第630話「イエーラを豊かにする為に、国民全員でやれる事を行おうというのが、スローガンです」

リオネルが中心になってセッティングした公社直営店は、

……結局、開店から約4時間後の、午後2時。


用意した商品は全て売り切れ、

オープン初日は終業時間前に閉店となってしまった。


閉店に際し、扉を閉めていた公社職員達は、明日の開店について散々に尋ねられ、

明日も本日と同じく、午前10時開店であり、商品が売切れたら営業終了だと言うしかなかった。


それでも不満を言う者は居たが、警備担当の武官達が出張り、にらみをきかせたので、トラブルになる事はなかったのだ。


という事で、閉店となった店内において、リオネルの陣頭指揮により、

品だしが行われる。


商品を仕舞ってある、収納の腕輪から、どんどん商品を搬出し、

職員達が、棚や什器に並べて行くのだ。


明日の販売用商品の量は本日の倍。

それでも本日の勢いならば、閉店前に売切れてしまうという見込みだ。

なので更に新たな商品も数種類追加もした。


ちなみに、公社扱い商品の値付けだが、

ほぼ同じものが国内産である場合は1割だけ高くしていた。

安くして、既存の商店からクレームが来ないようにという配慮だ。


また国内で生産されていない商品は、

人間族の街で売られているより2割から3割高く設定した。


今回のようにリオネルが運ぶ分にはコストがかからないが、

本来要するコストを加味しての値段設定なのだ。


「うわあ、リオネル様。あっという間に売り切れてしまいましたねえ」


当初、ヒルデガルドは一般職員のように1日中の販売担当を希望したのだが、

イエーラのソウェルたる立場から、却下されてしまった。


その代わり、売り場を巡回し、職員達の商品説明をアシストした。

特に自身が実際に使用した商品の売り込みに関しては、

身振り手振り入りで熱く語り、大いに貢献したようである。


「商売って、凄く面白いし、国民が喜んでいるのを見ると嬉しいですわ」


と言うのが、ヒルデガルドの感想だ。


「はい、ちょっと高めの値段設定でしたが、ヒルデガルドさんのお勧めトークが大きかったです」


「うふふ♡ リオネル様から、そうおっしゃって頂けると、頑張ったかいがありますわ」


「はい、そして人間族の商品という物珍しさもあって、こんなに売れたのでしょう。ただ利益やコストも考えなければならないし、まだまだこれからですよ」


「うふふ♡ リオネル様、さすがです。勝って兜の緒を締めよという事ですね」


ヒルデガルドは、リオネルから教わったことわざを言い、満面の笑み。


そこへ開店時のみ立ち合い、

その後は、官邸で執務を行っていたイェレミアスがやって来た。


事務官から『完売』の報告を聞いたらしい。


「おお、リオネル様。聞いた報告通りの完売ですか! 今は明日の品出しをやっているのですね」


「はい、完売です。本日は、ヒルデガルドさんもしっかりと販売のフォローをしてくれました」


「おお、そうですか。それは何よりです。よくやったな、ヒルデガルド」


「うふふ、もっともっと、頑張りますわ」


リオネルとイェレミアスから褒められたヒルデガルドは、

更に機嫌が良くなったのである


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


品出しを、一般職員に任せ、リオネルは幹部職員達を呼び、

ヒルデガルド、イェレミアスとともに打合せを行う。


一番大事な売り上げ金の管理を徹底させ、改善点を指摘。

そして実際に店舗販売を行った感想を尋ねる。

上がった感想に対し、やりとりを行う。


品出しが終わったら、今度は幹部職員が、一般職員に対し、同じ事を行うのである。


これを何回か続けて行き、

しまいには職員達だけで店舗運営が行えるようにするのだ。


明日の営業に向けて、残りの作業を職員達に任せ、

リオネル達3人は官邸へ戻り、打合せを行う。


議題はまず、農業共通支援策における各町村首長達からの返事に関して。


当然、全50町村から返事は戻っておらず、送られて来たのは約3割ほど。


目を通した事務官からの報告によれば、国が農業支援を行う事に関して、

おおむね好印象のようである。


首長達も、難癖に近い不満を述べる農場主達には困っていたらしい。

指定された1か所の農地に防護壁を建設する事。

鍬、鋤、鎌、スコップを1セットにした1,000セットの無料貸与も行う事を通達すると数多の農場主達は大喜びしたそうだ。


そしてリオネルの予想通り、

希望する施策の内容は地域によって全く異なっているらしい。


開墾、種苗提供、水回り、防護壁建設、農業用道路建設、

盗賊、魔物や害獣退治などなど、


やはり無条件で、全てに対応していたら、コストと所用時間で大変な事となる。


何を条件にして、農場主達の不満を解決し、希望に応えてやればいいのか。


「リオネル様、何かアイディアはありますか?」

「あったら、お聞かせください」


ヒルデガルド、イェレミアスが尋ねて来た。


対して、リオネルは即答。


「はい、あります。盗賊、害獣、魔物の襲撃などは、緊急性がありますから優先的に応えてあげますが、それ以外は、生産量とそれに伴う納税を、前年比より5%以上アップした農場に、そのアップ率により、支援で報いてやる形にするのです」


「生産量とそれに伴う納税を5%以上? アップ率により?」

「ほう!」


「そうです。5%までならこう、10%までならこう、と支援の内容を決め、目標を持たせるのです。目標を達成したら、褒賞として国から追加支援を行うという事で」


「成る程」

「馬に人参という事ですね」


「はい、ですが、凶作や不慮の事故とか、いろいろな原因で生産量と納税が落ちる場合もありますから、理由を精査した上、故意の過失がなければペナルティは科さないという事としましょう」


「はい、正当な理由なら責めてはいけませんね」

「国と国民は信頼ありきですからな」


「書類提出の締め切り日は設定していますが、いち早く返事をくれたところには、締め切り前に優先して、事務官、武官を派遣しましょう。その事が近隣に伝われば、首長達の勤務状態にもチェックが入れられますから」


「成る程、町村間でも競わせるのですね」

「国民全員に、やる気を問うわけですね」


「ええ、イエーラを豊かにする為に、国民全員でやれる事を行おうというのが、スローガンです」


「イエーラを豊かにする為に、国民全員でやれる事を!」

「その通りですな!」


「では次にフェフ中央市場の改修について話し合いましょう。具体的には敷地面積の拡張と付帯設備の充実、露店、フードコートの新設です」


イエーラ富国作戦の為にまだまだやる事はたくさんある。


ひとつの議題を片付けると、リオネルはすかさず次の議題を提示したのである。

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