131 南西大陸~旅路・ウォーレッド第二帝国~
第五大陸 南西大陸編
クルミやロミオが、〝神の試練〟を受けようとしていた、丁度その頃――。
仲間たちと別れたアルとパティ、それにロゼスは、新たな大陸へと降り立った。
数週間の船旅の後、殺風景な港へと到着を果たす。
その港は、今まで旅してきた中で、最も寂れた光景だった。店もなく、家もない。
ただ船が数艘停泊するためだけの場所と施設があり、それらを管理する衛兵や人員が百名ほどいるだけだった。
「アル、この国はどんな国なのですか?」
ロゼスはいつも以上に黙り込み、船の中でもずっと無口だった。それに心なしか、アルも元気がない。
二人は必要以上ほとんど口をきかず、喧嘩でもしたのだろうかとパティは思ったが、そういう訳でもないようだ。
パティはその重い空気を何とかしようと、口火を切る。
「ああ、このウォーレッド第二帝国は、民は主に農業や採掘業で生計を立て、昔ながらの暮らしを守っている」
少し進んで行くと、寂れた光景から、崩れた街並み、焼け残った家々が姿を見せ始めた。
もう八年も前に終わりを告げた戦争の跡が色濃く残り、アルもパティも、ロゼスも、その光景に足取りは重くなっていた。
「アル、この国はもしかしてメイリンの……」
「ああ、パティ、そうだよ。この国はメイリンの故郷であり、彼女が王族時代に暮らしていた、ファントン国のあった地だ」
アルは俯きがちに言った。
ウォーレッド国とファントン国との大規模な戦争が終わってもう随分経つが、人々の暮らしが良くなるだろうという希望的観測は、打ち砕かれていた。
国を取り仕切る元首も駐屯する兵士の部隊も、民のためにはほとんど何もしていない。
人々の暮らしは、楽なものではなかった。
唯一、手っ取り早く金を稼ぐ方法と言えば、ウォーレッド国の傭兵に志願することだ。
しかし傭兵に志願すれば劣悪で厳しい環境が待っており、家柄も後ろ盾もない傭兵は、近隣国との小競り合いの戦争の最前線に飛ばされ、始めに命を失うのは彼らだと相場が決まっていた。
アルは、そんなこの国の現状をパティに教えることができなかった。
「ここは、ツバキの持っているという神具、〝火炎の
「ああ、そうだったな。ツバキはこの国から神具を盗んだのか。凄いな」
アルは感嘆した。
ウォーレッド国に比べて警備は薄いが、国外に逃亡する手段は限られている。神具を盗んだ後、ツバキは一体どうやって逃げたのだろうかと、アルは不思議に思った。
しかし、正直この国に用はない、とアルは思った。
この第二帝国はウォーレッド国の支配下に置かれ、この国を統治する元首が一応存在するが、実際にはウォーレッド国王の思うままに動かせる、軍隊が滞在する機関だった。
つまり、ウォーレッド国王の許可なくして、この第二帝国とは同盟を結べない。
よってこの国の元首に会う意味はなかった。だがこの国を経由しなければウォーレッド国へ向かう船が存在しないため、この大陸へ寄ったまでだった。
この第二帝国を訪れた手前、やはり、元首、ルシアン・ブライトに会うのは礼儀だろうと、アルたちは元首の住まいがある、第二帝国の中心地へと足を運ぼうとしていた。
アルたちは、港で船の手配をしつつ、ルシアンに会う許可を得て、中心地へと行くために馬車を借りた。
その道すがら、原っぱのような場所に遺跡の建造物があった。
「少し、見て行きませんか?」
パティが言ったので、三人は立ち寄ることにした。
円形の、巨大な石の土台の上に、小さな墓のような石が規則的に並び、中央部分には、太く背の高い柱が三本立っている。
神聖な空気に包まれたそこは、奇跡的に戦争の影響を受けていないが、長い歴史が刻まれ、寂れてはいた。
パティは少し先を小走りで行き、アルとロゼスはその後ろを歩いてついて歩く。
――アルは、リリア国でロゼスから渡された、父からの手紙を思い返した。
そこに書かれていたのは、マディウスと、生前のファントン国王、レスカ―との約束事と、その後に起きた出来事だった。
アルは手紙を読み終えると、ロゼスに何か言おうとした。
何を言おうとしたのか、はっきりと頭に浮かんだ訳ではないが、何か、彼に言わなければ。アルの心を占めていたのはそれだった。
「王子、あなたのことは、俺が護ります。メイリンが襲ってきたとしても、心配はいりません」
ロゼスはアルの胸中を悟り、それだけを口にし、後は何も言わなかった。
遺跡に足を踏み入れた彼らの前に、一人の女が不意に現れた。
まるでマディウスの手紙に引き寄せられたかのように、彼女はまたも、突如、アルたちの前に姿を現した。
「メイリン……」
目の前に現れた彼女は、すっかり雰囲気が変わっていた。
魔に支配されていたメイリンはその体を纏っていた暗い影のようなものが削げ落ちていた。加えて、生命力というか、力強さがなく、生きる気力を失っているようにも見える。
見た目にも、魔の影響を受け、薔薇色だった髪と赤い瞳は、元のメイリンが持つ、グレイ色の瞳に、グレイ色に銀色が混ざった髪になっており、パティはその色合いに見覚えがあった。
(ロゼスと同じ瞳と髪の色)
髪の色だけではなく、二人には、どこか似た雰囲気があるように思えた。
「アルタイア……、元気そうね」
メイリンは静かな口調で言い、口元に笑みを刻んだ。
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