第10話

 凛麗学園に到着すると、前の方に見慣れた黒髪が見えた。

 なんか、後ろ姿でもわかるくらいふらついてるけど……大丈夫か、あいつ?



「巴」

「……あ、正吾くん。おはよう」

「ああ、おはよう。……ふらついてるし、顔色も悪いけど……大丈夫か?」

「ちょっとアイディアが浮かびすぎちゃって、寝不足気味……」



 ああ、漫画のネタか。

 巴は『出涸らし万年筆』というペンネームで漫画を描いている、プロの漫画家だ。

 人気もあり、SNSでも大バズりするほどの漫画をいくつも描いている。

 俺はひょんなことからそれを知って、たまに手伝ったりしているんだが……。



「またか。ダメだぞ、ちゃんと寝なきゃ」

「うん、お母さん……」

「誰がお母さんだ」



 ふら、ふら。ぽわ、ぽわ。

 うーん、だいぶ重症だ。意識が飛びかけてる。



「黒瀬さん、おはよう。大丈夫かい?」

「トモちゃん、おっはよー!」

「……おはよ」



 巴はそっと俺の体を壁にして、俯きながら返事した。


 巴は、俺や斎藤千代子さんといった友達とは普通に話せるが、ほぼ話したことのない相手には気後れしてしまう。

 鈴乃も夢葉もいい奴なんだが、ほぼ面識がないからあんまり話したくないみたいだ。


 それを察したのか、鈴乃は困ったように笑い。

 察せていない夢葉は元気いっぱいに巴に話し掛けた。



「あれ、トモちゃん元気ない? 朝は一日の始まりだよ! 大きな声で、おはよー!」

「…………」



 巴の瞳から光が消え、完全に俺の影に隠れた。

 うーん、これはまずい。



「夢葉。元気いっぱいは夢葉のいい所だけど、巴はそういうタイプじゃないから、あんまりそう言わないでやってくれ」

「えへへ、褒められた」



 褒めたけど、今はそういう場面じゃないから。



「あ、そうそう。ごめんね、トモちゃん」

「……いい、気にしてない」



 まだ夢葉が怖いのか、俺に隠れて返事をする巴。

 多分、睡眠不足と疲労が相まって、人見知りが加速してるんだろうな。


 保健室に連れていくかどうか迷っていると、肩を優しく叩かれた。



「ところで、正吾。ひとつ聞きたいんだが……君はいつ黒瀬さんと仲良くなったんだい?」



 え、鈴乃?

 ずいっと顔を近付けてくる鈴乃だが、その顔はいつもの王子様スマイルではなく、若干の怒気を孕んでいた。


 って、ちょ、痛い痛い。鈴乃さん、肩強く握りすぎ……!



「ま、まあ、ちょっとした縁があってな」

「へぇ……」



 待って、怖い。怖いですよ、鈴乃さんっ。

 ハイライトを消した目で微笑まないで……!



「そ、そうだっ。ほら巴、体調悪いなら保健室に連れてってやるよ。いや連れて行くからな、倒れたら危ないしっ。よし、そうしよう……!」

「え? きゃっ」



 鈴乃の手を逃れ、巴をお姫様抱っこして下駄箱に向かって走る。

 こういう時は逃げるが勝ち。三十六計逃げるに如かず、だ。



   ◆鈴乃◆



 ……行ってしまった。

 少し強く問い詰め過ぎたかもしれない。反省。



「むぅ。しょーご、行っちゃった」

「そうだね。でも、黒瀬さんを保健室に連れていくって言っていたし、しょうがないさ」

「ま、しょーごらしいね」



 ああ、とても正吾らしい。

 困った人がいたら、全力で手を差し伸べる。

 それが、日向正吾という男だ。


 …………。






 でも、それとこれとは話が別だよおおおおおおおおおおおお!!!!






 何!? 正吾、夢葉だけじゃなくて黒瀬さんとも仲良いの!?

 私の知らないところで何女の子と仲良くなってるのさ!

 しかも、2人とも超美人! べっぴん! 可愛い!

 くぬぬぬぬっ、正吾めぇ……!


 ……って、私別の正吾の彼女でもなんでもないし、怒る筋合いもないんだけどさ。

 それでも……なんかもやもやするっ。

 別に正吾の交友関係い口出すつもりもないし、好きにしていいと思うけど。


 でも……あああああああああ、うううううううううううううう。



「ところで鈴ちゃん」

「っ。な、何かな、夢葉」



 いけない、いけない。

 今の私は学園の王子様だ。その外面は崩しちゃいけない。

 冷静に、クールになるんだ、私。



「鈴ちゃんは、本当に偶然、道でしょーごに会ったの?」

「え……あ、ああ。そうだけど……それがどうかしたのかい?」

「う、ううん。なんでもないっ。……そっか、偶然……そっか」



 頬を染めて、髪をそっと整える夢葉。

 ……まさか……いやいや、そんなまさか。

 ……え、まさか、夢葉……?



「ゆ、ゆめ——」

「は、早く教室行こうっ。チャイム鳴っちゃうよ……!」



 と、まるで話を誤魔化すかのように下駄箱に向かって走っていった。


 夢葉……もしかして、正吾のこと……。


【あとがき】

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 ☆☆☆→★★★


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