86 救いの神 後半
少年は細身の体つきで、眼は炎のような緋色で、逆立ったオレンジ色の髪をしていた。年の頃は、十二、三歳くらいに見える。
「何だ、この子供は……?」
炎の中から現れた少年に一同が注目する中、ダンが言った。しかしなぜかその子供に何か言う気にはなれない。得体が知れず近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、少年の周囲は山の頂のような神聖な空気が張り巡っていた。
「貴様は、何者だ?」
炎を操った少年に、シスはその眼光を向けた。
「強いエネルギーを発しているな。人間ではないな?」
「それだけか?」
「何?」
「それだけしか分からねえのかって言ってるんだ」
少年は腕を組み、馬鹿にしたように言う。
シスは少年の言葉にむっとし、顔を歪めた。
「てめえの眼は節穴か? 高位魔族のくせに力を比較することもできねえのか? ふん、笑っちまうな」
ライザは小柄な背丈に似合わない横柄な態度で言うと、鼻で笑った。
「オレの名はライザ。天に住む神の一人、炎の神だ」
ライザは親指を自分に向け、緋色の燃えるような瞳を真っすぐ、シスに向けた。
「あの子供、今、何て言いました……?」
ネオは目を見開き掠れた声で言う。
「炎の神って、聞き間違いじゃないよね? それじゃ、神様ってこと? あの子が?」
クルミもライザを信じられないものでも見たような顔をしていた。
「ええ、あの方は間違いなく、炎の神ライザ様です。ライザ様は神の中でも最も年若く、人間が生み出した炎の化身から成った神のために人間の子供のようなお姿なのです」
パティは神を前にする時はいつもそうしてきたように、崇め、尊敬の念を込めて言った。
「炎の神、だと?」
シスは奥歯を強く噛み、ライザを睨んだ。
「確かに得体の知れない力を感じる。それが真実ならば貴様を倒せば俺は神を葬る力を得ているということか」
シスはにやりと笑んだ。
ライザは片腕を真上に伸ばした。
「面白い、やってみろ! オレは年若い神だが瞬発的なエネルギーでは神の中でも上位クラスだ。かかって来い!」
まるで本当の人間の少年のように、無邪気にライザは叫んだ。
ライザが真上に構えた手の平から、熱が噴き出し、そのあまりの熱量に、部屋の中の温度がぐんぐんと上昇し、傍観している者たちの体からは汗が流れ落ちる。
「行くぜ!」
ライザは手の平に熱が溜まると拳を握り、熱風を体から発しながらスピードを上げて、拳をシスに繰り出す。
シスはライザの熱の溜まった拳を腕ごと切り落とそうと剣を振った。ライザはもう一方の腕を盾に変化させ、それを防ぐ。もう一度、ライザは拳をシスに繰り出した。
拳はシスの頬に当たり、シスはぐああ、と雄叫びを上げた。
シスの顔半分は焼け、シスは、
「おのれ……」
と掠れた声を発した。
シスはスピードを上げ、ライザに向かっていった。
ひゅんひゅん、と、ライザとシスが攻防する足音が部屋の中に響き、他の面々はあっけに取られてその光景を目の当たりにしていた。
クルミはその眼の良さからかろうじて何が行われているか分かったが、ダンは何となくでしか二つの動きを捕らえられず、他の者たちは音で動きを想像することしかできなかった。
「これが神の戦いですか。別世界のようですね」
ネオが言い、皆巻き添えを食らわぬよう、部屋の隅に身を寄せていた。
だが戦いは間もなく決着するように思われた。二つの素早い動きが止まったのだ。
動きを止め、姿を見せたシスとライザは、シスは大きく息を切らし、ところどころに火傷を負い、その傷が痛むようで歯を食い縛っているが、ライザは平然としていた。
「これで分かっただろう。高位魔族だろうが、てめえ程度の魔族ではオレを倒すことはできねえな。せいぜい、冥府でてめえの力のなさと、生み出したビクスバイトを恨むんだな」
ライザは最後の一手に出るようだった。
彼の体は益々熱く燃え滾り、ライザの立つ床は溶け始める。
「おい、まずいんじゃねえのか? この熱さで部屋が溶けるぞ。部屋を出るぞ!」
「同感だね。すぐ避難しよう」
ダンとクルミは言い、パティたちも頷いたが、アルは倒れたメイリンに目を向け、彼女を立たせた。
メイリンは傷が深く、肩で息をし、歩くことも困難だったがそれでも意識はあり、アルの手を振り払うと、ゆっくりと扉に向かって歩き始めた。
「終わりだ、魔族シス。せめて苦しまないよう、一瞬で終わらせてやる。天の神の情けだ」
他の者たちが部屋の外に出ると同時に、ライザはその身を硬質化させ、体全てを武器と化した。硬質化したライザは炎よりも熱い溶岩と同等の温度となり、ライザは恐怖に目を剥くシスに、硬質化させた体ごとぶつかっていった。
「く……うわあああ!!」
インパクトの瞬間、シスの体は一瞬の内にボッと燃え尽き、シスは痛みを感じる間もなかった。
ライザは体の変質を解き、戻の体に戻ると噴き出していた熱も消えた。
「見かけほどの魔族じゃなかったか」
ライザはあっけなく終わった戦いに満足していないような口振りで言い、拳を二度三度開いたり閉じたりし、その動きを確かめた。
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