防衛騎甲 エクスレイガ 《空想科学青春記》 第二部

比良坂

閑話 白昼の逃亡者

白昼の逃走者




 西暦一九九六年。



 その年、戦争があった。




 異星からの来訪者、【ルーリア銀河帝国】と地球との星間戦争……勃発。




 所持者の精神力を超エネルギーに換える宝石【ルリアリウム】搭載したルーリア騎士団の超兵器群。


 ルリアリウム・エネルギーの超能力によって、敵を殺さず、ただ兵器のみを破壊し、猛き騎士道精神の下戦いを挑むルーリア騎士達。




 戦争の概念を覆される地球、そんな世情なか……。




 地球で唯一、彼等ルーリアに対抗し得る騎体ものが現れる。





 ルリアリウム・エネルギーの剣を振るい、ルーリアを堂々と迎え撃つ鋼の巨人。




 その名はーーエクスレイガ。



 猪苗代の防人、防衛騎甲エクスレイガ。






 誰も知らないーー。



 限られた人しか、知らない。知る由も無いーー。



 エクスレイガがどうやって造られたのかーー。



 何故、エクスレイガが、東北の静かな地方都市である猪苗代に在るのかーー。



 誰も、知らないーー。




 愛と勇気を胸に、熱き魂でエクスレイガを駆る少年もののふ




 少年の名をーー。






 ****






くん!待ちなさああああい!!」

「芽依姉さんごめんなさあああああい!!」


 猪苗代町。


 八月始めの、正午少し手前ーー。


「脱兎!!!!」


 椎名 時緒少年は走っていた。


 全力で、走っていた。


 背後から、亜麻色の長い髪を振り乱した美少女、斎藤 芽依子が追いかけて来る。


 時緒にとって芽依子は、血は繋がってないが姉であり、自分の鍛錬を手伝ってくれる師であり、共に学業に励む親友であり……。


 時々、彼女を想うと気持ちが昂ぶってしまう……そんな少女ひとだが……。


「許しません!時緒くんのお尻を百叩きです!!」

「尻がもげるっ!?」


 今の芽依子は、時緒にとってまごうこと無きデビルであった。


「よくも私のハーゲンダッス食べましたね!?」

「だって其処にハーゲンダッスがあったから!」

「登山家ですか貴方は!?」

「だから謝ってると!!」

「怖いんですよ!食べ物の恨みは!!」



 清純なブラウスに隠れた豊満な胸を揺らし、芽依子が追いかけて来る。洗練されたランニング・フォーム、まるでカール・ルイスかベン・ジョンソンだ。


 時緒は逃げる。芽依子から逃げる。感覚が狭まっているが、それでも諦めずネバー・ギブアップ、若さの限り走り続ける。



 猪苗代の街中を。自然の中を。




 雄大な磐梯山を背に、青々と風に稲葉がそよぐ水田の用水路を飛び越え。


 江戸時代から続く酒蔵の間を潜り。


 亀ヶ城公園の古城跡を跳ね回り。


 澄み切った空を背景に、一面真っ白に映える蕎麦の花畑を駆け抜け。


 二人の少年少女は今、猪苗代の風となる。



「二人とも元気だねぇ!」

「相変わらず仲良しねぇ!」

「真理子ちゃんに孫が出来るのも……時間の問題かな……?」



 猪苗代に住まう人々は二人を微笑ましく見守るが……。




「誰か助けてーーーー!!」



 追われる側の時緒にとっては堪ったものではなかった。





「「「………………」」」



 猪苗代湖方面へ向けてだばだば逃走する時緒と、時緒を追跡する芽依子を、国道四九号線を挟んだ向かい側の歩道から見つめる、三つの人影があった。


 修二と、ティセリアと、ゆきえである。


「また時緒兄ちゃん、何かやらかしたんだ……」

「メーコがオコうゅ……」

「…………」


 折角ティセリアに地球の虫捕りを楽しませていたのに、とんでもない場面に出くわしてしまった。


 こんな暑い日に何をやってんだか……、修二とゆきえは溜め息を吐いた。


「ティセリアちゃん……おいら達はあんな高校生にならないよう気をつけないと」

「うゅ…………」


 呆れ顔の子ども達に気付く事無く、時緒と芽依子のシルエットは遠く、小さくなっていった。


 修二達はしばらく二人が消えていった方向を見送ったが……。


「うゅっ!?でっけートンボ!!」

「うわっオニヤンマだ!捕まえよ!!」

「……!!」


 ティセリアが虫捕り目標のオニヤンマを発見。


 時緒の半泣き顔と芽依子の怒り顔は、虫捕りに夢中になった修二達の脳裏から、綺麗さっぱり消え失せた。





「やっと捕まえましたよ!!」

「姉さん!勘弁!弁償するから!勘弁してくださいぃぃ!!」

「許すのは時緒くんの為になりません。……アイスの恨み!せいっ!!」

「あひぃーーーーーーーー!!!!」




 猪苗代の悠久の蒼穹そらに、エクスレイガのパイロットーー椎名 時緒の間抜けな悲鳴が、響いて消えた。





 ****





 西暦一九九六年、八月ーー。



 一面、田畑の深緑が広がる、真夏の猪苗代は平和であった。


 燦々と照らす陽光の熱気を、涼しい山風が心地良く和らげる。



 まるでーー。



 これから幾多もの事件が降り掛かる少年少女達に、束の間の休息を与えるかのように……。







 続く

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