第635話「しかし困った事がひとつ」

リオネルが施工、完成させ、ヒルデガルドが確認した主要5街道の拡張と舗装工事。


まだイエーラ全体の交通網が整備されたわけではない。

だが、これで沿道の町村と都フェフにおいて人々の往来がとても頻繁となり、

いろいろな部分で良い影響が出る。


……そうリオネル、ヒルデガルド、イェレミアスは予測していた。


結果、当日はそうでもなかったのだが、

2日目からは予想通り、誰でもそう感じるくらいフェフへの来訪者が増えて行った。


それと同時にリオネル達は次々と考えた施策の実行をはかって行く。


イエーラ国内50か所宛の農業支援は、回答があった町村へ、

担当分けした事務官武官10名の合同チームをリオネルの転移魔法で瞬時に派遣。


現地へ入った合同チームは首長と打合せを行い、

具体的な施策案に修正し、作り直す。


作り直した施策案を持つ合同チームを、再びリオネルの転移魔法でフェフの官邸へ

瞬時に帰還させる。


帰還したらフェフの官邸にて、じっくりと施策案を検討。


再訪のスケジュールに合わせ、リオネルとヒルデガルドが合同チームとともに現地へ赴き、農機具1,000セットの貸与とそれ以外の支援を実施。

労働力が足りない場合、リオネル麾下のゴーレム軍団を出動させる。


この流れを繰り返し、イエーラ全50か所の町村支援策を行う。


そして50か所の町村へは、基幹作物である小麦と野菜、

ハーブの生産増量を猛プッシュ。

特にハーブは国内用は勿論、大きな需要が見込める交易用の商品確保に奔走。

各所へ話を入れ、結構な量を購入した。


また農業だけではなく、緊急性の高い魔物、賊討伐なども行い、

治安の維持、向上にも努める。


結果、約1か月で、半数以上の町村の支援を終え、引き続き、完遂を目指す。


その合間にアクィラ王国との国境付近に建設中の特別地区の工事進捗をチェック。

必要があればアドバイスを入れ、不足する資材を即座に調達し、

労働力が不足した場合には、やはりゴーレム軍団を出動させた。


一方フェフの公社直営店は、採用した職員スタッフ達が順調に成長。

定期報告を受けるのみで、『お任せレベル』となった。

運営に問題はなく、売り上げは安定し、毎日完売に近い状態である。


またフェフへの商人の流入増加、それに伴う取引の活発化により、

フェフの市場が相当手狭となったので、要望もあり、拡張、露店の増設も具体化。


週末の市場の休業日に、リオネルがまず拡張工事を行い、

市場の敷地を拡げ、また国が買い上げ済みの周辺の土地も整地。

露店用の簡易店舗の建設も開始されたのである。


そしてヒルデガルドはといえば、良き睡眠にこだわり、

イエーラの職人に呼びかけ、

ワレバッドで購入したサンプル用の人間族ベッドをいくつか貸与。

まずは『試作品』を作るよう命じたのである。

試作品が出来れば、改良、コストの軽減、職人の確保、資材の調達を経て、

公社において販売を開始する事となった。


こうして……リオネルとヒルデガルドが現場へ出て対応。

イェレミアスが事務方でバックアップし、

官邸の事務官、武官をまとめるというやり方が上手く行き、

イエーラ富国作戦を進める為、様々な施策は順調に実施されて行ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


農作業を含め、工事関係で大きな戦力となったのは、ゴーレム軍団である。


何せ、睡眠要らず、休憩要らずの疲れ知らず。

人間社会であったら、ストライキや辞職など凄く問題になるような使われ方だ。


しかし使い方がシビアでも無機質生命体であっても、

リオネルは彼らへのいたわりを忘れない。

使役後はメンテナンス作業を絶対に欠かさないし、

同じ個体の連続での使役はなかった。


……話を戻そう。


ゴーレム軍団の大活躍により、

これまで石工、大工などの職人達が行っていた単純な力仕事は著しく軽減された為、単純な力仕事が著しく軽減された分、細かな作業に注力出来るようになり、

作業速度は勿論、クォリティーも上がった。


……という事で、特別地区は8割がた完成。

市場の拡張工事は終了し、後は建設中である露店の簡易店舗完成を待つのみだ。


という事で、各施策の目途が立って来たので、

リオネル、ヒルデガルド、そしてイェレミアスは公社国外担当者達と打合せを持つ。


直営店舗から送られる輸入品の販売データをもとに国産化への切り替えを検討した。

結果、いくつかの切り替えの見込みが立ち、試作品を作る予定が組まれる。


また各所から購入し、確保した大量のハーブを一部使用し、

新たなるハーブ料理の研究会を、フェフのレストラン店主を集めて官邸で行う事に。


その場で、ハーブをふんだんに使ったアールヴ族伝統の料理の確認試食は勿論、

人間族の料理も、リオネルが実地で披露。


店主達の評価を得た上で、惜しげもなくレシピを渡し、彼らの店でメニュー入りさせるのを許可するとともに、店が公社と提携契約する約束を取り交わしたのである。


モチベーションが上がった店主達の中には、

自ら『特別地区』へ支店を出す事を希望する者もおり、

ハーブを国策商品として売り出すセッティングは上手く行ったと言えるだろう。


さてさて!

まだまだ国内でやる事は多いのだが、

そろそろ外貨を稼ぐべく、国外との交易準備もしなくてはならない。


イエーラはず~っと鎖国政策をおこなっていたから、

交易はとりわけ難度が高い事業だ。


会議で主導するのはリオネルである。


「まもなく国境沿いの特別地区が完成します。箱が出来たら、事業計画を立て、各所の人員を手配。特別地区開設の準備をしましょう。既にソヴァール王国のローランド・コルドウェル伯爵から、紹介の連絡が行っていると思いますので、アクィラ王国の王都リーベルタースにある、冒険者ギルド支部のギルドマスターと、連絡を取ろうと思います。


以前、おふたりにもお話ししましたが、アクィラ王国王家や高位貴族家から出ている上級ランカーあての依頼があれば受諾し、伝手つてを作っておこうと考えています。交易を始めるにあたり、話を通す際に、良い足掛かりになるでしょう。その上で、正式に交易希望の打診をし相手方と双方の条件を調整。問題点など念入りに確認を行い、交易実施に移行しましょう」


リオネルの提案は、事前に話してあった事もあり、ふたりから同意と賛成を得た。


しかし困った事がひとつ。


一番最初はリオネルが単身で様子見に赴くと宣言したが、

ヒルデガルドは即座に却下。


「私も絶対に同行します!」ときっぱり言い切り、

リオネルとイェレミアスの説得を全く受け入れなかったのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る