77 変わり果てた城内 後半
玉座の間へ近づくへつれ、魔物の数が多くなり、転がる死体の数も増えていた。
魔物と鉢合わせる度にクルミとアルは戦い、無駄な戦いを避けるため隠れながら進み、ようやく玉座の間の部屋の前まで辿り着いた。
扉は開いており、部屋の中には何人かの気配がした。二人は扉の陰に隠れ、中の様子を窺った。
「貴様、嘘をついたな。ここに神具はないな?」
腕を組み、大剣を背に差した筋肉質な体躯の大男―、魔族が言った。
魔族の体は陽に焼けた肌のような色で、その眼は血のような赤い色をしていた。魔族は地の底から這うような声で、その声を聞くだけでアルは背筋が凍り付いた。
「シス様、私が力を使いましょうか? すぐに訊き出せます」
踊り子姿で鞭を携えた女が言った。アルは女を見て目を見開いた。
(メイリン! やはりパティが見たのはメイリンだったのか)
彼女の背からはムーンシー国の時と同じ、黒い翼が生えていた。その隣にいる二体の魔物も、通常の魔物よりも凄みを感じる。
「待てメイリン。俺のやることを邪魔するな。死にたいか?」
メイリンは失礼しました、と遜って言い、その様子から、アルは彼女はその魔族に従う立場なのだと理解した。
魔族の前方、追い詰められた壁際にはダイス王がいた。
シスは王を屈服させたいのだ。
大国の王であるダイスが気に入らなかった。シスはダイスに近づいた。
「王よ、もう一度だけ問う。神具の在処はどこだ?」
「魔族などに神具を渡せる訳がない。時期国に分散した兵力が戻れば貴様などー」
ダイスは大国の王として、屈服する訳にはいかないと、何とか平常心を保っていた。
アルたちの位置からは見えないが、王の隣ではオリオンを抱いた王妃、その近くの王女セトラはその場に膝をつき、震えていた。王女を護るように、ネオがセトラの前に立っていた。ネオも一緒に連れて来られたのだ。
周囲には数名の兵士が力尽き倒れていた。
「俺に偉そうな口を聞くな。たかだか人間の国の王如きが!」
魔族の男シスは、大剣を抜き、王の首元にそれを当てた。
「やめて! 神具は地下の宝物庫です! あなたに渡します。だから、命は助けて……」
アイビー王妃は涙を滲ませた瞳でシスに向かって叫んだ。
「なかなか威勢の良い妃だな。気に入ったぞ。王よ、今度こそ神具の場所へ案内してもらおう。今度偽りを言えば妃を殺す」
アルは、ごくりと唾を飲み込み、息を殺してその様子を見ていた。
(どうすればいいんだ……? あの魔物二体もそうだが、メイリンとも戦わなければならない。それにあの中央の魔族――)
「アル」
クルミが、考え込むアルに音量を押さえて呼びかけた。
「あたしたちだけであいつらを相手にするのは分が悪いよ。助けを呼びに行こう」
「いや、神具を手にすれば魔族たちは王族を殺すだろう。そんな暇はない。中にはネオもいる。彼も戦える」
クルミは少し考えた。
(ネオが石を持つ者なら、あたしと同等の戦える力を持っていると仮定する。それなら、魔物と女は何とかなるか。でもあの魔族だけは――)
「クルミ、あのどれかを相手にできるか?」
「魔物かあの女なら、多分ね。でもあの魔族は、よくわからないけど勝てる気が全然しない。あんなの見たことない。別次元の生き物ってカンジ」
クルミはシスを見て、震えが込み上げた。そんなことは初めてのことだった。肌で感じるのだ。あの魔族に近づいてはならない、と。
「王よ、どうした? 俺の声が聞こえなかったか?」
シスは王に近づき、再び問う。
「わ、分かった。宝物庫に案内しよう」
シスはくっくと笑い、剣を背に収めた。
「メイリン、分かっているな。何かあればお前が対処しろ。ムーンシー国での失態を取り戻せ」
「はい、シス様」
シスは王を連れ、開いた扉へと向かおうとする。
「アル、こっちに来るよ、隠れて」
「隠れるって、どこに……?」
クルミは素早く動き、扉の横に飾ってある大きめの壺の後ろに体を隠す。
アルは、身を隠すものなどない回廊で、シスのコツコツ、という足音が近づいてくる中、冷や汗を滲ませた。
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