何でも願いをかなえる玉を手に入れたんだが、何を願おうか?

赤沼たぬき

第1話 



もし何でも叶えてくれる玉があったなら、何をかなえるだろう?


匠こと俺は営業で働いていた。両親の親戚からの紹介でその会社に入ったのだが、成績はふるわず会社内では上司に「さっさとやめちまえ」と陰で言われている。面と向かっては言わない。匠の親戚は会社の常務だからだ。完全にコネで入った匠は、その会社でも正直やる気はなく、休日にプラモを組み立てることだけを楽しみに生きていた。


ある時昼にお店で飯を食べて路上を歩いていると、猫が路上で歩いていたのを見た。車に引かれそうになっている。

咄嗟に猫を抱き上げ、車から守ろうとしたのだが、そのまま車にひかれて、意識が飛んだ。


次に目を覚ますと、そこには美しい女の人がいた。

綺麗な女の人だ。今まで見たことがないほど。

その女の人は、俺を見て言った。

 

『あなたが落としたものは、どちらの玉ですか?』 

女の人は両手に二つの玉を持っていた。

一つは輝きもないただの鉄の玉。もう一つは輝く美しい玉。

だから当たり前だが、俺は美しい玉の方を手に取った。


目が覚めると俺は病院にいた。

どうやら命は助かったらしい。あの猫はどうなったのか、看護婦の女に聞くと、今は保健所にいるそうだ。

猫は無事らしい。よかった。


俺の元には誰もお見舞いに来ない。会社の連中ともうまく話せていないし、仕事もできていない俺には当たり前だよなと、自嘲気味に笑う。

ちなみに俺の家族もお見舞いには来ない。両親は優秀な兄にしか興味がないからだ。


「はは。美女でもお見舞いに来てくれねぇかなー」

とぽつりとつぶやくと、「呼びました?マスター」という澄んだ美しい声が聞こえてきて、驚いてそちらの方を見ると、黒い瞳に黒い髪の美しい少女がそこに立っていた。


「お見舞いに来ました。マスター」

とか何とかいったので、俺は呆気に取られて、「は?」としか言えなくなった。

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