97 異種試合の開幕 前半

 神具、〝飛翔の靴〟は、賞品になることが決まっているため、玉座の間に絵画等と一緒に飾られていた。

 台座に乗せられた靴はティモスが言ったようにただの古びた靴に見えた。革製で、足首が少し見えるくらいに出来ており、履き易そうだが小振りの靴だった。


 アルとパティ、ティモスの三人でそれを眺めている時、マクーバが背後から現れた。


「おお、アルタイア王子、待たせたな」

「いいえ、こちらこそお忙しい時に失礼いたしました」

 夕食には少し早い時間だったので、アルとパティは円卓のあるダイニングルームに案内され、香りの良いお茶を用意された。

 ティモスも時間があるのか、もしくは興味を惹く話でもしないかと思ったのか、その場に付いて来た。 


 リリア国とは元々良好な関係を築いており、既に友好条約を結んでいる。

「マクーバ王、魔族が表立って姿を現した今、国同士は手を取り、助け合う必要があります」

「うむ。分かっておる。無論そのつもりじゃ。アルタイア王子、今後ともよろしく頼むぞ」

 マクーバは笑顔で頷いたので、アルはほっと息を吐き、

「ええ、勿論です」

 と言った。そこでアルは話は変わりますが……と切り出した。


「異種試合で神具が賞品に出されるという件ですが、僕が口を出すのもおこがましいですが、考え直していただけませんか?」

「なぜじゃ?」

 マクーバは皺の刻まれた額に更に皺を寄せた。


「神具は魔族に狙われています。他国でもそうでした。神具を扱える者がおり、魔族との戦いに備え、その者に託すべき道具です」

「アルタイア王子、わしは知っておるぞ。石を持つ者のことを――」

 マクーバは茶を啜り、アルではなくその向こうの壁を見ているようだった。


「神に選ばれた、大陸に一人存在する、しるしを持つ者。しかし、この国で今、石を持つ者をわしは知らん。この異種試合はな、その石を持つ者を探すための大会でもある。神具に導かれ、石を持つ者は自然とその道具に引き寄せられると言われておる。

 わしはこのリリア国に恐らくはいるであろう石を持つ者が誰なのか知りたいのじゃ。他国ではどうだが分からんが、わしは前の石を持つ者を知っておった。その代の者が死に、その後石が誰に引き継がれたのか分からなくなってしまった……。

 アルタイア王子、心配するな。この異種試合はきっと意義のあるものとなる」


「――そうですか。決意は固いようですね」

 アルはそれ以上は口を出す訳にはいかなかったので、納得せざるを得なかった。


「話しを変えましょう。マクーバ王、僕が異種試合に出場することは可能ですか?」

「なんと、アルタイア王子が?」

 マクーバは目を見開いた。 


「アル、止めておけよ。異種試合は見るのが面白いんだ。俺たち王族が躍起になって出るもんじゃないぞ」

 ティモスが横から口を挟んだ。

「ああ、ティモスのいう通りじゃよ。出場するなど、それは無理だ。認められん。怪我でもしたらー、いや、命の危険すらある。もしものことがあれば、わしはマディウスに顔向けができん。おぬしはメイクール国の次期国王となる者。それは絶対にできん」

 マクーバは首を横に振り、腕を組んで目を伏せた。予想はしていたが、やはり駄目か、とアルは溜息をつく。


 それを聞き、パティは一つの案を思いついた。

「アル、それなら、クルミたちにその大会に出てもらうのはどうでしょうか?」

「クルミたち……、そうか、クルミとネオか」

 アルは少し考える。

 ダンは海賊なので人前に出て目立つ行動は取れないだろうが、二人は、頼めば出てくれる可能性は高い。

 

「マクーバ王、でしたら、僕の推薦する者を二名、試合に出場させてください」

 改めてアルはマクーバに向き直り、口を開いた。

「今日の夕刻まで登録は可能じゃが、その者たちは出場する意思があるのか?」

「ええ、承諾してくれるでしょう。彼らは僕と同じく、神具を探し出したいと思っていますから」

「その者たちの名は?」

「クルミ・レイズンと、ネオ・ロベート・ガラです」

 アルはクルミたちが石を持つ者だとは言わなかったが、マクーバは察しがついているかも知れない、と思った。


「良かろう。その二人の出場を認める。じゃが、神具を手に入れたいからと言って贔屓はせんぞ」

「分かっています。このことを二人に伝えたいので、僕は一度王都に戻ります」

「いやいや、王都へはわしが使いを出そう。それより、もうすぐ夕食の準備が整う。旅の話をもっと聞かせてくれ。パティ殿の話も聞きたいしのう」

 マクーバはにっこり笑み、アルもパティもその人の良い笑みにつられ、微笑んだ。


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