第667話「来るなら来てみろとリオネルは微笑む」

それからしばらく……

リオネル達はフォルミーカへ出発する準備で忙しかった。


特別地区の各施設を整備し、受け入れ態勢を整えつつ……

更に防衛用必要との事で、リオネルの地属性魔法により、

国境上にそびえたつ高さ20mの防護壁を設けたのである。


その間も公社職員、事務官、武官は各々の持ち場につき、本番に備え、

さながらのシミュレーションをじっくり行った。


……そんなこんなで準備も完了。


一旦フェフの官邸へ戻った3人。

そして出発の支度をしたリオネルとイェレミアス。


リオネルの説得により、一旦は納得したものの、

やはりというか、恨めし気な視線を向けるヒルデガルドの見送りを受け、

とある日の朝フォルミーカへ旅立ったのである。


当然ながらイェレミアスが行っていた執務関係の引継ぎは、

各担当者へフォローをお願いし、ヒルデガルドが担う事に。

まあ、散々行い、慣れた業務であるから、支障は出にくいし、

現在のヒルデガルドなら、完璧にかつ堂々とこなしてしまうだろう。


またリオネル不在の間、ヒルデガルドの護衛役としてレギュラーの武官達に加え、

念の為、ケルベロス&オルトロスの魔獣兄弟と、

お側役たる妖精ピクシーのジャンを置いて行く万全の態勢となった。

彼らからは毎日1回、また何かあれば随時、

長距離念話で連絡が入る事となっている。


さてさて!

お約束なのだが、手間を省き、時間、金等を有効に使う為、

今回も移動手段は転移魔法である。

ちなみにリオネルの移動有効距離はどんどん延び、

現時点で1回の転移において1,500㎞超。


なので詠唱なし、神速――計4回の転移魔法で、

約5,000㎞先のフォルミーカへ通じる最寄りの街道付近の雑木林へに余裕で到着。

ちなみにフェフの官邸を出てから、10分も経っていない。


旅をするふたりの格好は、革鎧をまとった身軽な冒険者風。

革兜も被っているから、特徴のある耳も隠されており、

近寄って顔だちを良く見ないと、イェレミアスがアールヴ族とは分からない。


ふたりはしばし雑木林で待機、

リオネルの索敵で無人となったタイミングを見計らい、

横道からしれっと街道へ出て、「てくてく」とフォルミーカへ歩いて行く。


ボトヴィッドへ交渉する出張仕事とはいえ、

イェレミアスにとっては、多忙な官邸詰めの日々から解放され、久しぶりの旅。

なので、リラックスさが出て来たのか、上機嫌で満面の笑みを浮かべていた。


そして、ふたりの会話はこれまたお約束の念話である。


『あの、リオネル様』


『はい、何でしょう、イェレミアスさん』


返事を戻したリオネルへ、「ふう」と軽く息を吐いたイェレミアスは、

柔らかく笑みを浮かべ、


『再び体験し、改めて思います。失われし古代魔法、転移魔法はやはり素晴らしいと。普通なら数か月を要する長旅がこんなに簡単に行える』


『ですね。おっしゃる通りだと思います』


『何と言えばいいのか、私の引継ぎをしてくれたヒルデガルドには申し訳ないのですが、この旅は久々の息抜きというか、気晴らしになりますよ』


上機嫌のせいなのか、いつもより饒舌なイェレミアス。

リオネルも微笑み、言葉を戻す。


『ええ、今回の旅の目的は、当然仕事なのですが、良い気分転換にもしてくださいね』


『はい! 課せられた仕事はしっかり遂行したうえで、旅を存分に楽しみます』


『ですね』


『はい、ボトヴィッドの店へ行くついでにフォルミーカの街も見物し、置いて来たゴーレム達を含め、古代都市の状態も気になるので、時間が許せば、迷宮へも行きたいものです』


『了解です! 宜しければフォルミーカの街見物には俺も付き合います。そして迷宮ではゴーレム&ドラゴン討伐をやっておきたいです』


『ははは、労働力の補充と資金稼ぎですな』


『ですです!』


そんなこんなで、話が盛り上がるふたり。

更に街道を歩く事、約10分。

ふたりの前には、フォルミーカの正門が見えて来たのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


以前訪れた時と同様、正門には、屈強な門番が数名、

入場者のチェックを行っていた。


入場を希望する旅人は修行中らしき若い騎士、商人、郵便配達人、巡礼の親子など、様々な職業かつ出で立ちの者が、数列に別れ、並んでいる。

やはり人数が多くて目立つのが、革鎧に身を固めた冒険者。

これまた以前と変わらない光景である。


……そうこうしているうちに、リオネル達の順番が来た。


リオネルは冒険者ギルドの所属登録証を提示する。


「冒険者ギルド所属のリオネル・ロートレックです。お手数ですが、入場の手続きをお願い致します」


燦然と輝くランクSの文字、そして記載された氏名を見た門番は、

19歳のリオネルを見直し、「おお!」と大いに驚く。


そして姿勢を正し、直立不動で「びしっ!」と敬礼する。


「ランクSのレジェンド冒険者でドラゴンスレイヤー。我がアクィラ王国の偉大な英雄たる疾風の弾丸リオネル・ロートレック様! ようこそ! 迷宮都市フォルミーカへ!」


さすがにもう『荒くれぼっち』とは呼ばれていないらしい。

と、リオネルは苦笑。


そして、リオネルとヒルデガルドがドラゴン討伐を行った事は、

ここフォルミーカでも広まっているようだ。

であれば大仰なセリフだが、門番の対応も当然であろう。


対してリオネルは、いつものように謙虚である。


「お疲れ様です。こちらは私のクライアントであるアールヴ族のイェレミアス・エテラヴオリ様。私とともにドラゴンを倒したヒルデガルド様の御祖父様おじいさまにあたります」


イェレミアスは冒険者ギルドに所属せず身分証明書代わりとなる所属登録証を所持してはいない。

なのでイェレミアスの了解を取り、分かりやすく紹介をしたのである。


リオネルとともに、アールヴ族ソウェルたるヒルデガルドの名もアクィラ王国の国民の中で知れ渡っていた。


そして国王自ら ふたりへ感謝の言葉を告げている。


そのリオネル自身が、

イェレミアスをヒルデガルドの身内でクライアントだと紹介したのだ。

身分証がなくとも、入場拒否どころか、疑う事さえも『ご法度』であろう。


「おお、そうですか! 貴方様が英雄ヒルデガルド様のおじいさまとは! 迷宮都市フォルミーカは、おふたりを大歓迎致します!」


笑顔の門番は揉み手をしながらそう言うと、


「お~いいい!! 国賓用馬車の用意をおお!! 行先は冒険者ギルドだああ!!」


と叫んだ。


これは、もうまたまたお約束のパターン。


多分、冒険者ギルドフォルミーカ支部へ案内され、

ギルドマスター、アウグスト・ブラードが出張って来ると思われる。


面倒だなと感じつつ、このまま行く方が良いと考える。

フォルミーカで事を運ぶには、

筋を通す形でアウグストにあいさつしておく方が、賢明だから。


そして前回会った時は、ランクAとはいえ、単なる一介の冒険者であったリオネル。


しかし今のリオネルは立場が全く違う。


冒険者の頂点に立つスーパーレジェンドと呼ばれるランクSとなり、

アクィラ王国の国難であったドラゴンどもの討伐を果たし、

国王と宰相から直接、『英雄』だとお褒めの言葉を頂き、

隣国イエーラの政治顧問として辣腕を振るっているのだ。


アウグストだけでなく、実兄であるフォルミーカの町長、グレーゲル・ブラードも同席して来る可能性も高い。


兄弟が似た者同士の性格ならば、超低姿勢でリオネルへ取り入り、

以前のようにあの手この手で、いろいろ便宜をはかって貰おうとするに違いない。


来るなら来てみろとリオネルは微笑む。


基本的には「おかまいなく」のスタンスだが、

ケースバイケースで、それを逆手に取り、こちらが便宜をはかって貰うと。

当然、法律に反する事はしない。


考えを巡らせながら……

リオネルはイェレミアスとともに、用意された馬車へ乗り込んだのである。

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