第612話「わお! おじいさまのおっしゃる通りでしたわ! すっごく美味しいっ!」

リオネルの料理に必要な食材を、そしてランチ用の弁当、サラダ、フルーツ、

飲料などを購入し、3人は総合食料品店を後にした。


そのまま宿泊しているスイートルームへ戻る。


戻ったリオネルは、部屋に備え付けの魔導通信機でギルド総本部秘書課へ連絡。

エステルの同行が本日の夜まで、帰宅は馬車を手配するので直帰になる事を、

秘書課の上司へ、伝え、了解を貰った。

エステル本人にも変わり、彼女自身の口からも、

本日はヒルデガルド、リオネルと夕食も共に摂り、そのまま直帰だと、伝えて貰う。


またリオネルは、エステル帰宅の為に、馬車の予約も取った。

午後9時に、ホテル駐車場へ来て貰う事とする。


てきぱきと、手はずを整えるリオネルと、

それを頼もしそうに見つめるヒルデガルド。


そんなこんなで、準備が整い、リオネルが言う。


「さあて! じゃあランチにしますか。買って来た弁当もろもろを、全員でテーブルへ並べましょう」


「はあい! リオネル様!」

「わっかりましたあ!」


リオネルの指示により、購入した弁当、もろもろがテーブルへ並べられた。


出来合い料理の合わせ技なのだが、弁当や料理の見栄えが良く、クオリティが高い。

加えて、食べるのがスイートルームなので、

リッチなランチパーティーに見えなくもない。


「お疲れ様でしたの乾杯をして、ランチにしましょう、乾杯!」


「「乾杯!」」


そこから3人は楽しくランチ。

とは言っても、昨夜の女子会と同じ。


食べながらヒルデガルドとエステルが話し、リオネルは聞き役だ。

究極のアールヴ族お嬢様とバリバリの人間族秘書キャリアウーマンの会話。


「エステルさんは、お料理はされるのですか?」


「ええまあ、きままなひとりぐらしですから、好きなものを好きな時に作って食べます……でもたまにですね。料理はそう得意でもないですし」


「え? ひとりぐらしって、エステルさんのご家族は?」


「はい、私はひとりっ子で故郷の田舎に両親が居ます。年末年始だけは帰郷しますね」


「じゃあ、お住まいには使用人の方とか、警護の方は居ないのでしょうか?」 


「あはは、ぜんぜんっ、居ません。私のお給料じゃあ、使用人や警護人なんか雇えませんよ」


「うっわ……たったひとりで暮らすなんて、私には想像も出来ませんわ」


官邸暮らしのヒルデガルドは事務官、武官、

そして世話をする使用人に囲まれ生活していた。

たったひとりで居るのはプライベートルームくらいだ。


ヒルデガルドの話を聞き、エステルは言う。


「いえいえ~、慣れたら、かえって気楽で良いですよ。病気になった時は、さすがに不安になりますが」


「えええ? 病気になった時、ひとりで、どうされるのですか?」


「はい、薬飲んで、魔導ポーション使って、治るまで、ベッドへ潜り込んで寝てます。本当にヤバイと思ったら同性の友人にSOSして、看病して貰います」


「はあ~、ひとりぼっちで病気になって寝込む……そんな事になったら、凄く不安でたまりません。やっぱり私、ひとりぐらしは到底無理ですわ」


ヒルデガルドの大きなため息とともに、女子会?は終了。

デザートを食べ、お茶をしながら、話題は料理に移る。


「リオネル様」


「はい、何でしょう、ヒルデガルドさん」


「今日、リオネル様が作るお料理、私とエステルさんはどうお手伝いすれば宜しいのでしょうか?」


「はい、今回に関しては俺が単独でちゃっ、ちゃっとやります。手伝って欲しい時にふたりへ声をかけますよ」


……という事で、リオネルの調理は開始されたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


まずは食材の下ごしらえ。


野菜の水洗いから始まり、

肉の脂身取り、すじ切り、スライス、

魚のうろこ取り、内臓抜き、三枚おろし、

野菜の皮むき、薄切り、みじん切り、などをひと通り行う。


手慣れた包丁さばきを見て、感嘆&興味津々なヒルデガルドとエステル。


「おふたりとも、まずは野菜の水洗いからやってみますか?」


「はい!」

「はい!」


さすがにエステルは経験があるみたいだが、

野菜の水洗いでさえ、ヒルデガルドには初体験であった。


「ご存じかもしれませんが、果菜類は、流水でしっかりと、葉物野菜はたっぷりの水を使い、根菜類は土をしっかり落とすなどを心がけて水洗いしてください」


ふたりに対し、リオネルが曖昧な言い方をしたのは、

調理が全く未経験なヒルデガルドへの配慮である。


「ええっと、リオネル様、こう……でしょうか」


生まれて初めて野菜を洗うせいか、ヒルデガルドはさするように、

おずおずと野菜を洗っていた。


「ヒルデガルドさんは、もう少し力を入れて洗っても構いませんよ」


「はっ、はい!」


一方、エステルは手慣れた感じで野菜を洗っている。


「エステルさんは、大丈夫そうですね」


「は~い! 大丈夫で~す!」


ざ~、じゃぶじゃぶ、ざ~、じゃぶじゃぶ……

ざ~、じゃぶじゃぶ、ざ~、じゃぶじゃぶ……


そんなこんなで、野菜の水洗いが終了。


続いてリオネルは、包丁の使い方に注意をして貰いながら、

野菜の皮むき、薄切り、みじん切り、を教えた。


経験者のエステルは、普通に包丁が使えたが、

刃物という事もあり、ヒルデガルドはおっかなびっくり。


しかし、リオネルは敢えて注意をしなかった。

ぞんざいに作業してけがをするよりも、慎重に作業する事を優先したのだ。


野菜で経験を積み、ヒルデガルドは肉、魚の下ごしらえにも挑戦。


肉は加工済みの肉塊であったから、抵抗なく処理出来たのだが、

魚は少しだけ躊躇した。

生まれて初めて間近で見る、生でそのままの魚に臆したのである。


だがヒルデガルドは、リオネルにフォローして貰いながら何とか処理。


エステルも、同じくリオネルにフォローして貰いながら、

「今までで一番、上手に出来ました!」と笑顔。


「下ごしらえが全て終わりましたから、調理に入ります」


「はい!」

「はい!」


「下ごしらえ同様に、一連の作業は基本的に俺がやります。手伝いの必要がある時、おふたりには随時指示を入れます」


「「了解で~す!」」


っという事で、


じゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃっ!


じゅ~ううう! じゅ~ううう!


じゅわわわぁ! じゅわわわぁ!


調理の合間にリオネルの指示が飛び、ヒルデガルドとエステルがフォロー。

ふたりはリオネルの手際の良さを見て、

「わあ!!」「凄い!!」と、大いに驚きながらもしっかりフォロー。


今回のメニュー数は結構なもの。

故国ソヴァール王国、フォルミーカの山猫亭で習ったアクィラ王国の料理に、

リオネルが見よう見まねで作ったアールヴ族の料理もある。


時間は……あっという間に過ぎ、遂に料理は出来上がった。


大きなテーブルの上に並べられた数多の料理は圧巻!のひと言。


量を食べたランチも既に完全消化。

空腹感が半端ない。


「さあ! 出来立ての温かいうちに食べましょう!」


リオネルの言葉を聞き、我慢に我慢を重ねていたヒルデガルドは、


「いただきます!」


と叫びながら、ぱくっ!とひと口。


もぐもぐもぐと咀嚼そしゃくすると、


「わお! おじいさまのおっしゃる通りでしたわ! すっごく美味しいっ!」


更に大きな声で叫んだのである。

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