ノックの音がした

紫風

ノックの音がした

ノックの音がした。


こんこん。

誰だろう。男は思った。

時刻は昼の3時を回って、長針が2つばかり進んだ頃。

こんこん。

誰だろう。こんな、誰も訪ねてくるはずのない部屋にノックなど。

「・・・・」

立ち上がり、ドアを開けようか。

この退屈な日常の、何かが変わるかもしれない。


しかし、男はドアを開けなかった。

何故なら、人類は滅びてしまい、自分は最後の人間なのだから。





****************************



その木の周りには、枝がいっぱい落ちていた。

枝のほとんどは短く、強い風が吹くとばらばらと風に乗って散っていった。

時には壁に当たり、音を立てることもあった。

こつんこつん。

こつんこつんと。



****************************


ノックの音がした。

こんこん。

こんこん。

誰だろう。男は思った。

時刻は午後4時を回って、長針が1つばかり進んだ頃。

誰だろう。こんな、誰も訪ねてくるはずのない部屋にノックなど。


男は立ち上がり、ドアを開けてみた。

「・・・・」

そこには誰もいなかった。

居るはずがなかった。

人類はとうに滅びてしまい、自分は最後の人間で。


ドアを開けた先には、見渡す限りの砂漠。

男の目線より上にあるものは、男の住んでいる建物のみ。

地平線まで薄い黄色の砂ばかり。


男は見飽きた風景に落胆して、ドアを閉めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ノックの音がした 紫風 @sifu_m

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ