第632話「ふ! 本当にとんでもないお人だ……」
執務室へ移動した3人は、
夕方まで様々な議題について話し合った。
やるべき仕事とそれに伴う作業が見えて来て、
リオネルとヒルデガルド、そしてイェレミアスはそれらを完全に明確にし、整理、
優先順位をつけた作業スケジュール表を作ったのである。
農業支援策、市場の拡張整地、露店の建設、
そして都フェフから各町村へ延びる各街道の拡張、舗装工事。
これらと並行しながら、建設中の特別地区への視察、確認を、
当然、オープンしたての公社直営店も軌道に乗せて行かねばならない。
他にもやる事は山積みであり、本当に目が回るくらいの忙しさだ。
時間を有効的に使い、スムーズに進める事が必要になる。
一番効率的に動けるのは勿論リオネルである。
「さて、今日は夕食を摂ったら、準備をし、夜間道路工事を行ないます。フェフから延びる街道をいくつか整地し、石畳化しますね」
リオネルの話を聞き、反応したのはヒルデガルドだ。
「夜間道路工事ですか! リオネル様! 私も立ち会います!」
しかし、リオネルは首を横へ振る。
「いえ、ヒルデガルドさんは朝、訓練等で早いですし、工事の終了時間は結構遅くなりますから、事務官、武官のどなたかに立ち会って頂ければと考えています」
「いえ! 朝早いのはリオネル様も同じではないですか! オーク討伐の時と同じです。私ヒルデガルドだけなら、余計な人員を使わず、ひとりで済みますから、しっかりと立ち会わせて頂きます」
こうなるとヒルデガルドは絶対にひかない。
イェレミアスは苦笑し、リオネルは了承するしかない。
「分かりました。ではヒルデガルドさんに夜間道路工事の立会いをお願いします。今、午後5時ですから、30分打合せをしてから、先に3時間ほど仮眠を取り、その後に遅めの軽い夕食。ひと休憩し、午後10時から工事を開始しましょう。そして工事終了は午前3時の予定です」
「分かりました、そのスケジュールでOKです。私も仮眠しましょう。購入したばかりの新しいベッドのお陰で寝入りがとても早いですから」
……という事で、リオネル、ヒルデガルド、イェレミアスは、都フェフ周辺とイエーラ全体の地図を見ながら工事部分を打合せし、決定。
最終確認は、朝の朝早く事務官、武官各数人に行って貰う事にした。
「じゃあ、寝ますか。ヒルデガルドさん、3時間後にまた会いましょう。おやすみなさい」
「うふふ、本当は一緒に眠りたいのですが、今は我慢しますわ。リオネル様、おやすみなさい」
こうしてリオネルとヒルデガルドは各自の寝室で仮眠を取ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……午後8時30分。
リオネルは自然に、ヒルデガルドは魔導目覚まし時計の力を借り、
それぞれ目をさました。
それぞれ、用意してあった革鎧他装備一式を装着する。
ちなみにヒルデガルドは、ワレバッドでオーダーメードした、
人間用の革鎧セットを常に愛用していた。
さてさて!
遅い軽めの夕食は、リオネル部屋の応接間で。
起きて待っていたイェレミアスも付き合い、3人で摂る事に。
魔物も出没するであろう深夜の道路工事だが、
オークの討伐同行を始め、先日の人間族社会視察旅行同行。
いずれも、かすり傷もつけずヒルデガルドを無事連れ帰って来た。
様々な仕事の提案と実績。
誠実な人柄、底知れない魔法と身体能力的な強さ……
リオネルは愛孫を預けるにあたり、最も信頼に足る男子。
送り出すイェレミアスには何の不安もない。
食事が終わり休憩しながら、念の為再度打合せを行う。
リオネルが工事の手順を説明する。
「フェフから延びる5つの街道の100㎞先にゴーレムを各20体派遣し、それぞれフェフに向かって道を拡張しながら突き固め、整地させます。整地後、俺が地属性魔法で石畳舗装をして行きます。オーク防護壁の超薄型バージョンという仕様ですね」
「私、オーク討伐の際、巨大防護壁の生成を見ていましたから、イメージがわきますね」
「新たな道路は、あっという間に完成しそうですな」
「ヒルデガルドさんを、ハーネス付きの『背負い搬送具』で背負い、転移、飛翔各魔法で移動します。また革兜にベルトでつけるタイプの魔導灯で明かりを取り、照明魔法『魔導光球』を複数使って各現場を照らし、工事の進行状況を確認します」
「うふふ、またリオネル様と一緒に空を飛べますわ」
「ヒルデガルドよ、あまりはしゃいではいけないぞ」
「今回の工事は無機質生命体のゴーレムが作業しますので、魔物が出現しても大丈夫とは思いますが、邪魔をされても困るので、念の為にケルベロス、オルトロスを出動させます」
「万全ですね」
「ゴーレムが作業する事で、危険な夜間工事に、けが人が出ないのが何よりですな」
更にいくつか、すり合わせを行い……リオネルとヒルデガルドは出発する事に。
官邸本館の玄関先で、イェレミアスと事務官、武官達はお見送り。
リオネルは収納の魔道具から、『背負い搬送具』を搬出し、
自身の背にセットした。
「ヒルデガルドさん、『背負い搬送具』で背負いますね」
「お願いします」
何回も練習したので、ヒルデガルドのおぶさりはスムーズである。
「ヒルデガルドさん、命綱のハーネスはつながっていますか?」
「大丈夫ですわ、リオネル様」
というやりとりも手慣れたものだ。
『ルークス!』
ぽわ!
リオネルが照明魔法の
結構な明るさの『魔導光球』が、官邸の上空10mに出現した。
「では、そろそろ行きます。ヒルデガルドさんは無事にお戻ししますので」
「おじいさま、行って参ります」
出発のあいさつが終わるとともに、ヒルデガルドを背負ったリオネルの身体は、
ふわっと浮き上がり、そのまま魔導光球とともに、すっと消えてしまった。
飛翔と転移、失われし古代魔法を、リオネルが無詠唱で一度に両方使ったのだ。
「ふ! 本当にとんでもないお人だ……」
リオネル達が消えた真っ暗な空を見て、イェレミアスは思わず苦笑したのである。
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