サムライ✕エース
「バスター2、下がれ!」
『りょ、了解……!』
虎の子のディゾルバーを喪失した久冨の二号騎を後方に下がらせ、大竹の駆るK.M.X一号騎はエムレイガと対峙する。
エムレイガの、あの凄まじいスピードと近接戦闘力。
並大抵ではない優れた動体視力、反射神経、空間認識能力。そして……度胸!
間違い無い、大竹は改めて確信する。
乗っている騎体は違うがーー
「やはり……エクスレイガのパイロット……!」
大竹は、エムレイガから目を逸らすこと無く、足下に転がっている、樋田の三号騎に通信を繋ぐ。
「バスター3、状況報告……!」
『メインカメラをやられた……!損傷口からエネルギーが漏れて……もう動けねぇ……!』
「分かった……!お前は騎体を破棄して脱出、後続の歩兵戦隊と合流しろ!」
『ク……了解ッ!』
そして……大竹はエムレイガに『集中』をする。
彼の乗る一号騎は低く腰を屈め、大斧に変形させたディゾルバーを大仰に振りかざして見せた。
対するエムレイガも、光の刀を構える。
剣道を少々齧っただけの大竹にも分かる、無駄の無い、完璧な八相の構えだ。
故に、残念だった……。
本当ならばーー
「君とは……肩を並べて戦いたかった……!」
ーー大竹の素直な意見だ。
一体何があったのか……。一体何が……防衛軍施設砲撃などという凶行にはしらせたのか……!
何度も何度も考えてしまう。
考えても……仕方がないのに……。
「聞こえてはいまいが……俺は地球防衛軍極東支部所属、ブラック・バスター隊隊長の大竹 裕二特佐だ!」
敢えて名乗ることで、大竹は己を鼓舞した。
大竹の猛る精神力がルリアリウムによって超高純度エネルギーに変換されて、一号騎の騎体隅々に行き渡る。
ミシミシとリンクナーヴが強負荷に軋み、余剰エネルギーが熱として騎体各所のエアインテークから放出。一号騎の周囲に陽炎が発生する。
「先ずはパイロットをコクピットから引き摺り下ろす!話はその後だ!」
己に言い聞かせる為、大竹は独り言つ……。
!!!!
その時、空気が砕ける音がして、エムレイガは大竹の視界から消失した!
樋田を仕留め、久冨に肉薄した高速駆動だ!
一号騎の周囲を跳び荒ぶ、疾風の如き騎影!
成る程!速い!
大竹は思わず感動してしまった。
敵接近のアラームが、コクピット内に響く。レーダーが揺らめいて使い物にならない!それほどエムレイガが速いのだ!
「先手を取られたか……だが!」
大竹は大きく息を吸って……吐いて……止める。
意識を研ぎ澄ます……!
確かに速いが……。エムレイガは速いのだが……。
「この……気迫……攻撃タイミングは……」
全てが速い訳ではない!
エムレイガが移動から攻撃に切り換える、僅かな……ほんの刹那の停止タイミング!
「そこかっっ!!」
一号騎は大きく騎体をしならせ、振りかぶった光の大斧をーー。
視界左斜め後方、何も無い、喉かな猪苗代の田園風景が広がる空間へーー下ろす!
現れたエムレイガの刀と、一号騎の大斧がぶつかり合った!
大竹の予測通り!
!!!!!!
雷鳴めいた炸裂音を迸らせ、克ち合う
「バスター4!バスター5!上空の赤い戦闘機を黙らせろ!近付かせるな!」
『畏まりました』
『は、はいっ!』
渡辺の四号騎、熊谷の五号騎が、同時にディゾルバーをライフル
!!!!!
弾幕を張られ、シースウイングはエムレイガを支援出来ない!
「う、おお……っ!」
大竹はルリアリウムに力を込めた!
スラスター全開!
脳裏に浮かぶのは……妻と娘の笑顔。
一号騎が唸りをあげる!
家族の平穏の為ならば……大竹は……!
阿修羅になってみせる!
「押し切るっっ!!」
スラスターを併用した大斧の豪撃がーー!
エムレイガの躯体を、空高く弾き飛ばした!
※※※※
雲海上を進む、戦闘空母<まつかぜ>……その艦橋内……。
「大竹特佐、交戦を開始しました」
「おや、予定よりも早く始まりましたねぇ」
通信士の報告に、青木は唇の端を高く吊り上げ、陰気な笑みを浮かべた。
大竹 裕二。防衛軍航空部隊随一のエースパイロット。不動のトップガン。
矢張り、彼を引き入れて正解だったと青木は思う。
ーーあの愚直なまでに生真面目な大竹の性格を、青木はあまり気に入ってはいないがーー。
「流石はエース様々。少々予定は早いですが……良いでしょう……!」
今まで艦長席横のゲスト席でふんぞり返っていた青木は揚々と立ち上がると、右手を振るって通信士に命じた。
「猪苗代の陸戦隊に通達!これより作戦を第2フェーズへ移行!イナワシロ特防隊への更なる攻撃を開始するのです!」
※※※※
吹き飛ばされた、エムレイガの
「ぐ……うぅっ!」
脳を強く揺さぶられたことに由来する強烈な目眩と吐き気を懸命に堪えて、時緒は何とかエムレイガを着地させた。
「あの騎体……何て凄まじいパワーなんだ……!?」
時緒の背中を冷や汗が伝う。
危なかった。
先刻……一号騎の推力が増した瞬間……。
時緒は咄嗟に判断し、鍔迫り合いを中断、一号騎の攻撃を受け流すことに専念した。
結果、一号騎の威力そのものを受け流すことには成功したが……。
逃がし切れなかった威力の余波で……余波だけで、エムレイガは吹き飛ばされてしまった。
もし、攻撃まともに受けていたら……エムレイガは粉々に砕けていただろう……。
「…………っ!」
だからと言って、時緒の脳裏に『逃げる』の選択肢は浮かばなかった。
怖くない……と言ったら嘘になるが。
母や仲間が……芽依子が傷付くことの方が……圧倒的な恐怖だ!
「そんなこと……させない!」
エムレイガはブレードを構え直す。
対峙する一号騎は強い!他の騎体よりも段違いに強い!
それでも……何処かに付け入る隙があるはず!
(エクスレイガがあれば……)
そんな
無い物ねだりをしても仕方がない!
エクスレイガでなくても戦える!
それに……この戦場には芽依子もいてくれる!
「姉さんがいてくれるだけでも……万々歳じゃないか!」
やっと……時緒の顔に……ほんの少しだが笑顔が戻った。
戦える。大丈夫。
僕が、皆を守るんだ!
一縷の希望を胸に、時緒は己を奮い立たせてーー
猪苗代の空を、幾条もの粒子ビームが、灼いた。
ビームは、エムレイガの上空を通過しーー
エムレイガの遥か後方ーー。
イナワシロ特防隊基地の周囲に……着弾した!
!!!!!!!!
ルリアリウム・エネルギーの爆発が瞬く間に膨れ上がり、基地の外壁を砕き、ガラスを溶かしーー
「………………」
時緒の顔から、甦りかけていた笑顔を消した……。
続く
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