第35話

アナンスが流れて30分が経過していた。



保健室の窓から廊下の様子を確認しても、生徒の姿はひとりもなかった。



アナウンス通り、みんな真っ直ぐに帰宅したのだろう。



「1階だけでも確認してくるから、もう少しここにいてね」



先生はあたしたちに声をかけて保健室を出た。



「どうして全員帰宅させたんだろう」



ベッドに座っている花子が呟く。



今はカーテンを開け放っているから、その様子がよく見えた。



「そんなの、先生が俺たちに配慮してくれたってことだろ?」



大志が答える。



たぶん、そう考えるのが一番妥当そうだ。



「そうかな?」



花子は納得いかない様子で首をかしげた。



その様子を見ていると数学の先生の言葉を思い出した。



『今回の商品はなかなかレベルが高いな』



あの先生は確かにあたしを見てそう言ったのだ。



あたしのことを『商品』だと認識していた。



思い出して強く身震いをする。



先生だからっていつでも生徒を守っているわけじゃない。



こんな法律があろうがなかろうが、人を傷つける先生だっている。



だって、先生だって人間だから。



ロボットじゃないのだから、ストレスが溜まれば誰かに攻撃することだってある。



わかっていることだけれど数学教師に言われた一言は今でも胸に突き刺さっていた。



それから10分後。



「もう大丈夫そうよ」



学校内の様子を確認してくれていた先生が戻ってきて、そう声をかけてくれた。



「ありがとうございます」



まずお礼を言い、それから花子と大志へ視線を向けた。



聡介は痛み止めがよく効いているようで、まだ眠っている。



「外に出られるかどうか、行ってみよう」



あたしは2人へ向けて声をかけ、保健室を出たのだった。



保健室から昇降口まではすぐ近くだった。



下駄箱を確認してみると残っている生徒は誰もいないことがわかった。



周りが静か過ぎて耳がキーンと痛いくらいだ。



あたしたち3人は恐る恐る出口に近づいた。



しかし、警告音は聞こえない。



これなら大丈夫かもしれない!



そう思って一歩を踏み出した瞬間、あのけたたましい音が鳴り始めたのだ。



耳を塞ぎ、慌てて校舎に戻る。



耳の奥が痛くて顔をしかめた。



「出られないのか」



大志が舌打ちをして呟いた。



「これじゃ家にも帰れない。ずっと学校にいろってこと?」



花子が混乱した声を出す。



あたしはようやく耳から手を離した。



「あたしたち学校に監禁されたんだ……」



あたしの言葉に2人が視線を向けてきた。



あたしたちは学校内で逃げ惑うしか道がない。



聡介の知り合いだったというお兄さんは家の外で商品になったときのことを説明してくれたのだろう。



でもその時とはやはり違うのだ。



外に出られる商品もいれば、学校に監禁される商品もいる。

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