第二十章 イナ特、壊滅!

お父さんの戦場(フィールド)







 M78星雲ーー。ルーリア銀河帝国本星、首都セレファイス郊外。



「陛下~~!?皇帝陛下~~!?」



 ルーリア皇居内に、甲高い女の声が響く。


 書斎と中庭を繋ぐ石段に腰掛け、一人遅めの昼食ジャンクフードを摂っていたヨハンは、うんざりした溜め息を吐いた……。



「はいはい此処だよ!皇帝は此処に居ますよ~~だ!!」



 他惑星との会議が長引いたせいで若干イライラしていたヨハンは、やや投げやりな叫びで返事をする。


 すると、ヨハンの視界の端……柱のあちこちにティセリアの落書きが残る渡り廊下を、若い半人半馬ケンターリの女性が、今にも泣き出しそうな表情で駆けて来た。


 ケンターリ人の蹄に合わせた専用ブーツが、石畳を蹴ってパカパカ鳴る。


 皇帝直属の親衛騎士団アルダレイアーズ団員、レリベル・リオ・ケントだ。



「こ、ここ皇帝!た、たたたい、大変で、ごご、ござい……!おおお、落ち着いて……落ち着いて!落ち着いて聞いてくださおおえっ!」

「うん……先ずは君が落ち着きなさいよ……」

「おえっ!喉……喉が……げほっ!」



 一体何処から走ればそうなるのか?息を荒らげ、えずくレリベルに、ヨハンは瓶に入った酢葉実ダッチィのソーダを差し出した。



「……一口だけなら飲んで良いよ」

「は、はいっ!いただきまずっ!!」



 レリベルはヨハンの手からソーダをかっさらうように受け取ると一気にあおった。


 レリベルの喉が鳴る。


『一口だけ』とヨハンは言ったのに……。



「ぷはぁっ!美味しいっ!!」

「…………………………………………」



 レリベルは勢い余って、ソーダを全て飲み干してしまった。



「…………でェ?」



 食べ物の恨みは恐ろしい……。


 怨めしそうな目で睨んでくるヨハンに、ホッとひと息ついたレリベルは「は!そうでした!」と蹄を鳴らしーー。


 声高に、報せた……。



!!」





 ※※※※







『たたた、隊長ォ~~!怖い~~!』

「心配するな!お前は後方支援に専念しろ!決して俺の前に出るな!八つ裂きにされーー」



 悲鳴をあげる熊谷に檄を入れようと、大竹は背後にいる熊谷の五号騎に、一瞬だけ目を遣った。


 一瞬だけ、デビル・エクスレイガから気を逸らしてしまった。



『隊長……っ!』



 四号騎に乗る渡辺の張り詰めた声が大竹の耳朶を叩く。


 大竹は、自分の刹那の油断を後悔した!



「しまっ……!」



 視線を戻すと、対峙していたデビル・エクスレイガの姿は既に無い!


 何処だ!?


 またあれか!高く跳躍してからの、高空からの強襲か!


 デビル・エクスレイガの行動パターンを予測した大竹は天を仰ぐ。



 ーーしかし、いない。


 デビル・エクスレイガは……空には……いない!?


 何処だ!?何処だ!?何処にいる!?



『隊長っっ!ですっっ!!』



 熊谷の金切り声に、大竹の身体は瞬時に冷や汗で濡れた。


 熊谷の言う通りに、真下に視線を下げるとーー。


 スライディングのフォームで、一号騎の足下に滑り込んだ……鬼の単眼モノアイと……目が合って……。



 ッッッッ!!!!!!



 デビル・エクスレイガの上段回し蹴りが、K.M.X一号騎の顎下に、炸裂した!


 一号騎の巨体が容易く浮き上がる!


 突き上げるような衝撃が、内部の大竹を容赦なく揺さぶった!



「がはぁあ……っ!?」



 衝撃を緩和出来ず、大竹の鍛え抜かれた身体に激痛が走る!


 視界が白く濁り、意識が遠退く……。


 コクピット内に響く、騎体ダメージ蓄積を報せるアラームが、まるで子守唄のよう……。


 常人ならば、既に失神していただろう……。


 このまま、混濁の底に沈めば……どれだけ楽だろう……。



「な、め、る……な!」



 しかし、大竹 裕二は……。



「……俺は、仲間!家族!皆を守る……軍人だッ!!」



 敗けない!敗けられない!


 大竹 裕二の気高い軍人精神は、失神あきらめを許さなかった!



「ふんん……っ!」



 一号騎は空中で、その鈍重そうなフォルムから想像もつかないほど軽快に宙返ると、そのまま落下!地上のデビル・エクスレイガ目掛け、渾身の拳を放った!



 相克ガォッッッッ!!!!



 一号騎の拳とデビル・エクスレイガの拳がぶつかり合い、衝撃波が裏磐梯の森林を震わせる!



 一撃目は防がれた!


 防がれたが、それは大竹の想定内だ!


 一号騎は続けざまに拳を放つ!


 ニ撃!三撃!四撃!


 鋼鉄の拳が空気を粉砕し、猛る意志のまま鬼を殴りつけた!



 怨叫オオオオオオオオオオオオッッ!!!!



 対するデビル・エクスレイガも怒りの咆哮をあげ、一号騎目掛け鋭い爪を振り下ろした!


 一号騎の青灰色の装甲が切り裂かれ、騎体各所に痛々しい痕が刻まれていく!


 しかし、大竹は怯まない!



「引っ掻き痕なんぞ……夫婦ゲンカで慣れている!!」



 反撃上等!それでも鬼を殴り!殴り!殴り続ける!



 ッッッッ!!!!



 果たして何撃目か?一号騎の拳撃を受け続けたデビル・エクスレイガの躯体が……僅かにぐらついた。


 好機だ!



「渡辺!熊谷!撃てッ!!」

『『了解!!』』



 スラスターを吹かして、一号騎が飛び退く。


 刹那、距離を取っていた四号騎、五号騎のディゾルバ―が同時に火を噴いた!



 コウッッッッ!!!!



 幾条もの粒子ビームがデビル・エクスレイガの歪な装甲を焼いていく!


 デビル・エクスレイガは苦しみ悶えるようにその躯体を震わせ……四号騎と五号騎を睨み付け、腰を屈めーー



 ッッッッ!!!!



 ホバリングしながらデビル・エクスレイガの背後に回り込んだ一号騎が、鬼の背中を蹴り上げた!


 デビル・エクスレイガは吹き飛び、猪苗代の大地を転げ回る。


 ようやっと停止し、起き上がるが……。



 コウッッッッ!!!!



 そこに空かさず、集中砲火!次いでの殴打!



 ビーム!パンチ!ビーム!パンチ!ビーム!パンチ!パンチ!パンチ!



 一切の油断を許さない、大竹達の必死の波状攻撃がデビル・エクスレイガを圧倒する!



 苦悶ギャアアアアアアアアアア!!!!



 殴られて、焼かれて、半ば溶解しかかったデビル・エクスレイガが悲痛な叫びをあげた。



「次の一撃で仕留める!」



 妻よ!娘よ!


 汗ばむ大竹の、その不退転の覚悟がルリアリウム・エネルギーに変換され、光となって一号騎の両拳に宿る!眩く、凄まじいパワー!


 スラスター全開!フル加速ブースト



技名付けて……<ジェット・クラッシュ>……!」



 一号騎は弾丸の如く地上を駆け、空気の壁を突き破り、その輝く拳を……デビル・エクスレイガの心臓部コクピットに突き立てーー







「な……っ!?」



 一号騎の真横をーー。


 大竹の視界の端をーー。



 紅の戦闘機が、追い抜いていった。









「時緒くんは…私が止める!!」





 芽依子シースウイングが、追い抜いていった。





 続く

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