クタバレ・マリコ
『ブラック・バスター隊、順次発進せよ』
『バスター2、発進』
『バスター3、行ってくるぜっと……』
『バスター4、続いて参ります』
『バ、バスター5、で、出ますっ!』
久富達四人が搭乗したK・M・Xが無事降下ハッチから出撃したことを確認。
大竹は操縦桿を握り締めた。
コクピットのディスプレイに嵌められた楕円形の強化プラスチック製カプセルーーその中にあるルリアリウムの欠片が淡い光を放つ。大竹の精神力にルリアリウムが感応した証ーー。
微かな脱力感。ルリアリウムに精神力が吸われている事を、搭乗機にエネルギーが行き渡っている事を大竹は実感した。
『進路クリア。バスター1、発進されたし』
「……バスター1、出撃をする。記録は宜しく」
『はっ!お気をつけて、特佐!』
まだ慣れない階級で呼ばれ、大竹は背中がむず痒くなった。
ハンガーのメインアーム、サブアーム、全てのロックが外されて、大竹の搭乗する〈K・M・X/指揮官仕様〉は雲海へと、美しい青と白の二層の空間へと放り出される。
久富達が乗る先行量産型のK・M・Xとは異なる色ーー青みがかった灰色に真紅のラインが刻まれた装甲が、陽光を反射して重厚な光沢を放つ。
大竹の視界の中央で、ほんの数秒前まで居た全翼型輸送機がみるみる遠ざかっていく。
スラスター、点火。
僅かな浮遊感の後、強烈な慣性に大竹の屈強な身体はコクピットシートに抑え付けられた。凄まじい加速ーー!
全高十五メートルの巨人が大手を広げ、函館基地の一般侵入禁止空域約三千フィートを亜音速で飛翔する様は、かつて空を夢見た者達から見ればまさに神話の具現そのものだろう。
空を飛ぶに適さないヒトの形をしたモノが、飛んでいる、それほどの出鱈目な出力。これこそが、異星人の叡智。ルリアリウムの力ーー!
大竹機が横一列に飛ぶ部下達四機の後ろ、ちょうど
五機のK・M・Xが、端正な鶴翼の編隊を形成して雲上を滑る。
大竹は通信機を介して基地の管制塔に連絡を取った。
「ブラック・バスター隊、全機フォーメーション飛行を維持……」
『了解。ターゲットを射出します』
コクピットのアラートが鳴る。ディスプレイのモニターには、敵を示す赤い反応が、二十。
『隊長、一時の方角……来ますよ……!』
そう丁寧な声色で告げたのは、四番機ーー渡辺 晴明だ。
雲海を突き破って、何かが上昇して来る。
先日樋田が倒していた、浮遊するだけのターゲットドローンではない。
前進翼を持った戦闘機ーーそれでいてコクピットを持たないーー。
防衛軍の無人迎撃戦闘機〈レイドロン〉だ。
あれが、今回の実戦訓練の標的か……。
大竹達よりも天空高く上昇した二十機のレイドロンは、複雑なアフターバーナーの軌跡を描いて四方へと散開する。
急旋回、急制動。無人機故の出鱈目な高機動。
これらを全機、K・M・Xの性能をもって殲滅すれば良いーー!
「各機……戦闘準備……!目標を殲滅する……!」
五機のK・M・Xがほぼ同時に、
大竹機は
久富機と渡辺機は
樋田機と熊谷機は分割して
戦闘準備完了。五体の巨人はルリアリウム・エネルギーの粒子光を煌めかせ、更に加速!
安定翼を失ったことで若干機動がブレるが、想定内だ。
人工知能によって操られた鋼の猛禽どもを迎え撃つ!
「ブラック・バスター……
部下達に号令を発しながら……。
大竹は頭の端で、ふと疑問に思った。
(K・M・Xって……一体何の略称なんだ……?)
****
「ブラック・バスター隊……大竹特佐は良くやってくれますよ」
「それでなくては、かのエースパイロットを呼び寄せた意味がありませんよ……プロフェッサー……?」
リアルタイムで送られて来る充実した戦闘データに顔を綻ばせる白鷺に、青木はくつくつと陰険な笑みで応えた。
そして青木は、函館基地貴賓室の豪華なチェアから腰を上げ、窓の外ーー低く立ち籠めた雲を見上げる。
ほんの一瞬だが、五機の機影が乱舞する様が……その軌跡に沿って光の光芒が弾け散るのが見えた。
「…………長かった」
青木の頬を涙が伝う……。
「遂に……遂に私は……ルーリアに対抗し得る力を手に入れた……!」
「長官……おめでとうございます……!」
青木が振り向くと、白鷺もまた感涙に俯いていた。
「長官が出資をしてくれなかったら……私は……私は真理子への憎悪を抱いたまま……今も研究費の為にやりたくもないコンビニと弁当屋と害虫駆除のアルバイトを続けていたことでしょう……!」
「プロフェッサー……!私達は同志……!共に椎名 真理子とその仲間達を……あの忌々しい異星人どもを駆逐し……我々の天下を轟かせるのです……!」
青木と白鷺はがっきと、熱い抱擁を交わす。
全ては己が覇道と為に。名声を轟かせる為にーー!
そうだ。相対するものは全て破壊するのだ。
ルーリアを!
その前に、邪魔者を!
イナワシロ特防隊と、エクスレイガ!
いつまでも民間の組織になぞ大きな顔はさせてたまるか。
必ず奴等を叩き潰してやる!
****
「熊谷、大丈夫か?」
「す……すびばしぇん……」
「隊長、熊谷君の右肩は私が持ちましょう」
「す……すびばしぇん……」
大竹は渡辺と協力して、グロッキー状態の熊谷をK・M・Xのコクピットから引き摺り出す。
これが説明にあった『ルリアリウム酔い』だ。
ルリアリウムに精神力を吸われ過ぎて、心身に不調をきたす状況だ。
あがり症の熊谷の場合、緊張して力み過ぎた結果、大竹達よりも精神力を多く吸われてしまったことが原因だろう……。
現に、大竹と渡辺は微かな疲労感を感じる程度だ。
「き、きぼぢわるい……」
「暫く寝てると良い」
大竹は熊谷の背中を、その大きな掌で優しく撫でた。
新しく出来た、娘と二歳しか歳の違わない部下、その未だ幼さの抜けない顔は……大竹が子どもの頃、実家の盛岡で飼っていた犬に似ていた。
もし、そのことを言ったら、熊谷は困惑するだろうか……。
「貴様ァッ!さっきのアレは何だァッ!!」
その時ーー。
格納庫に、久富の怒号が木霊した。
「……離せよメガネ」
自らの襟首を掴み怒り心頭の形相で睨みつける久富を、樋田は不興をそそらせる冷笑で見据えていたーー。
続く
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