152 新たな仲間を連れて

「お前ら揉めてんのか? ようやく、魔素の濃い最後の場所を特定したんだ。これできっと、サラの行方も分かるってのに」


 突如現れたかと思えば、文句を言い始めたツバキに、一同は顔を見合わせる。


「おい、魔素の濃い場所が分かったんだから、すぐそっちに向かう手筈だろーが。ぐずぐずしてたら魔王が地上に来ちまうぞ」


「ツバキ、悪いが今は状況が切迫しているんだ。君の話を聞くのは後だ」

「これ、今どういう状況だよ」

 ツバキは腕を組み、苛々と言った。


 ツバキが現れ、その口調や雰囲気のせいか空気が軽くなったようだ、とパティは思った。


「メイクール国の巫女がウォーレッド国王に捕えられてしまってね。助けたいんだけど、状況は簡単じゃないんだ」

 ロミオがツバキに説明をする。


「とにかく俺は、イーシェアを救いに行く」

 ロゼスが改めていうと、ツバキは、ふーん、と言い、じっとロゼスの顔を眺める。


「な、なんだ……?」

 とロゼスがツバキの行為に戸惑っていると、

「いいぜ、オレがウォーレッドの城へお前を連れて行ってやっても」

 とツバキは自らに親指を向ける。

 ロゼスはツバキの顔を見返した。


「ツバキ、ウォーレッドの城はさっき僕が逃げ出したことで衛兵も増え、護りも更に堅くなっただろう。それでもイーシェアを助け出せるのか?」

 周囲の者はその様子を見守り、顔を見合わせたりしていたが、アルはツバキに問う。


「オレを誰だと思ってる? 例え相手が高位魔族であっても、そいつをぶちのめす自信があるぜ」

 ツバキはにんまりと笑む。


 どこから湧いてくるか知らないが、凄い自信だ。

 しかし彼の実力はまだ未知の領域であることも事実だった。


「ツバキと言ったな。頼む、城へ連れて行ってくれ。俺はどうしても、捕らえられたその人を助けたいんだ」


 ロゼスが真摯な態度で頼み事をし、彼の必死な様子にパティもアルも驚いていた。

 先ほどからのロゼスの態度で、彼にとってイーシェアがただメイクール国にとって必要な巫女という訳ではないのだと、二人にも分かった。


「ああ、さっき言ったことに嘘はねーよ。連れて行ってやる」

「よし、すぐに頼む」

 ツバキの後にロゼスが言い、二人が勝手に城へ行こうとしている時、パティが、

「待ってください!」

 とツバキの服の裾を掴んだ。


「なんだよ?」

「わたしも一緒に行きます」

 その場の誰もがパティが言い出したことに唖然とした。


「ちょっとパティ、何言ってんの?」

「そうだ、パティ、そんなの無茶だ」

 クルミに続いてダンもパティを止めに入る。


「オレが連れて行けるのは、あと一人だ。こいつを連れて行ってもいいけどよ、他はもう駄目だぜ」

 

「ツバキ、お願いします、わたしも連れて行ってください。イーシェア様は、人とは異なった聖なる存在です。わたし、イーシェア様に会った時にそれを感じました。

 わたしにはきっとイーシェア様が捕えられているところが分かります」


「パティ、本当か?」

 ロゼスがパティに問うと、パティは頷いた。

「はい、ですから、役に立てる筈です。お願いします、わたしもイーシェア様を助けたいのです」

 パティの真っ直ぐな煌めく瞳を見たツバキは、

「わかった」

 と言ったので一同は益々驚いた。


 成り行きをじっと見ていたアルは、パティを止めたかったし、ロミオに、「皆で乗り込もう」と言い出そうとしたが、その衝動をぐっと抑え込んだ。

 大勢で乗り込めば目立ち過ぎるし、アルを救うためにイーシェアは身を捧げたのだ。彼女の思いを無下にはできない。加えて、他の者にも魔素の濃い場所に行くという目的があるのだ。勝手をいう訳にはいかない。

 二人を信じ、アルはイーシェアを救う役目、そしてパティを護ることを二人に託すことにした。


「気を付けて、パティ」

 パティはクルミの言葉に頷き、ちらとアルの方を見る――、が、アルはパティを見ず、声をかけることすらなかった。

 アルの態度に、パティはきゅっと唇を結び、顔を俯ける。

  

「ねえ、ちょっと、ダン」

 クルミはススっとダンに近づき、こそっと耳打ちする。

「アルのあの態度なんなの? 何でパティに冷たいの?」

「さあな。船に来てからずっとあんな感じだぞ。何かあったんじゃねえか?」

 と言いつつ、ダンには、思い当たる節があった。


 南大陸でパティが攫われ、無事に戻ったは良いが、アルは、パティは天世界に帰るべきだと言っていた。

 多分、アルは腹を決め、パティに冷たく当たるのだろう。

 ダンは、クルミにその話をすることはなかった。

 クルミはそれを聞けばアルに突っかかり、ウォーレッドの城へ乗り込もうとしている今、揉め事を増やすことに繋がってしまう。

 クルミはそれ以上何も言ってこなかったので、ダンはほっとした。


 ――各々おのおのは少し遠巻きにパティたちを見守った。

 

「よしっ。オレの作り出す〝揺らめく炎〟は飛ぶことができるが、軽い火傷は覚悟しておけよ。ロゼス、パティをそのマントで包んで守ってやんな」

 とツバキが言い、ロゼスは頷き、パティの体を着衣していたマントですっぽりと覆い、その上から軽く抱き締める。 


「……行くぞ! 〝揺らめく炎〟」


 ツバキは言って目を閉じ、彼の周囲に再び炎の膜が張り、その幕はツバキのすぐ隣にいた、パティを抱いたロゼスも包み込んだ。

 

(燃えないだろうな)


 ロゼスはその淡い炎に包まれて思ったが、炎はロゼスの服やマントを燃やしはしなかったが、肌が露出した部分はやはり、ぴりぴりとした痛みを感じた。


 炎の膜に包まれた三人は、ひゅん、と高く舞い上がり、再び、ウォーレッドの城へと向かったのだった。

 

 

 三人を覆い隠す闇もない真昼間、パティたちは炎の膜につつまれ、再びその巨大な城の、中央部の、少し狭いバルコニーに降り立った。


 再び現れた不審者たちに衛兵らはすぐに気づき、彼らは数をなして、向かってくる。

 数秒と経たず、三人の周囲は衛兵らに囲まれていた。

 ツバキは炎の膜を消し、瞳を開き、周囲を確認する。

 ロゼスはマントで覆っていたパティを離し、背中の槍を手に取った。


 周囲を数名の衛兵が武器を手に切りかかった。

ツバキが左手の甲の石を光らせ、腕を折り曲げる。


「〝炎陽の光〟」

 バシュッ!

 彼が呟くと、太陽の光に似た、眩い陽が周囲に瞬き、その光を浴びた者たちが、次々と倒れていく。

 

 パティとロゼスが茫然とする中、ツバキはにやりと笑んでいた。



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