第58話
「嘘でしょ……」
開いているはずの鍵が閉まっていたから、そこに商品が隠れていると考えたんだろう。
あたしは血の気が引いていくのを感じた。
「聡介は咄嗟にベッドの下に隠れたからなにもなかったらしいけど、今夜も同じように逃げ切れるかどうかわからない。だから拠点を屋上へ移したほうがいいと思ったんだ」
あたしは何も答えられなかった。
昨日聡介が危険な目にあっていたなんて、思ってもいなかった。
きっと、無駄に心配をかけたくないから大志にだけ伝えたのだろう。
「これから聡介と食料を屋上に移動させる。手伝ってくれるか?」
大志の言葉に、あたしと花子は同時に頷いたのだった。
☆☆☆
必要なものすべてを屋上へ移動し終えたのは1時間目の授業が終わる5分前のことだった。
調達した武器などもあったため、思ったよりも時間がかかってしまった。
あたしたちが移動を開始したのを見て保険の先生はひどく心配そうな顔をしていたけれど、こればかりは仕方なかった。
あたしたちにとって保健室はもう安全な場所ではないのだから。
大志が考えていたとおり、ここには生徒たちは寄ってこなかった。
休憩時間開始のチャイムが鳴っても、屋上へ続く階段を上がってくる足音は聞こえてこない。
こんなに安心できる休憩時間を過ごしたのは久しぶりのことだった。
だけど、安心ばかりもしていられない。
ここは屋外だから、悪天候になると同じ場所にとどまっていることができなくなるのだ。
しかも今は梅雨の時期で天気は変わりやすかった。
6時間目が終わり、生徒たちに早く帰るよう促すアナウンスが聞こえてきた後、ついに天候は悪化しはじめた。
どんよりと重たい雲に校舎が覆われ始めたのだ。
「狩の時間までまだ少しある。移動するか、それともビニールシートでも持ってきて屋根を作るか、どうする?」
大志の言葉にあたしたちは目を見交わせた。
これだけの荷物を持ってまた移動するのは大変だ。
「ビニールシートなら、3階の空き教室にあった」
壁を背もたれにして座っていた聡介が言った。
「最初に隠れていた場所?」
「そうだ。そこならここからでもすぐに行ける」
その言葉で決定した。
あたしと大志は2人で屋上を後にして3階の空き教室へと向かった。
あたしたちが保健室に移動した後荒らされていたようだから、ちゃんとビニールシートを見つけることができるかどうか心配だった。
しかし、その心配は無用だったようで、散乱する小道具の隙間から青い色のシートが見えていた。
大志はそれを引っ張りだし、あたしはロッカーから古いホウキを何本か手に持った。
足に絡まるように落ちていたロープも拾い、2人で来た道を戻る。
今はまだ狩の時間になっていないから、屋上への鍵は開けたままになっていた。
「そのビニール、どうやって屋根にするの?」
花子に聞かれてあたしはホウキを見せた。
「これを三角になるように立てて、上部をロープで固定するの。その上からシートをかぶせたら簡易テントになる」
それは以前動画で見たものだった。
災害時などにも役立つ知識だ。
動画で見たとおりに組んでいくと、ものの10分ほどで簡易テントは完成した。
中は少し狭いけれど、座っていればどうにか入れるスペースがある。
それからしばらくすると雨が降り出してきて雨音で外の音はすべてかき消されてしまった。
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