アツくなりそうだな……!
【久しぶりに繋がったと思ったら!?アンタ今何処よ!?】
脳内に施した、インプラント・チップを介した脳波通信だ。
【ブリティッシュヒルズだ!時間が無い!今すぐ私と合流しろ!】
ローター音が聞こえる。
ハルナがバックミラーを覗くと、防衛軍の兵員輸送ヘリが一機、低空で飛来して……そのまま通り過ぎていった。
【天栄村じゃん!中ノ沢からどの位掛かると思ってるのさ!?】
【若旦那が作ったジェットスライダーがあるだろ!?ダッシュで来い!秒で来い!】
【……マジかよ……】
ナルミの溜め息を最後に、通信は終了した。
ハルナはバイクのアクセルを捻る。
前輪が僅かに浮き上がり、バイクは更に加速した。勿論、法定時速内である。
風を一身に感じながら、
――私も随分と甘くなったもんだ。
ハルナは自嘲の笑みを浮かべた。
こんな、一銭の得にもならなさそうな仕事を、自ら進んで行うとは、猪苗代に来る前の自分だったら鼻で笑っていただろう。
『ハルナ君と言ったな……?』
『ああ……』
『すまない……!家族を……頼んだ……!』
大竹とかいう軍人を思い出す。
頼りにされるのは、やぶさかではなかった。
それに……。
『ハルナさん!お気をつけて!!』
『……それはこっちのセリフだ』
時緒だ……。
ただ依頼を受けて、ただ見守っていただけなのに。
時緒の健気な姿を見ていると、胸の奥が暖かくなる。
何か、行動をしたくなる。
『ずっと付き添ってくれて、ありがとうございました!』
『……猪苗代で、また会おう……!』
『はい!』
だから、ハルナは行動した。
自嘲な笑みを、溌剌としたものに変えて。
ハルナは疾走した。
朝の陽射しが煌々とアスファルトを照らす。
もう九月も中頃。秋本番なのだが……。
「今日は……アツくなりそうだな……!」
※※※※
「それ、ソース確かなのかよ!?」
「マジだって!開成山で防衛軍のロボ同士が戦闘してるってよ!ツブヤイターやミーチューブに載ってる!!」
「ソイツらが
「その通り!!」
郡山駅前の歩道橋上に、迷彩パターンのパーカーを着た青年たちが集結していた。
郡山をホームグラウンドとするミリタリーオタクの
「皆!一ヶ所に固まっていると通行人の邪魔になってしまうぞ!」
「もっと端に寄って、一列に並ぼう!」
「応!」
「おっ!そうだな!」
オタクたちは一斉に橋の端に寄り、大砲のようなカメラを昭和通りから開成山公園のある西南西の方向へ向けた。
「何だい今日は…有名なアイドルでも来るのかい?」
通りすがりの会社員(日曜出勤)の男が問い掛けて来たので、オタクたちは発奮に輝く眼差しを向けて応えた。
「通行人はどいてた方がいいぜ!」
「今日、この
オタクたちが何を言ってるのか分からない。しかしながら、その迸る情熱は羨ましい。会社員はしみじみ思った。
……すると。
「……ん?何だ……?」
聞き慣れない音が、会社員の鼓膜を叩く。
甲高い、高速回転するモーターのような音だ。
その音が、周囲の空気を震わせている。
「……来た」
「来た……!」
オタクたちが一斉に西南西の空を仰ぐ。会社員もオタクたちに倣う。
モーター音が、更に大きくなる!
「「「ああっ!!」」」
一瞬、突風が凪いだ。
安積国造神社の鳥居の影から突如、ヒト型の巨影が二つ、踊るように舞い上がり、オタクたちの視界に君臨した。
一つは青灰色、もう一つは濃緑色をした……巨大ヒト型ロボットだ!
「来た!来た!来たァァァァ!!」
「防衛軍のK.M.Xだァァァァ!!」
「先行量産型と……通信機能強化した指揮官型だ……!」
「おいおいおいおい激レアじゃねぇかァ!!」
オタクたちが一心不乱にシャッターを切る。
二体の巨人は、そんな彼らを嘲笑うように空中を縦横無尽に飛び回り――
!!!!!!!!
二体同時に、携えたライフルからビームを発射する!
ビームの先をカメラで追うと、カーキ色をした制式量産型K.M.Xの編隊がいた。
ビームが、回避し損ねた制式K.M.Xの一騎に直撃。青空に巨大な泡沫が膨れ上がった。
!!!!!!
「「うわ~~~~ッ!?」」
眩い閃光!次いで襲い来る空気の振動!オタクたちは堪らず悲鳴をあげた!
今まで慣れ親しんで来たアニメやゲームでのバトルとは……違う!
嫌が応にも感じる現実……。生きた人間同士の……
「……マジだ……」
「マジで、防衛軍同士で戦ってやがる!」
「一体どうなってるんだ……」
オタクたちはシャッターから指を離し……会社員も出勤を忘れ……
「「……………………」」
不思議と、逃げたいとは思わなかった。
見届けないといけない……とさえ、思った。
※※※※
「渡辺、何騎
『隊長が7騎、私が4騎です』
「じゃあ合わせて11騎……いや12騎かっ!!」
大竹の一号騎が、肉薄し斬り掛かろうとしていた制式K.M.Xの横腹にディゾルバーの銃身を叩き込む。
!!!!!!!!
制式K.M.Xは砕けた腹部装甲を郡山駅のバスターミナルにばら撒きながら横向きに吹き飛び、駅ビルに叩き付けられ、力なく崩れ落ちた。
起き上がることは無さそうなので大竹は追撃をしなかったが、渡辺の四号騎が律儀にコクピットにビームを撃ち込んだ。
「思っていたより手強かったな……」
『無傷で無双をしておいてよく仰る』
大竹は苦笑を浮かべながら、コクピットスクリーンに浮かぶ空を見上げた。
残る制式K.M.Xは八騎。大竹と渡辺の戦闘能力を警戒してか、上空を旋回しながら大竹たちを伺っている。
「このまま撤退してくれたら有難いんだが……」
大竹が心情を小声で吐露した。
「大竹さん……」
すると、コクピット後部の時緒が、ピクリと肩を震わせた。
「何か……来ます」
「増援か……?レーダーには何も……」
「来ます。二つ……。その内一つは……気迫が今までの人たちと桁違いに高いです……!」
「何だと……!?」
数秒、間を置いて。
――――!
一号騎のレーダーが物体接近を報せるアラームを奏でた。
『隊長、増援2……!』
「此方でも確認した!」
『……この識別信号は……!』
「…………」
大竹はディスプレイを見つめる。
自分たちに接近する光点が、時緒の警告通り、二つ。
【BUSTER 2】
【BUSTER 5】
大竹は深呼吸、自分を無理矢理落ち着かせて、再びコクピットスクリーンに目を向けた。
大手家電量販店や時緒愛好のアニメショップが入っている駅前ビルの屋上に……。
二騎の先行量産型K.M.Xが降り立とうとしていた。
「久富……!熊谷……!」
続く
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