第38話

食料を確保して保健室へと戻ると、すでに先生はいなかった。



保健室の電気も消されていて鍵もかけられている。



あたしは渡されていた鍵をつかってドアを開けて、そっと中に入った。



12畳ほのスペースに人の気配はなくて、ホッと息を吐き出した。



舞が電気をつけようとしたところ、大志がそれをとめた。



「電気を使うのはやめておこう。懐中電灯があるしな」



大志はそう言って棚の上に置かれている懐中電灯を手に取った。



今はまだ外が明るいけれど、カーテンを閉めている状態なので夜とあまり変わらない。



懐中電灯の光を頼りに聡介の様子を確認してみると、まぶしさで目を覚ましてしまった。



「あれ、俺なんで……」



自分の置かれている状況がうまく把握できていないようで、混乱した声を出す。



あたしは手短に今の状況を説明した。



「そっか。保険の先生が助けてくれたのか」



そう言って上半身を起こした。



まだ体中痛そうだけれど、簡単な手当ては先生がしてくれているから問題はなさそうだ。



「足、大丈夫?」



聞くと、聡介は立ち上がろうとした。



しかしうまく力が入らないようですぐにベッドに逆戻りしてしまった。



「無理はしちゃダメだよ。先生は骨折はしてないみたいだって言ってたけど」



「くそっ。こんなんじゃ逃げられないな」



聡介は悔しそうに顔をゆがめる。



その表情が痛々しくて、あたしは聡介の体を抱きしめた。



「ごめんね、あたしのせいで」



「何言ってんだ。悪いのは一だ」



聡介はあのときの出来事を思い出して憎憎しげに呟く。



あたしもあの時は本当にショックだった。



まさか一があんな裏切り方をするとは思ってもいなかったから。



「とにかく、聡介はここにいるしかないな」



そう言ったのは大志だった。



聡介は無言で大志を見上げた。



「無駄に動き回って逃げても、足手まといになる」



そんな言い方はないんじゃないかと思ったけれど、事実だった。



聡介も、なにも言わない。



「今はとにかく、何か食べて体力をつけようよ」



舞がこの場を雰囲気を変えるように明るい声色で言った。



あたしは笑顔を浮かべて頷く。



特に聡介には早く怪我を治してもらいたいから、しっかり食べてもらわないといけない。



ペチャンコになったおにぎりを差し出すと、聡介は一瞬目を見開きそれから声を上げて笑った。



「形はともかく、やっぱりうまいな」



「うん。あの人たちの愛情を感じる」



しかし、そんな時間も長くは続かなかった。



ご飯を食べ終えて1時間ほど経過したとき、不意にアナウンスが流れ始めたのだ。



《お待たせしました。これから明け方までは狩の時間です。商品であるみなさまは、狩人である先生方から逃げてください》



2度同じ放送が流れてもすぐには内容を理解できなかった。



「狩人ってなに?」



やっと口を開いたのは舞だった。



あたしはブンブンと左右に首をふる。



わからない。



わかりたくもない。



だけど体はすでに反応していて、心臓は早鐘を打ち始めていた。



「今度は朝まで先生から逃げろってか」



大志の歯軋りが聞こえてくる。



「そんなの無理。朝までなんて逃げ切れるわけない」



花子が答える。



あたしは不安なまなざしを聡介へ向けた。



聡介もさすがに青ざめている。



「生徒を早く帰らせたのは自分たちのお楽しみ時間を確保するためだったってことだ。信じらんねぇ」



大志が尚も悪態をつく。

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