145 城での攻防

「ロミオ!」

 ロミオにアルが駆け寄り、彼が立ち上がるのを手伝いながら、

「ロミオ、神具の力であの魔物を数秒動けなくすることはできるか?」

 と、訊いた。

「残念だけど、この杖は風の通る場所でしか力を発揮できないんだ。風の通り道すらないこの部屋では、無理だ」


 アルは、そうか、とため息交じりに言い、ロゼスに向かって行こうとする魔物に、短槍を構え向かっていく。

 アルは魔物の脇腹に槍を突き刺す――、が、槍はぼきっと脆く折れ、矢尻の部分が床へ落ちた。

 

(硬い皮膚だ。前に戦った魔物と同じで、普通の武器では駄目だ)

 

 近づいたアルを掴もうと魔物は腕を突き出してきたが、アルはそれを避け、屈んで足を狙って転ばせる。

 魔物は転んだがそのままアルを殴ろうとした。その腕を振り払って前に身を乗り出したのは、黒い瞳の少年・ジルだった。

 ジルは飛び蹴りを繰り出したが、足を掴まれ、腕も掴まれ、身動きが取れなくなる。


「ジルっ!」

 ロミオが焦って名を呼ぶが、ジルは冷静に、動きを封じられたまま、勢いを付け頭突きを魔物の腹に思い切り食らわせた。

 予想しなかった攻撃に魔物はジルの手足を放し、ジルはすぐに魔物から離れた――、が、少年の頭からはつうっと一筋、血が滴った。


「ジル、血が――」

 アルが心配そうに言ったが、ジルは頬に流れた血を手の甲で拭き取ると、

「大丈夫、大したことないよ」

 と言った。


「アル、それより、オレがあいつの相手をしている内に、みんなを連れてバルコニーに出て、逃げて」

「な、何を言い出すんだ、ジル!」

 アルは驚いて大きな声を出した。

「アルは武器も持ってないし、ロミオは今銃を持っていないし、矢は当たってもあいつに通用するか分からない。……この中ではオレが一番丈夫だし、強いと思う」


「だからって、君を置いて行ける訳ないだろう!」

 アルはジルに言い返したが、ジルは魔物を見たまま、唸り声を上げる魔物に向かって行こうとする。

 

 ジルの腕をぐっと掴んだのは、ロゼスだった。

「おい、子供のくせに大人を舐めるなよ、ガキが」

 ロゼスは怒ったように言った。


「何が、〝オレが一番強い〟だ。少しばかり戦っただけだろう」

「お前、すぐやられたじゃないか」

「本番はこれからだ。それにな、お前が魔族の子であっても、俺たちが子供を見殺しにする筈がないだろう」

 ロゼスの遠慮のない、しかしどこか愛情のある言葉にジルは黙った。


 ジルはただ、みんなを助けたかった。それにジルにはまだ奥の手がある。その力を使えばこの目の前の魔物にも勝てる、という自信があった。


「とにかく、勝手なことをするなよ」

「……中途半端な攻撃じゃ、あいつには通用しないよ」

「わかっている」

 何とか丸く収まったので、傍で聞いていたアルも、その様子を窺っていたロミオも安堵したが、魔物を倒さねばならないという状況は変わっていない。

 

 魔物は赤黒い瞳で攻撃対象である者たちを見つめ、腕を振り上げた。

 ロミオはクロスボーを、ロゼスは槍を手に再び構えた。

 ロミオはバンダナを取り瞬時に石を光らせ、ロゼスは石を光らせるために集中をする。

 ロミオは額の石が光ると、クロスボーから矢を放った。


 矢は攻撃力が増す訳ではない。しかし石を光らせることでロミオは魔物の最も弱い部分を把握でき、矢は見事に魔物の瞳に命中をした。

 魔物がウギャア――と叫び声を上げた頃、ロゼスの腕の石が光り、彼は突如目に受けた傷に混乱する魔物に向かって、槍を手に走り出した。


 ロゼスは初めて石の力を使った――。

 体が軽く、今なら十メートル以上はジャンプできるだろうと思った。スピードも上がっているのが分かる。

 力も湧き上がってくる感覚がし、この攻撃は魔物にとって致命傷になる、と確信した。


 ザシュッ!

 ロゼスが突き出した槍は魔物の腹部を貫いた。


 彼の槍は、半分は、ブラッククリスタルの成分でできている。

 石の力だけでは無理だったろうが、この世の鉱物の中で最強を誇る鉱物を半分でも素材にしていたために、ロゼスの槍は、硬い皮膚の魔物にも通用したのだ。


 ――魔物は、その場に崩れ落ちた。

 

 

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