よりバスケを優先してフラれるのだが。



「日向正吾、私のトモせんぱいを独り占めしないでください。今は私と付き合ってるんですから」

「いや、別に独り占めしてるつもりはないが」

「何言ってやがるんですか。噂で聞いたんですからね。トモせんぱいは彼女といるより、日向正吾と一緒にいる時の方が生き生きしてるって」



 何その噂、知らない。

 清澄を見ると、なんか苦笑い浮かべやがった。清澄も困ってるみたいだ。



「……ま、いいや。清澄、バスケ好きもいいが、ちゃんと幸せにしてやれよ。せっかく可愛い彼女なんだから」

「おう。香奈は俺のバスケ好きに理解を持ってるからな」

「そうですー。日向正吾に言われなくても、私はバスケしてるトモせんぱいも好きなんですー。あと、そんな挨拶するみたいに可愛いって言わないでください。ふんっ」



 嫌われたもんだな、俺も。

 どうにかしてくれ、という思いで清澄を見るが、また苦笑いで返された。


 ま、久城に嫌われようが、どうでもいいけどな。



【あとがき】

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 ☆☆☆→★★★


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